scene72*「ごほうび」


美味しい餌があるほうが頑張れるっていうけれど、そのごほうびが大きければ大きいほど、気になって手につかないことだってあるのです。




【72:ごほうび 】




始まりは、何てことない「言ってみただけ」ってやつの冗談だった。




学食でいつものようにお気に入りの280円ナポリタンを頬張っていたら、教室へ戻る途中であろうユウマ先輩がふらりと私のところへやってきた。

ユウマ先輩は同じ生徒会に所属する1つ上の3年生で、超がつくほど真面目な先輩だ。

私はいささか緊張し、咀嚼もそこそこにナポリタンをごくんと飲み込んだ。


「おい、イクシマ。こないだの生徒会の会議、議事録まとめといてくれた?」


なんだ。そんなことか。

そんな風に思った私は「それならもうバッチリっすよ!」と調子よく返事をした。

するとユウマ先輩はいつもの無表情を当然変える事なく「そうか。予算編成についてちょっと確認したい項目あるから確認しても大丈夫だな」と言ったので、思わずその一言にギクリとなった。

もちろん会計担当の細かい彼は、私のリアクションを見逃すことなく疑いの目で静かに睨む。

まさに蛇ににらまれた蛙……いやいや、か弱いジャンガリアンハムスターのごとく縮こまりつつも、保身に走るべくすぐに自白の体制へと入った。


「……あれ?ど、どうだったかな~……具体的な数字……」

「お前、メモってたじゃん」

「えと……それがですねぇ…………洗っちゃっ……た」

「は?」

「……あの……洗っちゃい……ました」

「はぁ!?」


ユウマ先輩は語気を強めて確認するかのように言ったけど、確認されたってもう2回も言っているのだからそれが答えなわけで……。


そう。こないだの会議でメモしましたとも。金額の詳細をね。


それをそのまま議事録ノートに挟んどけばいいものの、家で綺麗に清書し直そうと思った私はそのメモを安易にポケットにしまっちゃったわけよ。

おまけにそれをすっかり忘れて、その後トイレから出た時にハンカチをメモのポケットのほうに雑に突っ込んで、帰ってからハンカチを洗濯機へと出したところメモも一緒くたに放り出しちゃったようで……。


次の日お母さんには、滲んでボロボロになった紙片を提示され『ティッシュだか何だかしらないけど、紙を洗濯機へ入れるな!!』とめちゃくちゃ怒られた。

当然、メモはゲルインクのペンで書いたからもう残念なくらいに解読不可能!

それでもお金の細かい内容なんて会計担当の先輩がメモってるだろうし、書記の私は会議の内容を簡単に記録すればいいだけだし議事録は何とかなるっしょ!って昨日仕上げたばかりだったのだ。


私は一縷の望みをかけて、ものすごーく下からお窺いをたてた。


「でも先輩もメモ取ってますよね……」

「当たり前だ」

「なーんだ、じゃ大丈夫じゃん」

「俺の記録した内容と議事録がちゃんと合ってるか照らし合わせたうえで、文化祭予算書を提出するつもりだったんだ!」


油断した矢先に強く言われて、うひゃあ!と声が出そうになった。と同時にちっとも反省してない私は、メモとってんなら解決してそうだし、早く食べかけのナポリタンを食べてしまいたいと思っていた。

……ほんと我ながらテキトーな人間だなぁと思うけど、そもそも生徒会の仕事なんて自分が志願したわけじゃないからあんまりやる気がおきないのもしょうがない。

だって私は、幼馴染のアンちゃんから誘われて入っただけなんだもん。


アンちゃんは幼馴染みの1個上の先輩で、私も所属している女子剣道部の主将を務めている。

昔っから学校生活には積極的な彼女は、私が入学した時にはすでに生徒会の副会長になっていた。

そんなアンちゃんから剣道部に体験入部ついでに生徒会に誘われたのだ。まるで「オススメのカフェがあるんだけどちょっと寄ってかない?」と言わんばかりに。


最初はめんどくさそうだしって断るも、生徒会室にはお菓子も食べ放題だし、先生と手っ取り早く仲良くなれるから印象いいし、内申にもプラスになるよってオイシイ特典をぶら下げられた私は「何だかお得そうかも?」と思い至りちょろいことに生徒会役員になったのだ。

