第257話 閑話 目玉は焼きません5
「さて。早速成果の確認といこうか?」
「私はハーピーの卵よ!」
来たよ。予想してた人も多かったんじゃないかな?鳥と言えば鳥なんだが、見事に人型の魔物だ。しかしすぐには反応しない。何故かって?多分フィーナも似たようなものだからだ。
「私はラミアの卵ね。」
「「「「「アウト!!」」」」」
「え?え?何?」
一斉に否定され、戸惑いを顕にするフィーナ。どうしてそんな事になったのかと言うと、待っている間に爬虫類はダメだと説明していたから。何故ダメなのかと言うと、蛇の卵は美味しくないから。正確には、蛇の種類によってアタリハズレがある。らしい。
つまり、食べるまでわからない事になる。当然作る側が確かめる事になるのだが、オレは自虐趣味など無い。美味しい食材が豊富にあるのだから、態々実験する必要など無いのである。新しい料理の場合は別だけどね。
「爬虫類の卵はドボン食材って事にしてたんだ。だからフィーナは罰ゲームね?」
「そんなぁ・・・」
「ナディアも本来はセーフなんだけど、人型は出来れば遠慮したいから仲良くアウトで。」
「な、何でよ!?」
「それ以前に、フィーナを手伝ったでしょ?」
「・・・・・。」
沈黙は肯定と同じだ。そしてオレは、用意する罰ゲームの内容を告げる。
「2人にはオレ達の下に卵が届くまでの数日間、ニワトリの世話をして貰います。」
「「はぁ!?」」
「異論は認めません。」
「「そんな〜!!」」
ショックが大きかったのか、その場にへたり込むナディアとフィーナ。ルビアがいない今だから言うが、罰ゲームはご褒美と紙一重なのだ。甲斐甲斐しくニワトリの世話をすれば、取引分よりも多く卵を産むかもしれない。その場合はナディアとフィーナの取り分にしてあげようと思っているのだ。
群れを作るラミアとハーピーの卵を集めるくらいだ。かなりの魔物と戦ったはず。その頑張りは認めてあげようと思う。
落ち込む2人を慰め、嫁さん達と談笑しながら待っていると、そのルビアが戻って来た。
「お帰り。」
「ただいま。」
一応居もしないニワトリを探し回ったルビアを労い、嫁さん達がルビアに結果を報告する。オレは隠し事の出来ない性格なので、その報告、罰ゲームの話題には参加しなかった。会話しなければ指摘もされないだろ?
罰ゲームの話を聞き、何やら言いたそうなルビアの視線攻撃を躱していると、ついにカレンが戻って来た。戻って来たのだが・・・ツッコミ所満載なのはどうしようか。最早、オレのボキャブラリーでは的確なツッコミが出来そうにない。
「カレンさんカレンさん。オレが何を言いたいか、わかってるよね?」
「えぇ。この卵を持ち歩いているのは、生物がアイテムボックスに入らなかったからです。」
「違うわ!」
違わない。違わないのだが、やはり違う。順番に状況を整理しようではないか。
まず、カレンは剣を抜いている。それは百歩譲って良しとしよう。問題なのは何故剣を抜いているのかだ。剣の側面、腹の部分に何かを乗せているからだろう。だろうって言うか、事実乗せている。ではその何かとは一体何なのか?・・・オレには燃え盛る卵に見える。
これは夢だろうか?そう思って辺りを見回してみると、嫁達が揃って口を開けているのが目に入る。どうやら夢ではなさそうだ。・・・じゃあ、あの卵は生き物なのか!?
「それ、何?」
「何と言われましても、これは鳥の卵ですよ?」
「「「「「鳥・・・」」」」」
呆気に摂られた嫁さん達は、カレンの発した単語を復唱する事しか出来なかったらしい。オレは考えを整理すべく、知り得る知識を総動員する。
「鳥。脊椎動物亜門の一網に属する動物群の総称。日常語で鳥と呼ばれる動物である。卵は通常、巣に産卵され、親鳥によって抱卵される。ごく稀に、卵が炎に包まれる種族もいるとかいないとか・・・そんな鳥いるかぁぁぁ!!」
「「「「「・・・・・。」」」」」
あまりにも常軌を逸した出来事に、解説と独りツッコミをしてしまった。みんなの視線が痛いが、構っている余裕は無い。
「色々とおかしいよね!?」
「?」
「アイテムボックスに入らないのは燃えてるからじゃないの!?」
「いいえ、生きているからですよ?」
「「「「「はぁ!?」」」」」
みんなも驚きに声を荒げた。どうやら常識ではないらしい。ならば、この燃える非常識は一体何なのだろうか?
