scene44*「ハイキング」



きっとこの先ずっと、彼女の逞しさに俺のほうが引っ張られてくに違いない。




【44:ハイキング】




話が違うじゃねぇかよ。


何が「大したことないハイキングですから。むしろ散歩みたいなもんですよ」だ。

俺がちゃんと装備してなかったらどうしてたんだ、と心で悪態をついた。


しかしそんな俺の心とは正反対に、周りの景色を見渡せば、視界いっぱいに広がる爽やかなまでの緑。

聴こえるのは風に揺れる木々の葉音や小鳥のさえずりと、山道を登る自分の足音と息遣い。

前方に見える彼女は、どんどん歩きどんどん進む。

誘っておいてまるで俺の事なんか忘れてるみたいに。




職場の後輩である彼女と付き合って、半年と少したった春先に誘われるようになったハイキング。

いや、いっそ登山と呼んだほうが正しいかもしれない。

言われるままにウェアや道具を揃えて軽い心構えでいたら、彼女のほうが見かけによらず本格的な山ガールってやつだったのだ。

そんなの職場でも一度も耳にしたことがない。

まったくもっていい意味で裏切られたと言っても過言ではない。



俺の働く会社は一応大手の商社だ。

うちのフロアだけでもざっと60人はいて、主任なんてポジションにいるが上からしたら体のいい小間使いみたいなもんだ。

彼女はうちのフロアの派遣社員で、社内の親睦旅行をきっかけに親密になり……ってありきたりな発展。


そもそも俺は社内では仕事ぶりは褒められても、厳しいからか鬼って言われてたり、口が悪すぎると自分でも耳にするくらいだから、あまり人から好かれるほうではないと自分でもわかっている。

それなのに、どうして彼女が俺のことを好きと告白してくれたのか……実は今でも疑問に思う。


「トウジョウさん!はやく、こっちこっち!ここから少し滝が見えるところがポイントなんですよー!」

「早くと言われたって……ミナミ、お前なぁっ……!こちとら、この勾配にいっぱいいっぱいなんだよ!!体力使わせんな!」


俺が精いっぱい叫んだところで状況が変わるでもなし、彼女はびくともしない声で答える。


「大丈夫ですよー!ここまできたらもう勾配ないですから!」


だいじょばねぇよ!!

俺は来た道を振り返る。

とにかくかろうじて道と言える状態の道と、ひたすら木しかない。ふもとなんて全く見えない。

息を深く吸い、吐く。

そしてまた上を見上げると、彼女は上からしか見えない景色を楽しみながら、俺が来るのを待っている。


考えたら俺、休みの日は家でだらだらゴロゴロ寝てたいタイプなんだけど……どうしてこれに付き合ってるんだろう。


山歩きは登りながらどうでもいい事を思考してしまうから面倒くさい。

今みたいに、俺何で登ってるんだろうとか、来週仕事で一緒になるあの上司の癖なんだっけとか、取引先の新人どこにバックレたんだろうとか、そいつを指導してた上は何やってるんだろうとか。


ごちゃごちゃ考えるから面倒くさくて疲れるはずなのに、登り切った後には不思議と頭の中が整頓されて、また明日になるともっとスッキリとした気持ちで仕事が捗るのだから、ますます山歩きが憎たらしくてしょうがない。

だけど山が俺にもたらす功績を認めてしまったら、本当はだらだらゴロゴロ寝てすごしたい本来の俺を否定することになりそうで、それは何だか悔しいので認めないようにしていた。



