第259話 SSS級クエスト6

準備を整え、アームルグ獣王国の王都へと赴いたフィーナ達。ユキの動向は気になるが、それよりもどうするか悩んでいる者の動向を伺った。


「どうするの?」

「う〜ん、どうしたもんか・・・。みんなに任せてもいいような気はするんだよな。ここにはSSランク冒険者がいるだろ?」

「ルークの言いたい事はわかるけど、所詮は一介の冒険者だもの。私達、冒険者ギルドに異議申し立ては出来ないわよ?」

「あ〜、それもそうか。でもまぁ、ノーと言えるだけマシなんだよな・・・。」

「何を言ってるんだ?」

「・・・何でもない。仕方ない、一度顔を出しておくか。」


ルークが言っているのは、日本人の感覚についてである。当然フィーナ達に理解出来るはずもなく、ルークの呟きに首を傾げるだけであった。



幾らエレナ達が高ランク冒険者であろうと、ギルドに対して強く言える訳ではない。冒険者は職員ではないのだ。彼女達の意見は強い影響力を持つのだが、だからと言ってギルドの決定を覆すような真似は出来ない。ギルドの決定を拒絶するのが関の山だろう。


一方で王族や皇族の権力は絶大である。如何に冒険者ギルドが独立した組織であろうと、国の決定を無視する事は出来ないのだ。支部を置かせて貰っている側とあって、対立すればその国から追い出されかねない。



その国から撤退すれば済むと思うかもしれないが、中々そうもいかないのが現実。例えどんな小国であっても、支部を置けないのは問題がある。


冒険者が締め出された場合、国を跨いだ移動が出来なくなる。これは平時であっても由々しき事態。何故なら、その国を大きく迂回する羽目になるのだ。時間のロスも大きければ、冒険者の危険も大きい。街道を通れないという事は、それだけ魔物と遭遇する機会が増える事を意味しているのだから。


人々が足を運ばない場所というのは、それだけ魔物が多い事になる。そして魔物の巣窟を気軽に突っ切れるような冒険者というのは少ない。国土の大きい帝国であれば尚の事。しかも現在、国と国を繋ぐ地下道はルークの影響下にある。ルークを敵に回すのは、百害あって一利なしと言えよう。


だからこそ、ユキがやり過ぎていた場合を考えると、ルークの意見が必要不可欠なのだ。その事はルークも、そしてエレナ達も理解していた。ルークが諦めたように呟いたのは、そう意味であった。



観念したルークを引き連れ、フィーナ達は冒険者ギルドへと足を運ぶ。徒歩で王都へ向かったのだが、その際のやり取りは割愛しよう。




ギルドへと近付くにつれ、辺りが慌ただしさを増す。その光景に、全員が同じ事を考えていた。


「・・・随分と騒がしいわね。」

「あの子、やっぱりやっちゃったみたいね。」

「だが職員の姿が見えないのはどうしてだ?」


野次馬が周囲で騒ぎ立てる姿ばかりで、事態の沈静化を図るべきギルド職員の姿が見えない。その事にアスコットが疑問を抱いた。それに乗っかる形で、リューも口を開く。


「それにギルドへ出入りする者がいないのも気になるな・・・」

「まさか、職員にまで手を出してないわよね?」

「それを言うなら逆じゃないか?」

「あぁ・・・職員がユキに手を出そうとしたって事ね。」

「無いと言い切れないのが怖いな。」


そんな会話を続けながら、ルーク達は開けっ放しになっている入り口へと近付く。その目に飛び込んで来た光景は、全員から言葉を奪うだけのインパクトを有していた。


「「「「「っ!?」」」」」


血まみれの室内。至る所に転がった、人間の肉体と思われる様々な部位。誰もが口を開けたまま、目を見開いて室内を見回した。


その部屋の中心で動いている物に気付き、全員の視線が注がれる。


「「「「「なっ!?」」」」」



そこにはボロボロの服装で、床に横たわる女性達の様子を見ている獣人男性の姿。相手の素性がわからないルークは訝しげな表情だったが、冒険者として長いキャリアを持つエリド村の者達にはすぐにわかった。元トップだったフィーナは言うまでもない。


「「「「「レクター!?」」」」」

「誰?」

「ココのギルドマスターよ。」


全員が叫んだ名前に心当たりが無く、反射的にフィーナへと問い掛けたルーク。そしてフィーナがすぐさま答える。他の者達は慌ててレクターと呼ばれた男性の下へと駆け寄る。その場を動かず状況を分析しようと考えたルークは、真っ先に浮かんだ疑問をフィーナへと投げ掛ける。


「ギルドマスター?なら彼が介抱しているのは職員か?」

「恐らくそうでしょうね。まぁ、彼女達は服を着ていないから断言出来ないけど。」


ギルドの制服に身を包んでいれば断定出来るのだが、今の彼女達は服を着ていない。だが裸という訳でもなく、上から女性の服が掛けられていた。


フィーナの言葉で女性達を注視したルークは、1つの事実に辿り着く。


「あの服・・・ティナの物だな。」

「え?言われてみるとそんな気も・・・」

「間違いないわ。あれはティナの服よ。」


イマイチ確信の持てないフィーナに対し、エレナが断言する。母親が娘の服を見間違う可能性は低いだろう。


「そうなると、彼女達は公共の場で裸だった事になるが・・・その元凶が、このバラバラになった者達か?」

「そう考えるのが一番自然だけど、それって最も不自然よね。だってここ、冒険者ギルドよ?」

「レクターに聞くしかないんだけど・・・」


そう呟きながら周囲を見回すルーク達。不意に特徴的な部位が目に止まり、思わず呟く。


「随分と大柄な・・・狼の獣人?」

「黒い毛ってまさか・・・」

「黒狼族だ。」

「「っ!?」」


ルークとフィーナの推測に、答えを告げたのはギルドマスターであるレクター。これにはルークもフィーナも声を失う。だがすぐに次なる疑問が浮かんだルークが問い掛ける。


「王国軍はそこまで劣勢なのか?」

「まぁ押されているのは確かだが、今回の一件は軍と無関係だ。」

「どういう事だ?」

「コイツらは軍の監視を掻い潜って、王都へ逃げ込んで来たのさ。」

「逃げ込んだ?」

「あぁ。アンタ・・・皇帝陛下だろ?なら、言わなくてもわかるよな?」

「なるほど、スタンピードの魔物か。」



逃げた相手が何なのか。それは率先して対処していると知られているルークが一番良くわかっている。そう告げているのだ。その事を充分に自覚しているルークが、気付かないはずもない。だからこそすぐに答えを導き出したのだった。

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