scene42*「買い物」
小さい街なら、そりゃあ会うでしょうよ。
だけど、こんな場所で会うとは思わなんだ。
【42:買い物 】
『夏のセール開催中!最大70%オフ!』
その甘い甘い響きに誘われて街へ繰り出したはいいものの、私は完全に出遅れたのだ!と後悔した。
なるべく朝早くから出かけたにもかかわらず、ファッションビルは女の子たちでごった返していた。
げげげ~。と、内心思うものの、こまで来て引き返したなら女がすたるってもん。
ゆっくりと深呼吸して、目の前の光景のすごさを確認して……人だかりの山に、えいっ!という気持ちで飛び込んだ。
「しょ、勝者だ…私はこの夏の勝者だ……」
ワンピにチュニックにTシャツ2枚にスカートに靴1足。勿論大荷物。嬉しい重みだ。
時間を見ると2時になるところ。
いいかげんお腹だってペコペコだ。 それでも一人で入れそうな飲食店は……意外とない。
駅ビルの飲食街は家族づれやカップルばかりで、お一人様で入れそうなお店を探すには駅ビルを出なければ。
暑いのに嫌だなぁと思う。
カフェなんかは当然、激混みだから無理だ。
どうしようと考えながら歩くと、本屋に見知った人間がいた。
「あ」
思わず声が出てしまった。
当然気づいたヤツはこっちをむいて、私とおんなじに「あ。」と、あんぐりした。
中学の同級生で同じ剣道部だったササタニだ。
「ササタニじゃん。すっごい偶然。久しぶりだね」
ササタニもビックリしながらも、近づいてきた。
「オオウチかよ。一瞬誰だと思った。なんかギャルになったな、お前」
「ギャルじゃねーし!髪くらい誰でも染めてんじゃん。剣道はまだやってる?」
「道場にたまに行くくらい。平日は大学とバイトしてるしな」
お互い、中学卒業したら地元駅でさえも会わなくなってしまったが、まさかこんなに人がいるところで会えるとも思わなかった。
部活も一緒だったからけっこう話す事も多いし、ササタニは剣道だって強かった。
音楽とかお笑い番組とか好みも似ていて、ちょっといいなぁと当時は思っていた。が、その矢先に後輩の子とちゃっかり付き合い始めて、少し萎えたのを思い出した。
聞くと、お姉さんの買い物のお供らしいけれど落ち合う時間まで1時間もあるらしい。
ゆっくりしたい上に腹ペコでお店に入りたかった私には好都合。
近くのゴハンやさんに誘ったら快い返事がきて、時間を一緒に過ごす事にした。
「そういやオオウチって大学どこ?」
席について落ち着くなりササタニが聞いてきたので、都内にある女子大の名前を言うと、すんごい驚かれた。
「じゃあお前って大学デビュー?てかお前が女子大って!」
「失礼な!ササタニはどこよ」
「○○大の法学部」
は……?ほうがくぶですか。 すっごく意外だった。
「ササタニって頭良かったんだね……そういや成績も良かったかも」
「親戚が弁護士やってるからさ。いつかそこ手伝うつもり」
「うわぁ。就職口もほぼ決まりだなんて未来のヴィジョン、私とは雲泥の差。将来の夢はパート主婦がいいってマジで思うもん」
「ははは。でもなんかそのほうがオオウチらしいわ。お前、副部長やってたけどすげーゆるかったもん」
「だって私ぜんぜん真面目じゃないのに、副部長やらされてたんだもん。まぁ高校進学でけっこう有利に働いたから、結果オーライっすよ」
甘いもの好きのササタニには夏だってのにチョコレートパフェが運ばれてきて、私にはほうれん草とベーコンの塩パスタが運ばれてきた。
すごく良い匂いで、お腹がきゅうきゅうになる。
食べながらも、中学卒業してからの4年間を色々と話してた。
そうしたら1時間あっという間で、ササタニのお姉さんから電話がきて、ノリの良いお姉さんは「あんたたちだけ美味しいもの食べてんのムカつく!」と大人気なく怒り、席にやってきた。
お姉さんは……めちゃくちゃギャルだった。
ネイルが人刺せそうなくらいだし、目力がハンパなかった。
個人的に今まであまり接したことない人種なのもあり、怖気づいているとそれが分かったのかお姉さんのほうから気さくに話しかけてくれた。
「ど~も~!ケンジの姉のユカリです。あー疲れたお腹すいたー!ケンジ、ちょっとアタシのなんか頼みなさいよ」
「なんかって、アナタが何食べたいのか俺知らないんですけど」
「じゃ、あたしもパフェにしよっかな。カワイこぶってフルーツパフェにしよ」
「カワイ子ぶっても可愛くねぇよ」
「は?オオウチちゃんだっけ。ね、ケンジが今日全部払ってくれるから何でも頼んでいいからね!」
「マジすか!」
「マジかよ!!」
ケンジくん……アンタのねーちゃん、見た目もギャルなら中身もとんでもないわ……。と思いつつ、ササタニと同じパフェを一緒に頼んだ。
ユカリさんもセールで結構買ったらしく、色々とみんなで戦利品報告をした。
「ササタニも何買った?」
「とりあえずTシャツ。あれ、お前もそこで買ったの?」
「あ、ホントだ。ショップかぶってる。あそこの服いいよね。うちも黒いスタッズついたTシャツ買ったよ~。コラボの安くなってたし」
「マジで!?かぶってんよそれ!ダダかぶりじゃん!」
「うそっ!」
お互い袋から出す。
うわぁ……。
「「「ペアルック……」」」
3人一緒になって出た言葉。
「あんたたち、気が合うんじゃないの…」
ユカリさんがそんな事を言った。私とササタニは激しく首を横に振り全否定すると「タイミングもバッチリじゃん。」と、笑われた。
……夏の勝者と思ったらペアルックかよ……そう思ったら、何だか力が抜けてしまった。
「あーあ。ササタニとセンスのレベルが一緒だなんてショックだわ!」
「そりゃこっちのセリフだっての!」
「……まぁ、コラボに罪はないけどね…」
「いや、あそことのコラボつったら買うだろ」
「だよねだよね!!」
「実は去年のコラボTシャツも欲しかったんだけど買い損ねたんだわ、俺」
「マジでー!同じじゃん!!」
「……だから…あんたたち、付き合っちゃえば?」
「「それはない!!!!!」」
これがまさか、二人の始まりになるなんて思わなかったのは当たり前。
だって夏はまだまだ始まったばかり。
それをお見通しだったかのように、ユカリさんは得意げにニヤリとして、チョコアイスの溶けかかった、あたしのパフェにスプーンを伸ばしたのだった。
( 予報は、友達のち恋人になるでしょう。心の準備をお忘れなく )
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