そう考えている間にも俺の足は前へと進んでいて、ようやく彼女に追いつくことができた。

彼女は嬉しそうにして「ほら!あそこです!」と袖をつまむ。

彼女の指さす方へ目を凝らすと、木々の茂る山間からひっそりと岩壁がはだけて見え、その間に細く小さな滝が流れていた。

どうやらこの途中でしか見えない景色なようだ。


「ほんとだ……」


「これ、2回目に登った時に気付いたんですよ。じゃなきゃほんとそのまま上り坂で通り過ぎちゃうところなんで、これを自分以外の人に伝えられてちょっと嬉しいです!」


彼女はふにゃっとした笑顔を向けて一生懸命俺に伝えてくれた。

その笑顔に、可愛いと思ってしまう自分につい照れ臭くなって「おう。……ありがとな」とそっけなく言うしかできなかった。


束の間、滝を眺めた後に彼女は顔をパッと進行方向に向いて「じゃあ、あともうちょっと頑張ったら頂上ですから!」と晴れやかに言った……あともうちょっとか……と呟いたところで思い出す。


こいつの『あともうちょっと』は全然もうちょっとじゃないということに。


しかし、気づいた頃には彼女はもうさっさと前に歩き出していた。





「今日はお昼から晴れるって言ってましたけど当たりましたね!あ~山もお天気よくてよかった!」

「……帰りはどこでもドアが欲しい……」

「トウジョウさんったら!またこないだと同じこと言って~。下山ルートの先に温泉ありますから元気出してくださいよう。温泉から駅まで近いですから、乗り継げばあっという間にどこでも特急~♪はい、コーヒーどうぞ♪」



あれから登ること40分。

彼女にとっては『もうちょっと』で登れる時間かもしれないけれど、俺からしたら全然もうちょっとの時間じゃない。

けれど、あとは下るだけだと考えたら気持ちが少しだけ楽になるってもんだ。


着くなりちょうど落ち着けそうな岩があいたので、そこで彼女は手際よくコーヒーを淹れてくれた。

俺はカップを受け取ってコーヒーを一口飲む。

するとコーヒーの香りが広がるようで、ようやく心の底からホッとできた気がした。



「どこでも特急なんかねぇっつの……お前、ほんとタフだな。職場でもタフなほうだとは思うけど、うちの山岳部に入ったほうがいいんじゃねぇか」

「それは嫌ですよ。私単独かペアのほうが気が楽なんです。静かだし」


頂上の広場にはたくさんのハイカーがいて、近くに山小屋の休憩所もあるので意外にも賑わっていた。

あたりは山の中の先にあるとは思えないような岩場が広がり、見晴らしもよく付近の山の尾根が見えて、今度は緑でなく空の青がいっぱいに広がっていた。

その後は他愛ない話をぽつぽつしながら、持ってきた昼ごはんも広げはじめる。


彼女は山登りの時はいつもサンドイッチとおにぎりの両方を作ってきてくれて、ましてやデザートまで持ってくるのだから、しっかり者すぎてまったくもって頭が上がらない。


「お前、ほんと料理うまいよな」

何気なく口にすると「そんな大したものじゃないですけどね。うち小さい頃から親が共働きだったから、料理とか自然と覚えちゃって。弟がけっこう好き嫌い多かったので工夫しながら作ってたりしてたからかも」と彼女は照れながら返す。


「そういや弟ってもう大学生になったんだっけ?」

「この春にようやくですよ。チャラチャラ遊んでたわりには、要領だけはいいんだからやんなっちゃいますよ」

「たしかにチャラ男って言ってたっけ。じゃあ大学入ったらますます拍車かかるんじゃねーの?」

「って、私もそう思ってたんですけど、そうじゃないんですよ。大学生になったらなんか落ち着いちゃったみたいで。それか本気で好きな子でもできたのかな~なんて思ってるんですけど姉弟で恋愛の話ってあんまりしないからなー」


そう他人事のように最後のほうは呟いて、持ってきたサンドイッチを彼女は食べ始める。

俺はおにぎりのラップを外してかぶりついた。

コーヒーとは合わないけれど水もあるし、腹が減ってしょうがない山登りの後はどうしても米が食べたくなる。

彼女の作ってくれる大葉で包んだ味噌おにぎりは格別で、俺の大好物になりつつあった。


そもそも一人暮らしの俺としては、おにぎりだろうが何だろうが手作りならば何でもありがたいし、本当に美味しく感じるのだからいかに普段の食生活が乱れているかを思い知って反省できるいい機会でもある。

