第211話 調査の目的

浮かび上がった疑惑を棚上げし、まずは目の前の問題から片付けていこうと思う。


「個人的な内容に関しては後日改めて話し合うとして、差し迫った問題は3人の生活だな。」

「「「?」」」

「城なら浴場があるからいいけど、魔力が無いんじゃトイレが困るよね?」

「「「・・・はい。」」」


10日程の生活で見に染みているのだろう。3人共俯きながら返事をした。後から嫁さん達に聞いたが、桶に水を用意して貰って・・・これ以上はやめておこう。紙は貴重品。トイレットペーパーなんて上等な物は無いのだよ。普通は生活魔法で綺麗にしてしまう。それも無理な者に至っては魔道具で水を出して洗い、風で乾かす。


「魔力を持たない者はいないから、後天的に魔力を得る方法も知られていない。だから3人がこの世界でどう生きるにしても、これは相当大きな障害となるはずだ。」

「やはり魔力を得る事は出来ないのでしょうか?」

「ひょっとしたら有るのかもしれないけど、現時点では無いと言うべきかな。」


色んな人達に聞いて回ったが、前例が無い為わからないと言われた。過去に異世界召喚が行われていたら違ったのだろうが、彼女達が初めての事例である。幾ら調べてみても、情報は出て来ないはずだ。



実はこれに関して1つだけ解決策がある。しかしオレは断固拒否したいと思っている。故に嫁さん達にも話していない。


「ルーク?ふと思ったのですが「却下だ!」・・・。」


やはりと言うべきか、ティナは気付いてしまったようだ。


「何か方法があるのですか!?」

「それは・・・」

「亜神になればいいのよ。」

「「「「「あ!」」」」」

「「「?」」」


言い淀んだティナに代わり、ヴィクトリアが答えてしまった。当然嫁達はその事に納得し、召喚組は首を傾げる。


「スフィア、悪いけどこれ以上「この件は嫁会議に掛けさせて頂きます!」・・・はい。」

「ふふふっ、また娘が増えそうね。」

「くっ!余計な事を・・・。」


鋭い視線を母に向けるが、実はこの流れは予測していた。何れは気付かれていたはずなのだから。ならば何故こんな演技をしているのかと言うと、それは考えあっての事なのだが・・・。


「3人の身の振り方はみんなに任せるとして、暫くはオレと行動を共にして貰う必要があるだろうな。」

「そうですね。そうして頂けると助かります。」

「あら、どうしてかしら?」

「ナディアさん、今回最も問題なのは何ですか?」

「魔力でしょ?・・・違うか。言葉ね?」


ナディアもどうやら気付いたらしい。魔力が無くても生きていく事は出来る。それよりも問題なのは言葉の壁だろう。城に居れば生きて行く事は出来る。だがそれは人間らしい生活とは言えない。使用人達と意志の疎通が出来なければ、行き着く先はペットと同じ扱いだろう。


だがここで思ってもみない方向から提案が飛んで来た。


「ルーク、チャンスが欲しい。」

「チャンス?」

「元々彼女達の保護を言い出したのは此方側。だから彼女達が自立出来るまでの面倒は私が見る。」

「ほぉ?それで?」


態とらしく聞いてみたが、シルフィの考えは読める。当然その返答も用意している。


「だから私への罰を・・・」

「それは無理だろ。」

「そ、そんな!」

「いやいや。元々言い出したって理屈なら、オレに対価を求めるのは筋違いじゃないか?」

「ならどうすれば・・・」

「そうだな。だったらこうしよう。この3人が魔力を得られる方法を見つけ出す事。」


自分で言うのも何だが、とんだ無理難題である。これは勿論計算の上だ。


「そんな!」

「まぁ最後まで聞け。本来ならオレがそこまで譲歩する必要は無いんだが、オレもそこまで鬼じゃない。だからある条件を付ける。」

「条件?」

「頑張りをオレが評価するから、その分の報酬は毎日支払おう。そうだな・・・ヴィクトリアとヴァニラの協力を取り付けられたら毎日追加ボーナスを支払ってやる。そこから2人に報酬を支払えばいい。」

