第217話 最初の村
ティナが戻るのを待って、オレ達はエリド村へと向かった。久々の村は閑散としたものだったが、特に荒らされた形跡も無かった。これは多分ティナの影響が色濃く残っているのだろう。魔物達の間で噂にでもなっているんだと思う。あの村はヤベェと。
特にイベントも起こる事なくスイーツ類を隠し、オレ達はエルフ国の王都を目指す。道中も問題は無く、精々オレが予てよりの疑問を口にした程度だろうか。
「なんで学園長はエルフ国って呼ぶんだ?本来は王国だろ?確か、アストリア王国だっけ?」
「ん?そんなのは簡単じゃ。周辺の村に住む者達は、あの者を王と認めておらん。」
「認めてない?問題のある王なのか?」
「問題しか無いのぉ・・・。傲慢でプライドが高く、如何にも甘やかされて育ちましたと言わんばかりの男じゃ。国民大多数の敵といった感じかのぉ。」
国民の敵って、そんなのが国王でいいのか?
「ライザック=アストリアという人物は、典型的なボンボンなのよ。」
「あぁ・・・そりゃ嫌われるな。」
「国王が、と言うかエルフの王族は基本的にそうなんじゃよ。出生率が低いからのぉ・・・。」
一人っ子が基本の為、大抵が甘やかされて育つらしい。王侯貴族以外は厳しい環境で生きていく為、そんな事は無いらしいけど。
無理難題の我儘三昧。そんなのに付き合う程暇ではない。極力接触を避ける方針で一致した。決してフラグではない。
ちょっとした不安を抱きつつ、2日後には予定通り最初の村へと辿り着いた。そこでオレは驚愕の事実に直面する。
「ツ、ツリーハウスじゃない、だと!?」
「そんなもんに住むのは余程の物好きじゃ。」
「立地とかを考えたら、そういう選択肢もあるだろ!?」
「土地なら幾らでもあるのじゃ。住みやすい場所を選ぶに決まっておろう。」
学園長の説明は理解出来るものだった。しかし納得はいかない。納得がいかないと言えばもう1つ。登場こそアレだったが、学園長が真面目キャラなのだ。何処まで続くのかは不明だが、何れは無理が祟ってハッスルしちゃうのは間違い無い。
「・・・失礼な事を考えてはおらんか?」
「・・・気のせいだろ?」
一応女性だからか、勘は鋭いらしい。気をつけるとしよう。
「それでどうするんだ?勝手に入るのはマズイだろ?」
「近くまで行けば、向こうから接触して来るはずじゃ。」
「止まれ!」
「な?」
「な?じゃねぇよ。武装した村人達が出て来ちゃったじゃねぇか!」
だが村人達の様子がおかしいのは気のせいだろうか?何がおかしいのか・・・そうだ、ここには老人と子供しかいない。
「怪しい者じゃないわ。私の里帰りに同行してるだけなの。」
「エルフ族が2人にダークエルフ族が1人?男の方は人間のようだが・・・どういう関係だ?」
「この人は私達の夫よ。」
「おぉ!奴隷という訳でも無さそうだし、どうやら本当のようだな。しかしエルフとダークエルフを3人も娶るとは・・・」
「あぁ、この人ね、皇帝なのよ。」
「「「「「皇帝!?」」」」」
オレの正体を知り、村人全員が驚く。だがオレは別の意味でビックリした。当然条件反射的に手が動く。
ーースパーン!スパーン!!
「否定しろ!」
「「痛っ!」」
ドヤ顔のフィーナと、その横で胸を張る学園長の頭を引っ叩いてやった。便乗しようとする学園長は当然だが、否定しないフィーナも同罪である。
「ふふふっ。」
「ティナも笑ってないで事実を説明してくれ!」
「今更嫁の1人や2人増えた所で、何も変わりませんよ?」
「・・・オレが作れる量には限界があるから、デザートの取り分は変わると思うよ?」
「みなさん聞いて下さい!大事なお話です!!」
何とかティナの買収に成功したようだ。塵も積もればマウンテンって言うからね。スタンピード以降、ティナが扱い易くなったのは救いだな。
ティナの説明が終わり、村人達がこちらを向く。彼等にも思う所はあるだろうが、まずは此方の疑問を解消してしまおう。
「子供達まで武装してるのはどうなんだ?仮に人攫いが相手なら、隠れるべきだと思うんだが。」
「年寄りばかりの戦力では、この子達を隠し通せるものではありません。それに子供とは言え、我々などよりよっぽど頼りになりますよ。」
なるほど、一理あるか。下手に戦力を分散してやられるより、一箇所に集中した方が勝率は上がる。あ、オレの問いに答えてくれているのが村長らしい。
「若者・・・この子達の親も見当たらないのは?」
「王都に招集されているからです。」
「「「「招集?」」」」
「はい。実は少し前から強い魔物が現れるようになりまして。若い衆は王都の警備に集められたのです。」
「強い魔物?ドラゴンかな?」
「いいえ。ドラゴンが現れるのは、今も変わらず村から離れた場所だけです。現在現れているのはゴブリンとコボルトの群れになります。」
「うぇ。」
ティナが嫌そうに声を上げた。理由は食えない魔物だからだろう。いや、食えない訳ではないらしい。ただ、肉は硬くて臭いんだとか。どう料理しても無理らしく、使う調味料や香草の量を考えたら割に合わないって話だった。伝聞での知識だが、今後も試すつもりは無い。