まぁ、アンちゃんからしたら付き合いやすい知り合いを引き込みたかったのかもしれないけれど、私はまんまとそれに釣られたというわけだ。


そしてそんな体育会系な女帝の尻拭いを一番に受けているのが、目の前にいるユウマ先輩だ。

ユウマ先輩の役職はもちろん「会計」。

この勘定奉行な先輩が本当にシッカリしているからこそ、うちの生徒会運営は先生やPTAにも信用してもらえていると言っても過言ではない。

けれども私はそんなユウマ先輩がちょっとだけ苦手だった。だって何考えてるか分かりづらいんだもん。


私は「うへへへ……すいませーん……」と小さい声で形だけの謝罪をしてみると、ユウマ先輩は私のこの態度に慣れっこなのか呆れるようにため息をつきながら、

「いや、まぁいいけど今度からしっかりしろよ。食べてる時に悪かったな。あと、放課後の召集も忘れんなよ」と学食を去って行った。


彼の背が見えなくなると、ほぉ~~~っとため息が出て椅子からずり落ちる。

そんな私を見て、同席していた同じ生徒会の副会長を務めるヨネと、同じくクラスメイトのリサがケタケタ笑った。

ヨネはいつものおっとり菩薩スマイルをしたので、私はこの後にくる毒舌を覚悟した。


「相変わらずユウマ先輩ってしっかりしてるよねぇ~って、ホントにイクちゃんっておっちょこちょいが度を過ぎてるよねぇ」

「あー面白かった!ほんとイクの顔が超蒼ざめてて必死で超ウケたwwwww」


マジうけしてるリサに「そんなに笑わなくてもいいじゃん」とふてくされながら、私はナポリタンをもう一度ほおばった。

あー、ほんとどんなに辛い事があっても、この学食ナポリタンがあれば生きていける……と思うくらいに好きな食べ物だ。毎日食べても飽きないなんてほとんど病気なんじゃないかと思う。ナポリタン病。


「けどさー、イクが生徒会ってほんとにガラじゃないよね」

「んなこと言ったって私こう見えても2年目ですから!」

「でも1年の時はほとんど当時の会長が書記も兼任してたじゃない」

「あれは……アンちゃんの前の会長がなんか細かい人でさぁ。なんか自分で記録を残したいってタイプだったんだよね。だって高校生にして、自分のタブレット持参してまでその場で打ち込んでんだよ?ビョーキだよビョーキ!」

「じゃあイクは会議ん時何してたの」

「え?何もしてないけど。ノート取るふりして何にもしてなかった。しいて言えば……落書き?」

「まぁそれで2年になって書記仕事なんて、そりゃあ慣れない仕事だわね」

「いや!中身は完璧だよ!?何せ私は硬筆は毎回金賞ですから!書道は段持ちですから!書道コンクールに毎回選ばれてますから!!」

「すごいすごい」「めっちゃすごーい」

「ちょっと!何で棒読みなの!?」


大笑いしながらコントのようなやりとりを友人と交わすも、心の中では今日の放課後にユウマ先輩と顔合わしたくないなぁ~と既にバツの悪さを感じ始めていた。



放課後、生徒会室に向かうと既にユウマ先輩と生徒会長のアンちゃんがきていた。

生徒会室は部屋の真ん中にロを書くように机が並べてあり、アンちゃんは入り口から正面の窓際の席で漫画を読んでいた。

机には他の巻と思われる漫画が何冊か積んであり、隣にはポッキーやチョコの箱が散乱している。まるでやりたい放題の殿さまのようだ。

ユウマ先輩はというと、既に議事録と予算書を照らし合わせながら生徒会用のノートパソコンで静かに書類を作っていた。

私はいつものように書記の定位置である入り口前の席に座ると、アンちゃんが読んでいる漫画から顔をあげて尋ねた。


「あれ?ヨネは一緒じゃないの」

「ヨネんち和菓子屋じゃないですか?何かお客さんの注文準備で手伝わなきゃいけないらしくて帰りました」


するとユウマ先輩が珍しく会話に入ってきた。

「ヨネん家って青海屋だっけ。俺あそこのどら焼き好き」

「ユウマ先輩、どら焼きなんて食べるんですか」

「悪いかよ」

「だってお紅茶におクッキーでも食べてそうなイメージですもん」

「お前バカにしてんのか」

「冗談っすよ」

「まぁまぁ二人とも。今日の召集も大したことじゃなくて、再来週からの1学期の期末考査に伴う各部活・委員の活動停止期間の確認だから。ってことで生徒会も1週間前からお休みってことで、その連絡ってだけだったんだわ~」


アンちゃんは笑いながら今日の召集の理由を言ったので何だか拍子抜けしてしまった。

それならグループメッセで良かったじゃんと言うとアンちゃんはお菓子を一口つまんであっけらかんとした。


「だってさぁ~ちょっとおしゃべりしたいじゃん?一応これも召集会議ってことで活動になるし、ユウマも一応仕事してるわけだし?」


間違ってないもんねとしたり顔でアンちゃんがユウマ先輩に視線を向けたところで、予算書の作成が終わったのかユウマ先輩はパソコンをパタンと閉じ、バッグから教科書とノートを出した。