「何で燃えてるのに生きてるって言えるんだよ!?」
「これがフェニックスの卵だからです。」
「「「「「フェニックス!?」」」」」
なるほど!だから燃えてるんだね〜、って誰が納得するかぁ!!
「不死鳥と呼ばれるフェニックスですが、死なない訳ではありません。正確には生まれ変わるのです。」
「炎の中に身を焼べて復活するんだろ?」
「え?死の間際に卵へと帰るだけですけど・・・?」
死の間際?いや、それよりタイミング良く死ぬもんでもないだろう。つまり・・・
「ひょっとしてカレンは、フェニックスを死ぬまで追いやったのか?」
「はい。追い求めて止まない鳥の卵の為です。尊い犠牲でしたね。」
「「「「「・・・・・。」」」」」
あまりにも衝撃的な内容に、嫁さん達は言葉すら出ないようだ。だからこそ、夫であるオレがしっかりしなければ。決してツッコミ役に甘んじている訳ではない。
「なぁ、カレン?」
「何ですか?」
「今すぐ返して来なさい!」
「え?・・・えぇぇぇぇぇ!?」
「えぇ!?じゃねぇ!!そんなの食えるか!そもそも調理出来んわぁ!!」
「ガーン!」
無限に食える卵とでも思ったのだろう。見たこともない程、絶望感満載で落ち込むカレン。それでも叱りつける事数分。観念したカレンは、渋々卵を返しに向かったのであった。
探し出すのに時間が掛かったらしいのだが、戻るのは転移ですぐ。数十秒後、見慣れた姿のカレンが帰って来た。
「あとはティナだな。」
「ティナと言えば、やっぱりドラゴンよね?」
どんなイメージなんだと言いたいが、ルビアの言う通りである。ドラゴンハンター(肉の為)と言っても過言ではない。そんなティナが、ついに戻って来た。ニッコニコで。
「すみません。食材を集める事に夢中で遅くなりました。」
「ティナは何を集めていたんだ?」
今思えば、この時のオレは聞き方を間違えた。何の卵を、と聞くべきだったのだ。
「ドラゴンの肉に決まっているではありませんか。」
「決まってるんだ・・・肉?」
「はい!ハンバーグの為に頑張りました!!」
「「「「「・・・・・。」」」」」
嫁さん達の視線が冷たさを増した。オレの勘違いだと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。だが、まだ答えを出すには早計だ。とりあえず質問を変えてみよう。
「ハンバーグの為?」
「そうです!あの重厚感!!溢れる肉汁!!!本能が訴えるのです!ハンバーグこそが至高だと!!」
口元にキラリと光るヨダレは多分気のせいだろう。しかしオレも、どうフォローしたら良いのかわからない。ただまぁ、ティナの目的がすり替わった事だけは確かだな。
「ティナ・・・何を探しに来たんだっけ?」
「え?それは勿論、ハンバーグの・・・ハンバーグの・・・。」
「ハンバーグの?」
「・・・・・あっ!忘れ物を思い出しました!!」
「ほぉ?何を忘れたんだ?」
「ゆ、夢と希望です!」
「「「「「アホかぁ!」」」」」
ティナのでまかせに、全員が揃って声を荒げた。どうやらティナも嘘が吐けない性格らしい。もっとマシな嘘を吐けばいいものを。まぁ、嘘つきよりは数倍マシか。
結局は呆れ返る嫁達に叱られ、罰ゲームを言い渡されるティナに苦笑していたオレ。しかし変に鋭いティナによって、突然窮地に立たされる事となる。
「あれ?」
「何よ?」
「我々が卵を集めなくとも、ルークが地球の食材を手に入れれば良かったのではありませんか?」
「「「「「あっ!?」」」」」
やっべ!気付かれた!!これはピンチだ。危険が危ない!逃げるでござる!!
「「「「「ルーク?」」」」」
「あれ?」
「いない!?」
「逃げたわね!?」
「追い掛けますよ!」
「「「「「はい!」」」」」
こうして卵探しはオレ探しとなり数分後、ものの見事に捕まったのであった。どういう訳か、オレまで罰ゲームをさせられたのは言うまでもない。
オレは悪くないのに!!
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