……といいつつ、きっと明日からの一週間も忙しくてラーメンとか丼になっちゃうんだけど。



二人して山頂からの景色を眺めながら黙々と食べる。

もしかしたらこの二人の何でもない時間が楽しくて、山登りに付き合っているのかもしれない。

ふと思ったそんな時、彼女は職場の話をしはじめた。


「そういえば、マツムラさんの奥さん、おめでたらしいですね」

「なんかそうらしいな。食堂手伝ってる嫁だっけ」

「そうそう。駅に近い食堂?居酒屋?の。私あそこに何回かランチ行きましたけど、すごく感じのいいお店でしたよ。ごはんも美味しかったですし。昔はお蕎麦屋さんだったみたいですよ」

「へー。じゃ今度、夜に一緒に行ってみるか」


マツムラは職場の後輩だ。彼女からしたら先輩にあたるが、仕事はそこそこできる。

顔もそこそこいいので彼女と同僚のゼクシィOLが狙ってたけど、ゼクシィOLとは正反対のタイプの女性と少し前に結婚した。

結婚してからなお業績も良くなった気がするのだから、新婚ってもんのパワーはすごいなと思う。


……が、実際だんだんと子供優先の妻にないがしろにされ、育児に参加しようとすればアレコレ違うと怒られ、くたびれて真っすぐ家に帰らなくなる同僚や上司たちを次々と目の当たりにし愚痴も聞いている俺からしたら、マツムラはどうかそっちには転ばないでいてくれるといいなと願うばかりだ。


俺自身もそろそろ結婚を考えなくはないけれど、そういうのを見るようになると、結婚が天国なのか墓場なのかと天秤にかけはじめてしまう自分もいてどうしたもんかと思う。




「ここの下りルートに神社があるんですけど、安産祈願の神様らしいからお守り買ってってもいいですか?」


サンドイッチと、あらかじめ剥いてきたオレンジ(ポリ袋に入れて保冷剤で包むという徹底ぶり)をあっという間に食べ終わった彼女は嬉しそうに言った。


「お前、マツムラとそんなに仲良かったっけ?」

「まぁ、マナちゃんを通じてですけど、何回か飲みとかご飯にみんなで行ったくらいですかね」


あー……俺、ゼッタイ声かかんないやつだ、というのが顔に出てたのか、彼女は慌ててフォローした。


「たまたま、トウジョウさんが出先のまま直帰の時ですよ!ほんとに!ていうか、ちゃんと私たちトウジョウさんに声かけてますからね!それ毎回断って仕事したり帰っちゃうの、トウジョウさんですからね!」

「まぁ、俺好かれてないの分かってるしなぁ。主任だからホントは俺から声かけなきゃいけないんだろうけど、どうも苦手なんだよ。取引先か上司とのサシ飲みで精いっぱいだわ」

「でも、トウジョウさんが普段から上司たちと飲んでくれてるおかげで、私たちあんまり声かからずに済んでるとこありますから」

「何とでも言ってくれ」

「もぉ~~。本当に誘ってないわけじゃないですからね!」

「はははは。冗談だって。そんなに困った声すんなっての。じゃあお守り買ってくか」


俺もおにぎりを平らげてちょっとのんびりしようと思い足をのばした。

彼女は岩場に体育座りするように膝を抱えて景色を眺めている。

ひんやりした風が吹いて、たくさんの尾根が広がり、奥のほうは霞みがかって稜線がシルエットになっていた。

まるで日本画を見ているようだ。


こうして何回か山登りに付き合うと、登る前と登っている時と下山している時は「登りたくねぇ~どこでもドアくれよ~」ってなるのに、頂上に着けば不思議と「次はどこ登るんだろうか」といつしか考えてしまうような自分になってしまったのだから、本当に彼女には敵わない。