今度は勉強をし始めるだなんてどこまでも真面目な先輩だ。

たしかに今日は部活が休みだし、アンちゃんの退屈を持て余す気持ちも分からなくはない。

実際もうすぐテストにも入るし、ユウマ先輩を見習って私もちょっとだけテスト対策をしようかな……と手持ちのノートを鞄から出した。


しかしノートを広げてみてもまとめ直そうという気持ちは全くおこらない。

当たり前だ。だってノートが綺麗なことだけは唯一誇れる自分の長所だったりするんだもん。短所と言えばそれが頭に入らないところなんだけど。

だから私のノートまとめはただの自己満足な無駄技術であり、勉強とは呼べない代物だ。

それに比べてユウマ先輩はすごく勉強してるんだろうな……そう思って先輩が広げてるノートを横眼でちらりと見ると、私の目に飛び込んできたのは意外なものだった。


いや、意外じゃないかもしれない。

前から少しだけ気付いていたけど……やはり見間違いなんかじゃない。

そう確信した時には、バカで正直者な私は口にしていた。



「前々から思ってたけど……ユウマ先輩、字きったないっすね」



もちろん悪気があるわけじゃない。だけど、やはり何回見ても字が歪んでいるくらい汚い。というか、解読ができない。

これは何かの古文書を解いているんだろうかと思うほどだが、教科書を見るとどう見たって政治経済のノートには違いなさそうだ。

……まさか教科書を古代文字に翻訳しているわけじゃないよね?

ユウマ先輩は私の言葉にピタリと手を止め、いつものようにじとりと睨む。


「うるさい……わかってるっつーの」


不機嫌に言った先輩は再びノートに視線を戻した。

少しだけ気まずそうにしているあたり、どうやらコンプレックスに感じているようだ。っていうか、字は汚くても成績良いんだからプラマイゼロじゃない?

何だか面白くなって私はつい調子に乗る。

だっていっつも私のほうがユウマ先輩にいじられてるんだもん。性格悪いと言われても上等だ。


「清書したげましょうか?私、段持ちですよ?ほらほら、ノートだけはキレイだし!」


私はちょうど手元に出していた数学と世界史のノートをここぞとばかりに先輩の前に広げた。

ユウマ先輩はまた迷惑そうな顔を見せてから……私のノートを食い入るように見始めた。

そしてパラパラと他のページも何かを確認するかのようにしてめくっていく。


「まじか……ほんとだ」


ほぉ~ら、食いついてきた。

私のノートを見た友達はみんなこのリアクションをするのだ。って失礼な話だけれど。

ノートを見つめるユウマ先輩がよほど面白いのか、アンちゃんはウケていた。


「イクのノート綺麗なの超意外っしょ?まぁ議事録もイクの清書綺麗だし、ほんとスカウトして良かったわ~。急遽必要な題字も頼めるし、生徒会自慢のご祐筆係よ」

「いやぁ~それほどでもぉ~」

いつものコントよろしく、おだて上手なアンちゃんに乗せられていると、ユウマ先輩がふいに口にした。


「イクシマ。試験対策ノートって、もしかして清書できる?」

「え?」


しかしユウマ先輩はすぐに我に返って、「いや……やっぱ時間ないよな。悪い。なんでもない」と訂正をしながら私のノートを返した。

そこで調子の良い私はうっかりと、本当に思い付きの軽い気持ちで「あ、でもぉ~何かごほうびくれるんだったら手伝いますけどぉ~」と冗談っぽく返してみたら「あほか」とユウマ先輩に小突かれてしまった。


「ですよね。そんなの頼むのユウマ先輩っぽくないもん」

「ユウマ、イクに頼んじゃえば満点取れるかもよ?」

「ノートで満点とれたらとっくに一位だっつの」


アンちゃんのツッコミにつられて笑ってしまった。それはそうだ。だってノートで満点とれるなら私だってとっくに一位のはずだ。

それにしても、頭のいい人は字が汚い場合が多いって説は本当なのかもしれないな、なんて思っていた翌日。


またも昼休みにナポリタンを食べていた私の前に現れたユウマ先輩は、2冊のノートを私に差し出した。

1冊は昨日の試験対策ノートともう1冊は新品のノートだ。

何事だろうと思ってユウマ先輩を見ると、少しぶっきらぼうな感じで言ってきた。


「やっぱお前のノート見やすいなと思ったから……まかせる」

「えっ」


私の顔がよほど間抜けだったのか、ユウマ先輩は冷静に「なんつー顔してんだよ」とつっこんできた。

私はフォークを置き先輩のノートを広げ一通り見ると、まとめてほしいところだけ付箋が貼ってあった。これならまとめるのにわかりやすそうだ。

……ただし書かれている文字以外は。


「先輩……これ、解読作業から始める必要があります」

「そこまで酷くないだろ」

「冗談ですって。大丈夫です。超絶美しいノートに仕上げてみせま~す」


おどけて言ったところに先輩は私の手元に何かを置いた。

見たら小さな子供がおやつに食べるようなミルクビスケットの小袋だった。


「とりあえず前払いしとく。できたら教えて」

「え、言ってみただけだったのに」

「悪いだろ」


私の中では冗談のつもりで言っただけだったのに、まさか本気にとるなんて思っていなかった。

けれど、これはこれで先輩の気持ちだから断る理由なんてないと思い有難くそのまま受け取った。パッケージを見ると苺クリーム味と書いてある。

ポカンとしている私に、じゃあと言い残してユウマ先輩はさっさと学食から出てってしまった。


「なになに、ユウマ先輩に何頼まれたの」


昨日よろしく、目の前のリサが興味津々に聞いてきたので事のいきさつを話すと、私の隣に座るヨネが「へ~。ユウマ先輩が。じゃあ気合い入れて作んなきゃね」と意味深に微笑んだ。

