そして、とうとう接点が見つかった。

 翌朝の捜査会議で、山口と河村の所属していた暴走族グループが同じだったことが報告された。十四歳の山口が身を置くようになったときは二十六歳の河村はすでにグループのリーダーを引退していたが、依然幹部OBとしてグループに影響力を持ち、現役幹部たちの面倒をみていた。実際、現在の河村の取り巻き連中の一人は、山口がグループに所属していた頃のリーダーである。

 山口が少年院を出て原田のもとで暮らし始めた頃、『元今飯店』に山口を訪ねてきたのもそのグループの仲間だったと思われた。

 まだはっきりとは特定できていないが、そのとき、山口とその連中の話を原田が聞いていて、どうやら暴走族仲間らしいと思ったと原田は記憶していたのだ。心配した原田が杉原に連絡を取り、杉原はすぐに話をつけた。おかげで連中の訪問はそれきりだった。


 会議のあと、鍋島と芹沢は『元今飯店』に原田を訪ねた。河村忠広の取り巻き連中の三人の身元が判明したため、河村の写真とともに確認を取るためだった。

 開店前の多忙な時間だったにもかかわらず、原田は嫌な顔ひとつせずに二人を迎えて入れてくれた。

「──早速ですが、原田さん。泰典くんを訪ねて来た昔の仲間というのが、この中にいませんか?」

 仕込みで厨房を離れられない原田に、カウンター席から取り巻き連中の写真を差し出して芹沢は言った。

「ちょっと拝見」

 原田は手を洗うと写真を受け取った。そして三枚の写真を一目見た瞬間に言った。

「もうちょっと若い連中でしたよ。泰典と同じくらいの」

「じゃあ違いますか」

「あ、でも」と原田はそのうちの一枚を見つめた。「この男には見覚えがあります」

「どの男です?」

「この男です」

 原田はその一枚を刑事たちに向けた。三人のうち一番年上の、岸田きしだという三十歳の男だった。

「ここへ来たことがある、ということですか?」

「ええ。客としてね。……春頃やったかな。また別の男と一緒に、あそこの隅っこの席に着いて普通に食事してました。特に何も言いませんでしたが、泰典がちょっと動揺していたようなので気になって、あとで誰なのか訊いたのを覚えてます。泰典は知らないと言いましたけど」

「そっちの二人とは違うんですね?」

「違います。この男と同じくらいか、少し年上のようでした」

 原田は言うと三枚の写真を芹沢に返してきた。

「ひょっとして、この男ですか」

 今度は鍋島が河村の写真を出した。原田は受け取った。

「──ええ、そうです。この男です」

「間違いありませんか?」

「……うん、ええ、はい。間違いありません」

 鍋島に写真を返し、原田はまた手を洗うと中華包丁を持ち直して言った。

「やっぱり、その連中も仲間やったんですか」

「ええ、まあ」

 二人の刑事はどちらからともなく顔を見合わせた。これで完全に山口と河村のつながりが確認できたのだ。山口を訪ねて昔の仲間が店に来た。杉原がその連中を追い払ったあと、しばらくして河村が子分を連れて現れた。山口は動揺した。そしてきっと、もう一度杉原に相談したに違いない。

 そんな推測を巡らしている二人に、仕込みに戻っていた原田が突然思いついたように顔を上げ、そして驚くべきことを言った。

「──そうや。確かそのとき、杉原さんご夫妻も来られてたな」

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