第298話 帰路

シュウ達の会話が一段落したのとほぼ同時。答えの出たエア達が歩み寄る。


「待たせたのぉ。」

「どうするのか決まったか?」

「あぁ。すまぬが、どちらも譲って欲しいのじゃ。」

「わかった。好きにしてくれ。」


そう告げるとシュウはボス部屋の入り口に向かって歩き出す。これには流石の竜王達も面食らう。


「ま、待つのじゃ!」

「何だ?」


エアに呼び止められ、面倒臭そうに振り返るシュウ。


「報酬と言うか、対価はどうするのじゃ!?」

「対価?そんなのはいらん!」

「いらない!?りゅ、竜種の中でもとりわけ貴重な存在なのですよ!?」

「あのな・・・さっきも言ったけど、オレは捨てるつもりだったんだ。自分が捨てたモノを拾ったヤツに対価を要求する馬鹿が何処にいる?どれだけ貴重か知らないけど、オレには何の価値もない。それどころか災いの種だ。こっちが報酬を用意してもいいくらいだよ。」


エアとアクアの問いに、呆れ混じりに答えるシュウ。最後にアースが念押しする。


「本当にそれでいいのか?」

「あぁ。ただし、1つだけ条件がある。」

「・・・何だ?」

「冷たいと思われるだろうが、オレ達は運搬にも手を貸さない。どうしても欲しいなら自分達で運んでくれ。」

「ちょっと!」


冷たいと思ったのだろう。ナディアが声を上げる。運搬に手を貸さないとは、アイテムボックスも貸さない事を意味しているのだから。だが竜王達はシュウの真意を見抜いていたのか、ナディアを嗜める。


「ナディア、良いのじゃ。」

「でも!」

「我々が貴女達からアイテムボックスを借りる訳にはいかないのですよ。」

「・・・どういう事よ?」

「オレ達がアイテムボックスからコイツらを取り出したらどうなる?」

「?」

「アイテムボックスを何処で手に入れたのか、竜王の座を狙う輩に追求されるのじゃ」

「あ!」


そこまで説明されて、漸くナディアも理解する。誰かが手を貸したと気付かれるのだ。そして問題はそれだけに留まらない。


「だからといって、帰路の途中で取り出すのも難しいだろう。コイツらが何処に居たのか説明が出来ないからな。」

「竜王の座を狙う者達に、ダンジョンの出口を手ぶらで通ったと知れたらマズイですからね。辻褄が合わなくなります。・・・必死に調べるでしょうし。」

「妾達が担いで出ると言いたい所じゃが、それじゃと人族に知られて本末転倒じゃしのぉ。」

「じゃあどうするのよ?」

「出処のハッキリとしたアイテムボックスを、誰かが取りに帰るのですよ。見た事もない同族を仕留めたと告げて。」

「何処で仕留めたかは、適当にはぐらかせばいい。話の流れから話す事になったとしても、信頼出来る者達のみになる。人族に知られる心配は無いさ。」

「例えコヤツらと敵対していたとしても、人族に同族を狙わせるような真似はせん。下手に存在が知られて、妾達に飛び火してもかなわんからのぉ。じゃから、知られたとしても誰もしゃべらんよ。」

「・・・そういう事ならわかったわ。」


ナディアが納得した事で、竜王達の表情も緩む。その様子を見守っていたユキが口を開く。


「では話もついたようですので、ここからは別行動ということで・・・」

「待つのじゃ。」

「何です?」

「せめてもの礼じゃ。途中まで送ってやるぞ。」

「いや、ですから・・・」


話を理解していないのかと言いたいユキが断ろうとする。しかしエアの提案は予想外のものであった。


「お主らの仲間と合流するまでじゃ。それなら構うまい?」

「「「・・・は?」」」


フィーナ達と合流する。それはつまり、数日前に帰路についた一流冒険者に追い付くと言っているのだ。これが行きなら納得である。警戒し、戦闘しながらでは思うように進めない。しかし今回は違う。道中の魔物をユキが狩り尽くしている以上、移動に集中出来る。


寧ろゆっくり移動していては魔物が復活するかもしれない。そう考えているからこそ、フィーナ達は全速力で移動していた。つまり、もうじきダンジョンを脱出する頃合いなのだ。そんなフィーナ達に追い付くと言うのだから、シュウ達は耳を疑った。


「妾も久々に本気で飛ぶ。半日も掛からず追い付くじゃろ。」

「「「・・・・・はぁ!?」」」


トップスピードだけを見れば、今なら圧倒的にシュウが速いだろう。だがそれは直線での話。魔力の上昇に慣れない今、全力で飛べば間違いなくダンジョンに突き刺さる。壁とイチャついている間に追い越されると、シュウは言われずとも自覚しているのだ。


それでもそこまで差は無いだろうと思っていただけに、シュウも驚いた。自身の見立てでは、脱出まで全力で2日だったのだから。




結局、エアの言葉に甘える形でボス部屋を後にしたシュウ達。アクアとアースの見送りも一瞬で終わり、残された2人はどうするかを話し合う。


「流石にエアの本気は速いですね・・・。で、どうします?」

「エアが戻って来るまで1日しかない。さっさと始めるぞ。」

「えぇ。2体目が何処からやって来たのか調査するのと、次の階層に何がいるのか確認しましょう。」

「状況次第じゃ、竜王全員で攻め込む事になる。」

「現竜王全員で済めば良いですけどね・・・」

「おい、縁起でもない事を言うな!先代達が出て来たらどうする!!」

「良くてダンジョンが消し飛ぶ程度ですか・・・」

「「・・・・・はぁ。」」


嫌な想像したのか、揃って溜息を吐く。視線を合わせ首を横に振ると、次の階層へ向かって並んで歩き出すのだった。

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