まぁ、あの汚いノートをあらたにまとめなおすのだから気合いを相当入れないといけないことは確かだ。

それに1年後の私の頭にも知識が残ってるかもしれないし……とありえないことまで期待してみつつ、とりあえず今日から空き時間にでも取り掛かろうと思った。

って、ユウマ先輩、私もテスト期間入るのは同じなんだけど~……。



* * * * * * *




それから、私の「ごほうび付きお手伝い」がはじまった。何てゲンキンな話だ。


家に帰って夕飯を食べ終えた私は、ドラマに誘う妹の誘惑も断り、部屋にこもるとすぐにもらったノートを広げた。こういう無駄な事においてはやる気は充分だ。

テスト対策ノートは1冊のノートにまとめれば良い話なので、教科別にインデックスを貼ってからノートの解読を始める。

かろうじて読める乱暴な文字に、のっけから思わず吹き出してしまった。


クールな顔してこんな乱暴な文字だなんてよく本番で減点されないもんだ。

先輩らしくないのか、それともこっちがホントの先輩なのか。


定規を使い赤ペンを使い丁寧な字に変換する作業。これくらい自分の勉強に向き合えたらと嘆くくらい我ながら集中した。

汚い字に四苦八苦、ときに笑いながら政経のノートを写しまとめた私は、翌日にすぐさまユウマ先輩に返しに行った。

教室から出てきたユウマ先輩は意外にも無表情なりに驚いていた。


「もうできたのか」

「こういう仕事だけは早いんです」


するとユウマ先輩は「ちょっと待ってろ、またノート貸す」と、すぐに別の教科ノートを机から持ってきた。

そしてこのノートのごほうび分だと言って一緒にスティックタイプのチョコレート菓子を箱ごとくれた。

もらえるお菓子なら何でもいいと思う私からしたら充分な報酬だ。


「え~?またもらっちゃっていいんですかー?」

「俺には書けない字だからな。当然だ」


ほんとはそんなこと思ってないけど口先だけおどけて言ったら、あのユウマ先輩がふっと微笑んでくれたように見えて、私は呆気にとられそうになった。

けれどそれはほんの一瞬のことだったようで、気が付いたらいつもの無表情なユウマ先輩に戻ってしまった。

何となく勿体ないような余韻が心に残ったけれど、私は調子よく「じゃあまた張り切りまーす」って返事をして3年生の教室を後にした。


教室まで戻る間、私は胸元で抱えたノートを何となくぎゅっとした。

それは変に胸がざわついたからかもしれない。

だって2年も一緒に生徒会にいるけれど、ユウマ先輩のあんな顔は見たことなかったから。


一瞬を掠めていくような柔らかい表情は、ノートを返しに行くたびに見る事ができて、それはそれで何だかもどかしい気持ちが募っていく。

見れるのはほんの一瞬で、それを見逃したらいつも私の知ってきた先輩になってしまう。

そのたびに「あぁ、もうちょっと見てみたかったのに」と勿体なく思ってしまう。

正体の分からない自分の気持ちと同じく「ごほうび付きお手伝い」のノートは順調にページ数が増えていった。


その中で、毎日ノートを見ていて気がついたことがあった。

その夜もユウマ先輩からもらったお菓子をつまみつつ進めていて、やっぱりこのノートもだと思い私は手を止めた。

先輩のノートを目の前に掲げて、それをしげしげと見つめた。頭の中で今までのノートも思い返しながら。


化学や英語、倫理や古典。

確かにどれも字は汚いけれど内容はよくまとまっていて思いのほか見やすいのだ。

グラフや表、要点など必要最低限の情報しか本当に書かれていない、まるで参考書のようだ。見る人が見ればユウマ先輩のこのノートだって充分だし遜色はないと思う。

やはり私なんかとは頭の作りが違うんだなぁ。

ユウマ先輩がどれだけ一生懸命授業を真面目に取り組んでいるのかがよく伝わってくる。字だけ綺麗な私とは全然違うのだ。


私はまたペンをとり清書作業を再開させた。

けれど私はこうも思っていた。

真面目なユウマ先輩が頼んできただなんて、何だか私の字を認めてもらえたような……褒めてくれた気がして、ちょっとだけ嬉しいし誇らしいなって。


すると、ふと、一瞬微笑んだユウマ先輩の顔が浮かんだ。

