6-3 晩餐 中
「セラブレイト、どういう事だ。お前は…」
「王女、ここは駄目だ。一先ずさっきの部屋へ。それまで喋ってはなりません。あれは恐ろしい強さを持っています。どこかから聞いているかも知れない。」
それからはセラブレイトに何を聞いても首を振るだけで、部屋までただ手を引かれていた。あまりに強い握力に恐怖と、説得しなければという義務感があった。
応接間には既に誰も居なかったが、明かりがついたままだった。
「消したはず、ですよね。やはりここも安全ではないか。王女。いまから指で文字を書きます。それで会話をしてください。」
どうやら少しも信用できないようだった。
『私のタレント、人の善性悪性を見抜くものなのです。これは今までの冒険の中、常に正しかった。』
『それで彼が悪だと?バカバカしい。それは彼がアンデッドだからだろう。そんなもの、彼の治世を見れば。』
『違う。あり得ない。あいつ程の悪性は見たことがない。私も冒険者として様々な邪悪な存在を見てきました。だがあいつは。上級悪魔でもあれ程じゃない。』
『しかし、彼は常に他者を慮っていた。臣民は幸せそうだ。』
『本当に?皆が?全てを見ましたか?あいつは見せたいものしか見せないはずです。思い出してください。』
その時、初めて彼についてその行動を見つめなおした。
彼との出会い。たしか彼は突然現れた。崩壊の瞬間。儀式から一分以内。どうやって。転移しかない。しかし、転移は見た事のある場所にしか不可能。あそこは城の最奥。この200年、あの時しか開けていない。
見ていた。あの現場を。なぜ。魔法の発動前から。儀式に気付いて?いや、彼は魔法の衝撃と言っていた。矛盾?
『思い当たる節が有るんでしょう?』
しかし彼は救ってくれた。彼の強大な魔法で。そう、救えた。あの魔法からさえ。ならもっと前に戦争を止められたはず?見て見ぬフリをした?
『奴は平和裏に事を進めようとしている。今ならまだ、取り返しのつかない所までは来ていないはずです。』
平和。そうだ、平和だ。彼の目的は平和の立役者になることだっだ。見殺しにした?我々を。
『他の犠牲を、苦しみを、エゴのためには気にしない。そういった輩が悪性を示すのです。奴はどうでした?』
そもそも法国の援助が老人達だったのは彼、魔道王が居たから。逃げられなかったのはカッツェ平原に霧のせい。
『そもそも何故、あいつを信頼したのです。何かされたのではないですか?』
彼を信頼したのは。彼を信頼したのは。きっかけはメイドだった。何所までも主を信じていた。
それに彼は良く民の事を考えていた。子供みたいに純粋に夢を語っていた。
それに、私を嫁にしたいとも言っていた。嫁に。彼は人ではなかったが、それでも優しく、私を喜ばせたがっていた。そうだ、さっきの料理だって。
普通、最高級の肉といえばドラゴンの肉だ。彼だって持っているだろう。私の出自を考えて、秘蔵の肉を選んでくれたのだろう。アインズは。
「セラブレイト。言ってなかったな。私は彼の嫁になったんだよ。信じている。敬愛もしている。かれは優しい男だよ。
もう言うな。謝ってくる。お前も、少し休め。復活したばかりだ。色々見てからでも遅くなかろう。」
立ち上がるセラブレイトを無視し、走り出す。扉の先には無骨な聖杖をもったメイドがいた。目で合図をし、その場を任せた。
アインズがあのステーキを前に悲しんでいる、そう思うと不思議と疲れは感じなかった。
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