「はぁ~~~。やっぱり山って最高ですね……」


一休みもそろそろという時に、彼女は思い切り伸びをしながら幸せそうに口にした。

その清々しいくらいの表情があんまりにも優しく幸せそうなもので、見ているこっちまでが気持ちよくなりそうだった。

会社でも穏やかに落ち着いているほうだとは思うけれど、山登りの彼女は普段とまた違って雰囲気が生き生きしている。


「しかし毎回思うけど、お前が山ガールには見えないよなぁ。職場でのお前知ってるから尚更だわ」


そう言えば、彼女はちょっと拗ねたような口調でじろりと俺を睨んだ。


「山ガールって呼ばれるの不本意です~。それならいっそ登山女子とかのほうがカッコよくないですか?」

「やべー、そんな単語聞いたことねぇわ」

「だって私が今作ったんですもん。流行らないですかね」

「登山女子とか、なんか炭鉱掘ってそうなイメージだろ」

「あはははは!何かそれ、逞しすぎる!!」

「いや、充分お前逞しいから」

「もう、トウジョウさんってば!またそういう意地悪な事ばっか言うんだから」


ちょうどそのタイミングで、俺はかねてからちょっと気になっていた事を彼女に尋ねた。


「そういやお前さぁ、トウジョウさんって言うのいいかげんどうにかならんのか。会社でならいいけど、二人の時もトウジョウさんってなんかなぁ」


「……だってトウジョウさんこそ私の事ミナミって呼ぶじゃないですか」


それはそうだ。

……だけど、なんか違うんだよなぁ。トウジョウとミナミとじゃ。


「お前の名字なんて名前みたいなもんじゃねーか。ミナミちゃんって言われてるし」

「じゃあトウジョウさんもトウジョウさんでいいじゃないですか」

「トウジョウとミナミじゃ何か違うだろ。いい加減下の名前で呼べばいいのに」

「うーん。だってトウジョウさんって、『トウジョウさん』って感じなんですもん。もう入社したときから先輩っていうイメージだからな~」


「お前、もし自分もトウジョウさんになったら、一体どうするつもりなんだよ」


「えっ……」


「あ……」


思いがけず口にした自分の言葉に、俺まで少し気恥かしくなってしまい二人して押し黙る。

自分も会話の流れといえど、そんなことを口にしてしまったもんだから、どうしていいか分からなかった。

横目で彼女の様子を窺うと、何だかモジモジしている。

そりゃそうだ。

もう二十代半ばで付き合うのだから意識しないわけがない。

それなのに深く考えずに口にしてしまうなんて酷い話だ。


……しかし待てよ。

そこで初めて、ようやくある事に気がついた。


慎重派だからこそ何事も厳しくしすぎる自分が、深く考えずに「同じ名字になったら」なんて言葉が出てくる事自体が、そもそもすごい事なんじゃないかと思えてきた。

それってつまり……それが自然なことに思えたからなんじゃないだろうか。

じゃなきゃ、そんな「仮定」の話を持ち出したりなんかできない。

無意識な感情が口をついて出てきてしまうなんて、我ながら本当にあるとは思わなかったけれど。



何となく腑に落ちた俺は、立ち上がって思いっきり深呼吸しながら体をうんと伸ばした。


気持ちも体もほぐれて、新鮮な空気が体いっぱいに入ってくる。

目をあけると、太陽のプリズムがメガネの向こうから見えた気がした。


もう、色々考えるのはやめて、とにかく頭をからっぽにして口にしてしまおうと、決めた。


「ミナミ」

「あ、はいっ!」


いつもの仕事の時と変わらない、どこか緊張したような返事。

顔を見ると、照れながらも少し怪訝そうな表情で俺を見上げていた。

何もこんな時まで、仕事で怒られるかも~って感じのいつもの顔にしなくていいんだけど。

って、いつもそうさせてるのは俺なのだから申し訳ないなと思いながら苦笑する。

するとミナミのちょっとビクついた顔が「?」と疑問のものに変わったのを見て、俺は言った。


「一緒に暮さないか」


ミナミは、びっくりしたように目を見開いた。

それを見た俺は、情けないことにすぐに答えを聞くのがちょっと怖くなって、慌てて付け足す。


「……っても、次の更新まで3ヶ月くらいなんだけど。……まぁ、お前の知ってるとおり、俺は帰りもけして早くないほうだし、家に寝に帰るようなもんだから、掃除洗濯はかろうじてできても、料理だけは全然できない。……だから、お前の負担のほうが多いだろうだけど……って全然デメリットしかねぇダメなプレゼンだな。これじゃ」