最初に奇跡の一瞬のように微笑んでから、最近は前よりもユウマ先輩の雰囲気が柔らかくなっているような気がする。

私の調子のよい喋りに呆れつつもフッと笑う瞬間が待ち遠しくて、私はまたふざけ始めてしまう。


……思ったより、可愛いんだよね。


笑うと少し雰囲気が幼く思えたから、思いっきり笑ったらどんなだろう。

そもそも、思いっきり笑う事なんてあるのかな。

考えたことなかったけど、ユウマ先輩は何が好きなんだろう。勉強以外で。


「私、ほんと気にしたことなかったんだな……」


ノートとお菓子だけのやりとりがちょっと楽しいだなんて変だ。

しかもあの何考えてるか分からないユウマ先輩が相手なのに。


……それなのに、どうして今ユウマ先輩が頭に浮かんでいるんだろう。


私は走らせていたペンを思わず止めて、しばらくそのことを考えていた。



* * * * * * *



翌日、休み時間にせっせとノートをまとめていると、ヨネが傍へやってきた。


「イク、人のノートなのに何だか楽しそう」

「まぁね。なんかこれが人のノートだと思うとより燃えるってもんよ」

「で、イクは自分のテスト勉強どうなの」

「…………やばい」

「人のノート作ってる場合じゃないんじゃない?」

「や、でもこれが最後だし!」


ヨネのずばりに、私は言いよどみながらもノートをまとめる手を休めなかった。

むしろ、これが最後のノートになるのが少しだけ残念な気さえしていた。

結局昨日はあんまりノートが進まなかった。

頭の中がやけにまとまらず、集中力をすっかり欠いてしまったのだ。


普段にこりともしない先輩が引き換えのお菓子を私に渡すとき、ゲンキンな私に呆れつつもかすかに笑ってくれる。

たったそれだけのやりとりなのに、前まで少し苦手に感じていたことすらすっかり忘れてしまったほど今日の私は変だ。


今日中にノートを完成させて渡しても良かったけれど、もうちょっと中身をきれいに見直したくて結局持ち帰ることにした。

それになんか落ち着かない気持ちでユウマ先輩の前に何となく出たくなかったから。


今夜じゅうにきちんと完成させたら、今度こそ自分の勉強をしよう。

先輩のノートをまとめ直したスキルのおかげで今度から自分のノートも前よりかはまとめやすくなりそうだし、きっとこの後ろ髪を引かれるような気持ちもまとめ上手なノートをもう参考に出来ないという心残りに違いない。

どうせ夜更かしになってしまいそうだから気晴らしにお菓子でもつまみながら作業しようかなと思った私は、学校帰りに最寄り駅のスーパーに寄ることにした。



夕方の駅前スーパーに行くと、店内は買い出しに来た主婦で結構混雑していた。

私は商品棚の上にあるカテゴリで『お菓子』の字を見つけると気持ち足早に向かった。

チョコレート菓子は外せないしお煎餅も捨てがたいなとノンキに考えながら目的のコーナーへ辿り着くやいなや、私はつい咄嗟に身を隠してしまった。


何でかって。

そこにはユウマ先輩がいたからだ。


隠れる必要もないのだけれど、ユウマ先輩は友達と一緒にいるようだったし、ユウマ先輩の姿が目に入った瞬間に、やっぱりあの気持ちを思い出してしまったので何となく出て行きづらかった。


私はとりあえず商品棚を挟んで一つ隣のコーナーに移った。

しかしそこは乾物コーナーで、少々の時間をつぶすにしたって面白いものではないけれど仕方がない。

ちょうど棚の向こう側にいるのはユウマ先輩がいるあたりだと思った時に、二人の会話が聞こえた。


「で、ユウマ、今度は何買うの」

「ビスケット詰め合わせ的なやつ。何か沢山種類入ってるし、そのまま全部やってもいいかなって」


多分、私へのお菓子の事だとすぐに思った。なるほど。

先輩はいつもここで調達してたわけか。

そういえば毎回違う色んな種類のお菓子は詰め合わせの中の一つかみぽかったと、今までのお菓子パッケージを頭で思いめぐらせた。

まぁ、そろそろ夏に向けたレモン風味のホワイトチョコがかかったスティックビスケットをくれてもいいんだけどなぁと調子づいた事を思うと、ユウマ先輩の友達は少し鼻で笑いながら言った。


