第15話

「そういえば、イジッテちゃんの新しい服ってどうなったの?」

 ポームルの村・グラウへと駆け足で向かう道中、不意に思い出して背中におぶっているイジッテちゃんに質問してみた。

 なぜおぶっているのかと言えば、イジッテちゃんの足が遅いからだ。幼女の体だしまあ仕方ない。わりと軽いし問題は無い。

 本来なら全速力向かった方がいいのだろうけど、付いた途端にバテてたら話にならない、体力温存しつつ、でも極力急ぐための駆け足だ。

 あと、普通に怖いので会話でもして気を紛らわせたい。

「どうって、今作ってるんじゃないか?なんせオーダーメイドだからな、それなりに時間かかるだろ」

「……オーダーメイドだったの……?どうりで高いはずだよ!!」

「まあ落ち着け、考えてもみろ、私は基本的にはずっと人間体で居続けるが、この状態から成長することは無いんだ。つまり、一度作れば本当に一生モノとして着続けられるんだ。だったら長持ちする良い服を作って貰った方がむしろ得だろう?」

 ……なるほど、イジッテちゃんは盾だし、太ったり痩せたり身長が伸びたりしないとなれば、安い服を何度も買うよりずっと着られる服を着た方が良いというのは理にかなっているような気もする。

「確かにそうかもなぁ。イジッテちゃんは特に盾だし、相手からの攻撃を受ける事も多いから、安い服だとすぐにボロボロになるかもしれないね。新しい服は、そういうことも考えて作ってあるんだよね?」

「……………………ん?ああ、そうか。……うん、もちろんだとも!}

「なんか変な間があったんだけど……?まさかそこまで考えてなかったとか?シンプルに良い生地使っただけで、盾としての運用まで考えてなかった?それだと高い服もすぐボロボロになって安いやつ買い回した方が良いってことになりませんかね!?っていうか冷静に考えたら、僕とイジッテちゃんって一生モノの服をプレゼントするような関係性でしたっけ!?」

「――――――ひゅー…ふひゅー、ひゅっひゅひー」

 すっとぼけを表現するための口笛!!!しかも下手だぁ!

「ちょっとイジんがぁ……っ!」

 前を先行して歩いていたパイクさんが立ち止まったことで、背中にぶつかってしまった。

「どうしたんで……」

 疑問を投げかけようとした僕の言葉は、パイクさんの鋭い視線に遮られる。

 気づけば周囲の空気は緊張感を含み、肌をチリチリと焼くような刺激さえ感じられる。

 セッタくんも何かを感じ取っているのか、いつでも動ける体制で構えながら周囲を警戒している。

 イジッテちゃんも僕の背中から降りて、特に何か構えをとるでもないけど、何らかの気配を感じているようだ。

 僕も慌てて周囲を見回すが、何も感じ取れてない。

 ここは、林の中を突っ切るように整備された街道で、グラウの村へは一本道だが、村へはまだ少し距離があり、村を襲った連中が見張りを立ててるとしてもまだ先だと思うのだけど……歴戦の武具である3人には感じ取れるものがあるのか…?

 やばっ、めちゃめちゃ緊張してきたな……。

「コルス少年よ、炎の魔法は使えたハズじゃな?」

 セッタくんの突然の問いかけに、「え?は、はい。基礎魔法位なら」と慌てて答える。

「右斜め前、草が少し枯れている場所、あそこに頼む」

 小声でつぶやかれたその言葉に導かれ視線を動かすと、確かに草の色が少し変わっている場所がある。あそこに炎の魔法を使えということか……?

 よくわからないけど、とりあえずやってみよう。……大丈夫かな、森林火災とかで大変なことになったりしない?

「――――ホフラム」 

 掌の上に火の玉が生成されると、色々心配しながらもとりあえず言われた通りの場所に投げつける!!

 当然のように、その辺りの草花が燃え始めた――――次の瞬間、火の向こう側から何かが飛んでくるのを一瞬感じた。

 それは、避ける間も無く僕の目の前まで近づいて――――弾かれた。

 驚きと同時に、鼓膜を震わす甲高い金属音。

 聞き覚えがあるこの音は、イジッテちゃんが刃物を弾いた音!