くさやとかシュールストレミングを使った料理が無くても困らないだろ?それと同じ理由だ。無理して食う必要は無い。
それにしてもゴブリンさん達、ここでも猛威を振るっていらっしゃるのか。スライム殿がいらっしゃらないのは、単に移動速度の問題だろう。コボルトに関しては良くわからんが、ゴブリンさんより厄介だろうな。ゴブリンさん達よりも1ランク上の魔物が群れで襲い掛かる。考えただけでもゾッとするよ。
詳しく聞くと、ドラゴンと他の魔物は住み分けが出来ているらしい。それは今も昔も変わっておらず、今回問題になっているのは比較的安全な場所。つまりは正規のルート周辺との事だった。オレ達が遭遇しなかったのは、非正規のルートを突き進んで来たから。お陰でティナの顰めっ面を拝まずに済んだ。ティナはどんな表情でも美人だが、見るなら笑顔の方がいいに決まってる。
「ありがとう。お陰で状況が理解出来たよ。で、さっきから子供達の腹の音が止まないのも同じ理由かな?」
「す、すみません。比較的安全なはずの森も今は危険でして、我々だけでは満足に狩りも出来ず・・・。」
「いや、謝る必要は無い。そうだな・・・もうすぐ昼食の時間だし、情報料代わりに料理を振る舞おうか。」
本当はタダで御馳走したいのだが、他国の村で勝手な真似は出来ない。一介の冒険者ならば問題は無いが、これでも一応は皇帝。内政干渉はマズイ。これ以上スフィアの心労を増やすのはご免である。だからもっともらしい理由を付けて、村の厨房を借りる事にしたのだ。
「陛下が料理されるのですか!?」
「ん?そうだけど?だって今回のメンバーは・・・」
「この体で料理は無理じゃな。」
「忙しくて料理を覚える暇なんて無かったわ。」
「試食係です。」
「「「「「・・・・・。」」」」」
3人の言葉に、オレと村人達が冷たい視線を向ける。チンチクリンの学園長は仕方ない。あの体では、専用のキッチンでもなければ効率が悪いだろう。スピードは大事です。
多忙な毎日だったフィーナも同情の余地はある。ギルドを辞めてからは勉強しようと思ったらしいが、スフィアの手伝いが忙しく難しかったようだ。今後に期待します。
問題はティナである。初対面の人達に言うセリフではない。オレはティナの壊滅的な腕前を知っているからいいが、もうちょっと空気を読んで欲しいものだ。
村人は30人程度だったが、色々と考えて簡単な料理を100人分用意した。全員が空腹らしかったので、沢山食べると思ったのだ。それにティナもいるのだから、余る事は無いだろう。
全員が満足したらしく、ほとんどの者達はお昼寝に向かった。呑気な村だよ。因みにオレ達は残った村長以下数名と話の続きである。そう言えば、結局料理は足りなくて追加する羽目になった。
「子供達の手前、さっきは聞かなかったが村は大丈夫なのか?魔物が襲って来たりするだろ?」
「この村はまだ大丈夫ですが、1ヶ所壊滅した村があると聞いております。」
「「「そんな・・・」」」
3人が悲痛な面持ちでオレを見るが、出来る事は無い。内政干渉って言ってるでしょ?
「どのみち若者が居ても難しいか。それよりずっと気になっていたんだが、王都に使者を送らなくていいのか?」
「「「「「それは・・・」」」」」
「確実に辿り着ける保証が無い、か。」
「いいえ、辿り着く事は出来ると思います。ですがその間、村の戦力が減ってしまいますので・・・。」
なるほど。確実に王都まで辿り着ける実力者が向かわなければ意味が無い。そしてそれはこの村にとって、大幅な戦力の低下となる。王都に、国王に対してそこまでする義理も忠誠も無いって事なんだろうな。
「どうしたらいいと思う?」
「そうじゃのぉ・・・誰かが王都まで同行し、残りは村に留まるべきじゃろうな。」
「移動の事を考えると、オレが同行するのが最善なんだけどな。」
「私に餓死しろと言うつもりですか?」
「アイテムボックスに沢山あるよね!?」
「あれはおや・・・非常食です!」
ティナさん、今『おやつ』って言おうとしなかったかな?常人の半年分なんですけどね?
「オレとティナはセットか。いや、同行するのは1人でもいいな。」
「じゃったらフィ「「「学園長!」」」何でじゃ!?」
全員が消去法を選択した為、学園長はフィーナと言うつもりだったらしい。そしてオレ達は学園長を選んだ。
「当然だろう?」
「だって夫婦だもの。」
「離れるのは辛いです。」
「食欲に負けただけではないか!こらティナ!ワシの目を見て言わんか!!」
胃袋を掴んだ者が勝つのは、何も女性に限った話じゃない。寧ろ料理の得意な男性は高評価なのだよ。オレの場合は、そんな下心から料理人を目指した訳じゃないんだけど。
駄々をこねる学園長だったが、王都へ向かう使者が1組の老夫婦と知り大人しくなった。学園長なりに、何か思う所があったのだろう。
こうしてルーク達は村で留守番となり、次回からは学園長編がスタートするのであった。
「始まらないから!!」
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