「お前も大変だな。餌付け」

「そんなんじゃねーよ」

「お菓子一つで手伝ってくれたら後輩とかコキつかいまくるっつの」

「だからそんなんじゃねーし。……でも、何もないよりかいいだろ」


ユウマ先輩は、ハッキリと『そんなんじゃない』って否定してくれた。

それはすごく正しいと思った。

……けど、それでも私の中で何だかショックだった。

いや、落胆って言葉がしっくりくるかもしれない。

先輩の声色だっていつもと変わらない、素っ気ないものだった。

いつもと同じだ。


それなのに、優しさがちっとも含まれていない素っ気なさだった気がした。


あくまで申し訳程度にお菓子をつけてるって言われたみたいだった。



もちろん、お礼としては当然のルールってのは分かってる。

何もないよりかいいって言う事だって分かってるよ。


でも……私、バカみたいだ。

たかがお菓子で、あんなに嬉しくなって。


肩にかけていたバッグを握る手に、思わず力が入る。

どうしてだかわからない。

腹が立ってるのか、悔しいのか、悲しいのか……自分の気持ちなのにちっとも分からない。

それでもいつもの調子の私で、ユウマ先輩に話しかけに行く勇気まではない。


どのくらいそこに立ちつくしていたのか。

気が付いたら先輩たちの声は聞こえなくなっていて、お菓子コーナーを覗きに行ったらもうそこにユウマ先輩はいなかった。

私はとりあえずテキトーにお菓子を選んで会計を済ませてスーパーを後にした。


電車に乗り自分の家の最寄り駅で降りて、家まで歩きながらユウマ先輩とその友達の会話を思いだしたら、ふいに涙がポタポタと頬に流れた。

夕方だし犬の散歩している人がいてもおかしくないのに、まわりに誰もいなくてよかったと思った。

何なんだろう。何で私は泣いたりしているんだろう。

まるで潰れるような鈍い胸の痛みの正体は一体何なんだろうか。

どうしてこんなに……落ち込んだ気持ちになっているのだろう。


……そうだよ。


最初から先輩は私のノートの字が目的だったし、私もそれをひけらかしてた。


だからこんな風に傷つく理由もないし、ただそれだけなんだ。



なのに、私は少しずつ何を勘違いしたんだろう?

ノートを返しに行くたびに言われるお礼が嬉しかったから?


