第19話 ビーチの女神


ザザーン             サラサラ

      ざぶーん                   ざっぱーん

           サラサラ       ザッバーン

                ざぶーん




 そこはまるで南国の砂浜だった。


 真っ白なロングチェアー。カラフルなビーチパラソル。


 サイドテーブルにはハイビスカスが刺さったトロピカルカクテル。




「ハロハロ~ヒロユキく~~ん」

 トンボみたいにでっかいサングラスをしてるので顔はわからないが、寝そべった体から伸びるむっちりとした太ももには見覚えがある。ブルゾンとホットパンツ姿だがシチュエーション的には確かにここは南国だ。





ザザーン             サラサラ

      ざぶーん                   ざっぱーん

           サラサラ       ザッバーン

                ざぶーん





ジャン……とりあえず中華鍋に小豆あずきころがして波の音作るのはやめようか?」


「イエッサー! ボス!」


 ジャンは今にも吹き出しそうに頬を膨らませ中華鍋を抱えて逃げてゆく。くぅっ!


「ずいぶん待ったけど、みんな親切だからちっとも退屈しなかった」

 波の音がやんだら、仕事にあぶれてバラックで寝ている何人かが笑いを堪えて床をバンバン叩く音が微かに聞こえてくる。まあ、そりゃそうだろうよ。


「どうしてここに?」

「携帯持ってないから自分から連絡するって言って、ず~~とほっといたのはそっちでしょ?」

 ……完全に忘れていた。そしてあのとき、どんな嘘を付いたのかも覚えていない。


「ここに住んでるってことしか知らないから来ちゃった。そしたら超絶イケメンさんが色々用意してくれてぇ……」



 あンんのぅ~ひも野郎っ! これ全部、売春宿のプレイ用の小道具じゃねぇか!


 ヘッドボードに拘束具が付いた新型スケベ椅子から兎に角、彼女を救出せねば!



「マリアちゃんこっちに来て」

「ん? どうしたのぅ?」

 俺は強引にマリアの手を引いた。こっぱずかしい。あいつら最近、冷たい癖にこういう悪戯だけは知恵が回る。ともかくここから逃げだそう。砂浜があるなら、そこには草原もあるはずだ。伝説の剣で草を刈り、弓矢で小動物を狩ろうっ!


 アニメ調の3D・グラフィックの中をプレイヤーの分身とサングラスを額にのせたお姫様が駆け抜ける。もうこうなったら窟のダンジョンクリアして魔王倒して宝箱を空けまくってやる! 俺は混乱している。



 テレテレ♪ テレテレ♪ プルララ♪ プルララ♪ プルララ♪ ピリララ♪ 


 デデデデ~~ン♪ パラリロレロレリ~♪ ぱぱぱぱぱぁ~♪ デデデデ~~ン♪




 しかし10メートルも進まない内に二人はバラックの魔物に捕まったのであった。


 

            デデデデ~~ン♪



 


 




 




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