「おいおい、やらせたんなら自分で責任取れよ……お前も盾だろう?」

 イジッテちゃんのあきれたような声と同時に、弾かれたモノ――――槍だ。草むらから投げられた槍はイジッテちゃんに弾かれて空中で回転し、背後の地面に突き刺さった。

「ほっほっほ、伝説の盾様が後ろに控えておられるのに、ワシ程度が手を出すなど無粋な事では無いですか?」

「お前も伝説の盾だろうが!」

「おやおや、そう言えばそうでしたかのぅ?」

 そんな盾同士のとぼけた会話をかき消すような喧噪が、辺りを包み始める。

 林の中から次々と飛びだして来たモンスターたちが、僕らを取り囲むように円を作る。

 モンスター自体は、昨日洞窟で相手にしたような、この辺りでよく見かけるさほど強くないモンスターたちだが、何かが違う。


 ―――――そうだ、武器と防具だ。


 普段のモンスターは、人間から奪い取った武器や防具をそのまま使うので、同じグループでも持っている武器がバラバラなことが当たり前だ。

 だがこのモンスターたちは、全員同じ武器と防具を身につけている。

 かなりしっかりした鉄の鎧と、少し曲がった刃の剣……曲刀だ。

 しかも傷も少なく、まだ新しいモノのように思える。

 どこかの武器庫でも襲って同じ武器を大量に手に入れたのか…?

 だとしても、あまりにも――――


「来るぞ!!」


 イジッテちゃんの一声で思考は中断され、僕も腰に差していた剣を抜いて構えたたその瞬間、雄たけびを上げて突進してくる一体のモンスター!!

 振り下ろされる剣での攻撃を盾で防いで――――――って、盾無い!イジッテちゃーーん!背中持たせてー!

 しかし、僕とモンスターの間に立ちふさがるように飛び出て来たのは―――セッタくん!

 そのまま相手の剣を手でキャッチして止めるセッタくん。

「ま、復帰戦の相手としてはちと物足りんが、リハビリとしては丁度ええじゃろ。コルス少年、今回はワシを使ってみるか?」

 え?良いの?でも……と僕はイジッテちゃんに視線を向ける。

「なんだぁその目は?「私以外の盾を使うなんて浮気だわ!」とか言うとでも思ったか?洞窟の惨劇を忘れたとは言わせんぞ……私以外で何とかなるならなんとかしな!」

 まあ……昨日の今日ですもんね……ローリング幼女……。

 またグルグル回されて吐かれたんじゃたまったもんじゃないですもんね……。

 それに、イジッテちゃんとしても昔のライバルたちの前で背中の持ち手のとこ触られてエロい声とか出したくないだろうし(?)

「じゃあ、頼むよセッタくん!」

 もう一つの伝説の盾、頼らせていただきます!

「うむ、ワシももう歳での。人間体で自分が動くよりは、上手く使ってもらいたいわい。頼んだぞよ!」

 剣をがっちりつかまれて身動きが取れないモンスターをまずは斬り倒して、一瞬余裕が出来たその隙にセッタくんは激しい光を放ち盾に戻った。

 それを目撃したモンスターたちはざわざわと驚愕の表情を見せている。そうだろうそうだろう。ビックリするよな。

 その隙にズバーーーン!!!

 光ってびっくりした敵をズバーン!

 人間が盾になってびっくりしたモンスターをズバーン!

 盾になったセッタくんを片手に次々にズバーーンと斬りこむ!!

「セコっ!!セコイ!!勇者のやる事か!」

 イジッテちゃんのツッコミは無視する。勇者は負けないことが大事なので!!

「ははっ、良いね少年!じゃあ、背中はアタシに任せてもらうよ!」

「パイクさん!?自分で戦えるんですか?」

「アタシは元々が武器だからね、盾とは訳が違うさ。とは言えまあ、誰かに使ってもらう時の半分の力も出せないけど、こんな雑魚相手なら充分よ♪」


「頼もしい!んじゃまあ、やったりますか!!!」

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