違う。


お菓子を渡される時の先輩のはにかんだ顔が好きで、また見たくなって……。

本当は、そっちが嬉しかったんだ。

でも先輩からしたらそんなのは何とも思ってない。

当たり前だ。

舞い上がって勝手に嬉しくなってたのは……私だけだ。

勝手にユウマ先輩を近くに感じるようになってたなんて、完全に私の一人相撲だ。


そう考えるとますます辛い。けれど、それももう今夜で最後だ。

だって今預かっているノートが最後なんだから。

私は涙を拭うと、とぼとぼと歩き続けた。



* * * * * * *



私は休み時間にユウマ先輩の教室へ行った。

3年生の教室のあるフロアは他の子はみんな緊張するって言ってたけど、私はアンちゃんのところへ遊びに顔を出す事もしょっちゅうだったからそんな事感じた事もなかった。

けど、今日は何だかみんなの言っていた事が少し分かるような気がする。

ユウマ先輩を呼び出してもらっている時、めずらしく緊張して手に汗をかいていることに気付いた。こんなの自分じゃないみたいだ。


「待たせた。ノート、まとめてきてくれたのか」


ほどなくしてユウマ先輩がいつものような無表情で出てきた。私は先輩に2冊のノートを差し出す。

昨日はあれから、ノートを完璧に仕上げた。

我ながら文句も言わせないほどの仕上がりとなった美しいノートを改めて見返しては、無駄に胸がぎゅうと潰された気分になった。

ユウマ先輩を前にした今は、昨日の帰り道より何倍も苦しい気がした。

思い出しそうになる色んな気持ちを押し殺して、私はいつもの能天気な笑顔を作る。


「もう、テスト期間は一緒なのにホント先輩容赦ないっすよ」

「今回はホント悪かった。ほんとありがとな。てことでご褒美」


ユウマ先輩はお礼を言うのと同時に、お菓子の詰め合わせの袋ごと私に差し出した。多分、昨日のやつだと思った。

いつもならヘラヘラしながら「ご褒美わっしょーい!」ってすぐに貰ってた。

……だけど、私はそうしなかった。

今だけじゃない。

これから同じような事があっても、受け取らないつもりでいた。


「はは……いらないです。てか言ってみただけだし」

「イクシマ?」


自分から出た乾いた笑いは本当に無意識だった。

けれど、聡いユウマ先輩は何かを感じとったらしい。それならこっちだって都合が良いや。


「ごほうびなんて、先輩真に受けすぎっすよ。今までも結構もらったんで、今日はいいです。トモダチと食べちゃってください」

「いや、俺くわねーし」

「私、ダイエット始めたんすよ。てことで、次の授業の準備もあるんでもう行きますね」

「ちょ、イクシマ!?」


私は踵を返すようにしてすぐにユウマ先輩から離れた。

ただの早歩きが、だんだんペースが上がり、階段なんかほぼ駆け足で降りた。

すれ違った先生に危ないと怒られたけれど、謝る余裕なんかなかった。

そんなことより早く自分の教室に戻って机につっぷしてしまいたかった。


「イク!?そんなに走ってどうしたの?」


トイレの前を通り過ぎたところで、まさにそこから出てきたヨネに呼び止められて私は足を止めた。

ヨネが何だか怪訝な顔をして私に近づいてきたので、どうしたのかと私が聞くとヨネは「それはこっちのセリフ。なんか、酷い顔してる」と逆に言われてしまった。


「なんもないよ……」

「嘘だ」

「なんで」

「だって、こんなに悲しそうなイク見たことない」


私はそのヨネの一言で、心の何かが崩れたことが分かった。

胸の内側がヒリヒリ痛くて、こらえていた涙がつい溢れそうになる。

ヨネはいつもと様子が違う私に一瞬驚きながらも、優しく尋ねてくれた。


「……ユウマ先輩と何かあった?」

「何もないよ……ない、けど。なかったけど……。でも大丈夫だから。私、ちょっとそこで顔洗ってから教室戻るね。先行ってて」



心配顔のヨネにそう言って、私はトイレへと入った。

自分の思い上がりがあまりにも恥ずかしくて、せっかく心配してくれたヨネにさえも本当の事は話せなかった。

手洗いの鏡を見ると、たしかにこんな酷い顔じゃあ教室に入れないと思った。


私、ユウマ先輩の前でちゃんと笑えていただろうか。

それとも、こんな顔のままあんな変な笑い方してたのかな。


「……こんなんじゃ、テスト明けも気まずいよ……」


私はぽつり呟きながら、蛇口をひねった。




* * * * * * *



その日も、その次の日も、またその次の日もお昼は学食に行かなかった。

ユウマ先輩にでくわしてしまいそうで怖くなった。

どんな顔すれば良いかも分からないのは大いに困るから、手っ取り早く逃げを決め込んだのだった。


もちろん学食のナポリタン女の異名でクラスでは通っているだけに、私の行動にクラスメイトは驚いていた。

けれどランチを見るとみんな「やっぱりな」と笑う。

焼きそばパンならぬナポリタンドックだったり、はたまたコンビニで買ってきた贅沢ナポリタンだったりしたからだ。

どんだけ好きなんだよというからかいに適当に返しながらも、やはり学食のナポリタンのほうが安くて温かいと思うと3日目にして既に音をあげたくなりそうだった。


ユウマ先輩には顔合わせづらいけれど明日からのテスト期間もそのうち終了するし、どっちにしろ生徒会が始まればそんなことも言ってられない。


それでも気持ちを切り替えるにはまだ私は不器用だった。


食べ終わって寛いでいると、目の前のヨネが廊下側を見て「ねぇ、アレって……」と言いかけた。

なんだろうと思い同じほうを見ると、何やら見知った人影が教室前でうろうろしている。


「どう見ても、ユウマ先輩だよね。……イクに会いにきたんじゃない?」

「……まさか、そんなことないっしょ。もうテストすぐ入るし、私だって頼まれてももうノートどころじゃないよ」


そんな風にして話していると、教室入口にいる男子が私の名前を呼んだ。どうやらヨネの勝ちのようだ。

ヨネはいつもの笑顔をすると、早く行くよう目で私を促した。



会いに来たユウマ先輩は、変わらず無表情だった。

廊下に出るとそのまま窓際へと移動し、私は目も合わせずに単刀直入に何の用事か聞いた。

そしたら先輩は早くも確信をついてきた。


「お前、明らかに俺避けてるだろ」

「は?何でですか」

「ノートの時も変だったし、ナポリタン女のお前が学食で食べてないし明らかに変だろう」

「……気のせいじゃないですか。それに学食じゃない気分の時だってあるんです」

「それにしたってこないだは変だったろ」


何だかひどくイライラした。

せっかく人が会わないようにしてたのに、どうして来るの?

相変わらず嫌な先輩だ。

私は苦い気持ちを噛み殺して、拳を握る。


「……何なんですか、先輩。失礼じゃないですか。いきなりそんな見当違いなこと言われたって分かんないし。っていうか、そもそも先輩が変な義理みたいにお菓子なんかくれるのが原因だったし!」

