婚約者は年下の王子様!?01

♢ ♢ ♢







「へ?」


 我ながら間抜けな声が出たと思う。今、彼は一体何を言っている?混乱しかけた頭を一度大きく振る。一旦、わかっていることを整理しよう。


 わかっていることその1。10年前に結婚の約束をした。

 つまり彼は私の「婚約者」ということになる。

 

 わかっていることその2。彼の名前は「レイ・ガルシア」。

 「ガルシア」と名乗ることのできる人は限られている。ただの人がこの名を名乗ることは許されていない。許されているのは、この『カトレア』の国で唯一……。


 わかっていることその3。目の前の彼は20はいかないくらいの少年。年が18ならば、あの人物しか思い浮かばない。


 そこまで考えて、いやいやと頭を振る。あり得ない。だって、そんな人が一体なぜ一介の令嬢の家にいるのだ。クレメンス家が貴族の家柄といえど、国の中枢にも関わっていない中流貴族だ。それに自らを一介の令嬢、それも大して若くない「アラサー令嬢」の私の婚約者だという。数々の美しい令嬢たちとの婚約を断っておきながら、「アラサー令嬢」はないない。


 脳裏に浮かんだ可能性を振り払うために一つ大きく頭を振っても、相変わらず“彼”は私の前に跪いたままだ。その姿は、姫に忠誠を誓う王子や騎士のような佇まい。上から見下ろすと品のあるジャケットの襟に艶のある柔らかそうな亜麻栗色の髪がかかっている。煌めくエメラルドグリーンの瞳は、今は細く細められている。添えるようにして置かれている手は、私よりもがっちりとしているが温かい。そして、薄桃色の上品な唇をわずかに上げ微笑んでいる。その唇が先ほど私の左手の甲に……と考えてボッと顔が熱くなる。単純に男性に対する免疫がないのだ。仕方がない。前世でも婚期を逃し、現世でも親しい男性はいない。そんな人いたら現世でも婚期を逃していない。いかんいかん、話が脱線してしまった。


 でも、もし“彼”が『私の思っている通りの人なら……』、まずい。この状況はまずい。一介の令嬢が跪かせては、いい人ではない。けれども、ここで私ごときが『立ち上がってください』と言ってもいいのだろうか。下手をすれば命令とも取れる。下手をすれば失敬罪になってしまうのでは?


 それとも、これは何かの罠!?何かの事件に巻き込まれているの?前世で享年27歳。現世でも享年27歳。一度あることは二度あるの!?


 そんなことを考えて、あーでもない、こーでもないと頭を抱えて唸っていると


「ふふ……」


と目の前の人物は右の手のひらで自らの口元を翳した。


わ、笑った!?え!?私、今何か変なこと言ったっけ?もしかして、考えていることが口に出ていた!?オロオロと狼狽えていると


「赤くなったり、青くなったり……」


彼はクスクスと笑う。


「全く……貴方は、本当に可愛い人ですね」


 そういって本当に楽しそうに笑うもんだから、私は呆気にとられて“彼”の顔にしばらく見惚れる。けれども、なぜだろう。どこかで見たことがある笑顔のような気がした。


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