あぁ、クソ。

仕事だとバシッと言えるのに、彼女の本心が分からないからこそ後付け資料みたいな事を言ってしまうなんて情けないにもほどがある。

彼女の人生の一部が俺と関わるかもしれないことに、彼女が本心では俺の事をどう思っているかなんて見えないし分からない。

どんなにカッコイイ一言を言えても、これじゃあ台無しだ。


「いいですよ」

「やっぱいいよな……って、え?あれ!?」


落ち込んだのも一瞬、あっさりとした彼女の言い分に今度は俺が驚いた。

そんな俺に対し、ミナミは柔らかい笑みを浮かべて、今度はすごく恥ずかしそうに言ったのだった。



「だから、いいですよ。トウジョウさんが良いのなら……私も、一緒に暮らしてみたい、です」



願ってもない言葉に、目の前がもっと明るくなった感覚がした。

本音を言えば、優しいミナミならそう言ってくれるんじゃないだろうかと、期待をほんの少しだけしていた。

それだけに彼女の言葉はたまらなく嬉しかった。

だけどそれが本当のものなのかどこか信じられなくて、本当にいいのかとしつこいながらも確認すると、彼女はハッキリと頷いて言ってくれた。


「私、トウジョウさんといて楽しいです。そりゃ、楽しいばかりじゃないこともこの先あるかもしれないですけれど、山も何度か一緒に登りながらずっと思ってたんです。もっとずっと、一緒にいられたらいいのになって。

……だから、私も一緒に暮らしたいです。ツカサさんと」



そこで名前を言うなんて、あんまりにも卑怯だろ。

そんなの、ますます好きになるに決まってるじゃねぇか。


先手をあっさり打たれた俺は、気が緩んだのもあって両手で顔を覆って、思わずしゃがんだ。

手のひらでぎゅうぎゅう顔を押して、改めて気持ちを引き締めるも口から出た言葉は「……先に俺に名前言わせろよ~」と情けないセリフだった。

それを見てケタケタ笑うミナミは「私、仕事の時のトウジョウさんとは違った、そういうギャップが好きだからいいんですよ」と一緒にしゃがんで俺の顔を覗き込むようにして言った。



そりゃあ、結婚が天国なのか墓場なのか天秤にかけなくはない。

夫婦や家庭にくたくたになっている同僚や上司の変化をまざまざと見せつけられてもいる。


だけど、くたくたになりながらもどこか幸せそうであるし、いくら頭で天秤にかけてみたって、実際してみないと分からないのだから考えたところでしょうがない。

それに天国も墓場もどっちでもない、俺が今恋をしてるのは、たった一人でも逞しく山登りをしてしまうような女だ。

地に足をつけて、地道に何でも取り組める芯のある彼女だ。


面倒見も良いし料理だって上手いし、何よりも休みの日はダラダラしたいという俺を、こんな山の頂上まで何だかんだ引っ張ってきてしまうのだから、彼女となら一緒に生きていける気がする。



俺は顔から手を離し、目の前の何とも可愛らしくも小憎らしい顔と目が合えば、彼女はいたずらっぽい顔を覗かせて言った。


「ツカサさん、顔が真っ赤で可愛いです」


「そりゃあおそまつさまでした」


「もちろん、これからも頂いちゃいますからね」



きっとこの先ずっと、彼女の逞しさに俺のほうが引っ張られてくに違いない。

そう確信しながら俺は彼女の手を握って降参したのだった。



「……ハルカさんのどうぞお好きに」




( 私だけしか知らない、可愛い部分 )

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