「……はぁ?」

「私、軽い冗談だったのに本気にして……なにも餌付けを期待してたわけじゃなかったし!」

「お前、何言ってんの」

「先輩からしたらただのお礼って分かってますよ。……でも、ただそういう事だけじゃないんです」


自分でも何を言ってるのかわからない。

このぐちゃぐちゃなよく分からない感情を伝えようにも、自分の中で整理しきれていないので支離滅裂だ。

先輩もただのお礼にお菓子を要求通りに私にあげたのに、当の私は勝手に怒っているのだから訳が分からないだろう。


……ユウマ先輩にとっては何でもないやりとりだけれど、私にとってはだんだん他の意味を持つようになっていた。


けれど、その意識してる差の現実を見て、私はきっとショックを受けているんだ。

今初めて、自分の気持ちを見た気がした。


「わたし、私は……」



ユウマ先輩の顔を見る。相変わらず無表情だ。

けれど私はこの無表情なこの先輩の違った顔を見たがっている。

知りたがっている。


それは、この人の事がすごく気になるからなんだ。

……私、好きになってるんだ。ユウマ先輩を。


私はハッキリと気付いた。

けれど、知ってしまったからには言葉がそれ以上紡げなかった。

続きを言えず立ち尽くしていると、ユウマ先輩は、ほうと一息ついて全く別の事を言い始めた。



「お前、やっぱり、見てないよな」

「え?」

「俺はっ……素直じゃない、から」



どくん、と胸がはねる。

それは、ぎゅう、と突然ユウマ先輩が私の袖を握ったからだ。

顔を見たら、無表情だったはずの先輩がこれ以上ないほどの真っ赤な顔をしていた。


「な、にが」


思わず掠れた声。先が見えない言葉の続きを待った。

するとユウマ先輩は少し考えてから、ゆっくりと言った。


「最後貸したノートに、色々書いてあったの。……ほんとは、あれ見たからお前に避けられたのかなって」

「へ!?何ですかそれ」


そんなの初耳だ。

たしかに付箋貼ってあった場所以外もパラパラ見たけれど、書いてあるところ以外はあまり見なかった。

それに何を書かれていてもまず解読が先だし、ユウマ先輩が落書きなんかしそうにないって先入観があるのでそんなことを今告白されても目から鱗だ。

私の分かっていない表情で確信したユウマ先輩は、今度は諦めたように身を引いた。


「……じゃあいい」

「え、ちょっと今度は私が気になります。よくないです、全然」


今度は私が前のめりになりながらユウマ先輩に掴みかかると、思いのほか顔が近くに寄ってしまった。

それで先輩はまた顔を赤らめたので、私もしまったと思いすぐに一歩下がる。

やけに胸がドキドキして落ち着かない。

黙るうちにお昼休みが終わってしまう。


何を言えば良いか二の足を踏んでいると、ユウマ先輩は帰るのかくるりと背を向けた。


「……なんつーか……とりあえずお前もテスト頑張れ」

「は!?」

「だから、とりあえず明日からのテストが全部終わったら、そのノート渡す」

「今教えてくれないんですか!?」

「そういうことで。じゃあな。追試になんなよ」

「ちょっ……!先輩、何しにきたんですか!?」


急に来たと思ったら見当違いな事ばかり言って、そして勝手に教室へ戻ろうとするユウマ先輩をもう一度引き留めた。

振り返った先輩は、もう赤い顔なんかしてなくていつもの無表情に戻っている。

けれど、次の言葉で今度は私のほうが顔が赤くなってしまった。


「何って……お前が中身読んで避けてたんだと思ってたからいっそ告白しにきたんだよ。でも、とりあえずテスト終わったらに切り替える事にしたから、俺行くわ」



いけしゃあしゃあと大事な事を言ってのけてはするりと私の手をかわし、ユウマ先輩はさっさと自分の教室へ戻ってしまった。

先輩の後ろ姿が見えなくなったところで思考が戻り会話を思い起こすも、なんだかふわふわとして現実味がない感覚に陥った。


え、告白?ノートを見ていない??どういうこと??


妙な展開に茫然としていたら、ヨネが私の傍へやってきた。

ヨネのことだから絶対傍で聞いていたに違いない。

そのとおりに顔はいつもの意味深な菩薩な笑みを浮かべている。


「ユウマ先輩と手っ取り早く両想いになれそうじゃん」

「待ってヨネ。私、自分の心に今追いついてない。そもそもユウマ先輩のこと気になるの自覚したのたった今だし」

「んー、でもユウマ先輩のほうがきっと早くイクのこと好きになってたんだろうね」

「好き!?いつどこから!?わけわかんない!?私、どうすればいいの!?」


ヨネは第三者の目でどういうことか分かっているようなだけに、やけにもったいぶりながら言った。


「とりあえず、追試にならなければいいんじゃない?」

「勉強なんか手につくわけないじゃん!!!!ああもう、それだったらノートまとめの参考に先輩のノートまた借りれば良かった!!」




ユウマ先輩が最後貸しててくれたノートに、一体何が書いてあるのか。

そして一体いつからユウマ先輩がそういう気持ちだったのか。

最後まで教えてくれなかったユウマ先輩はやっぱり謎な人だ。


そして、何が何でも彼の事をもっと知りたいと思う。


それはお菓子なんかよりも、きっとずっと美味しいものなのかもしれない。

私は今しがたの情報処理に頭を抱えたまま、とりあえずユウマ先輩のノートをごほうびとして何としてでも頑張るしかないと思った。





( 都合のいい動機だなんて言うなって。 )

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