「乗った!」

「「はぁ!?」」


すぐさまシルフィが同意し、寝耳に水だったヴィクトリアとヴァニラが声を上げる。


「2人共勘違いしてないか?オレのモットーは、働かざる者食うべからずだ。フラフラしてるだけで何も生み出さないなら、嗜好品であるデザートを振る舞ったりはしないぞ?」

「「っ!?」」

「当然労働分の報酬は支払うんだ。つまりはシルフィからそれぞれ1品ずつ追加で甘味をゲット出来る事になる。」

「すぐに取り掛かるわよ!」

「はい!ヴィクトリア様!!」

「「「「「・・・・・」」」」」


嫁さん達の視線は痛いが、これで邪魔者は消えた。これでオレも自由に動ける。


「私も行かなきゃ!」

「ちょっと待った!」

「何?私は急いでる。」

「3人を放置させる訳にはいかない。調査は2人に任せて、シルフィは言葉を教えたらどうだ?魔力の問題よりもオレの評価は高いぞ?」

「っ!?3人共、すぐに私の部屋に来る!」

「「「は、はい!!」」」


勢い良くドアを開け、シルフィと召喚組が部屋を後にした。オレは自分が悪い笑みを浮かべているのに気付くが、取り繕う必要もあるまい。


「ここまで上手く行くとは思わなかったな。」

「そうですね・・・。」

「ルーク、ちょっと扱いが酷いのではありませんか?」

「ティナ・・・仕方ないだろ?あの3人が邪魔だったんだから。本当はオレが3人を引きつけている間に、スフィアから話して貰う予定だったんだけど・・・今の内に説明しようか。」

「「「「「説明?」」」」」


日頃からオレが疑問に思っていた事がある。今まではのんびり確認すれば良いと考えていたのだが、どうにも少し急ぐ必要がありそうだ。だからこそオレは、嫁さん達の協力を仰ぐ事にしたのである。


「これは偶然気付いたんだけど、帝国とラミス公国の建国時期が同じだったんだ。」

「偶然じゃないの?」

「そうかもしれない。因みにルビアは祖国の建国時期を知ってる?」

「えぇ、大きな出来事なら全て覚えているわ。」

「アームルグ獣王国の建国って、神魔大戦が始まる117年前じゃない?」

「っ!?」


ルビアの反応を見るに当たりか。


「どういう事?」

「オレの予想が正しければ、全ての国が同時に建国された事になる。」

「「「「「え?」」」」」

「勿論これはまだ仮説の段階だ。それを立証する為にも、みんなには里帰りして貰おうと思ってる。」

「里帰り、ですか?」


リノアが首を傾げたので、一応意図を説明しておこう。


「あぁ。里帰りを利用して、こっそり歴史を調べて欲しい。大変な時期だから、家族を安心させようって狙いもあるんだけどね。」

「「「「「なるほど。」」」」」

「里帰りの必要が無いティナとカレン、リリエル達には手伝って欲しい事がある。あ、ルビアがどうするかは本人に任せるよ。」

「そうね・・・1度帰るわ。」


自国の様子が気になるのだろう。迷ったようだが、帰国する事に決めたようだ。


「調べて欲しいのは2つ。建国時期と・・・転移魔法陣が設置された時期だ。」

「転移魔法陣ですか?」

「あぁ。そもそもおかしいだろ?何で都合良く全ての王城に設置されてるんだ?」

「国家間のやり取りを円滑に進める為?」

「フィーナの意見はもっともなんだけど、それなら建国以降の話になる。でも帝国の文献にその記録は無かった。」

「なら・・・元々魔法陣があった場所に王城を建てた?」

「何の為よ?」

「そう。今のフィーナとナディアのやり取りに戻るんだ。だからそれを調べて欲しい。」


オレの言葉に、里帰り組全員が頷く。


「因みにですが、それとヴィクトリア様達に何の関係が?」

「ティナ、あの3人は姿を消せるんだよ。」

「「「「「は?」」」」」

「どうやってるのかは不明だが、カレンと一緒に確認したから間違いない。転移で現れてるんじゃなくて、完全に姿を消して近くにいる時があるんだ。」

「何の為よ?」

「目的がハッキリしないから推測になるけど、多分オレ達の監視だと思う。」

「「「「「っ!?」」」」」


あまりにも予想外だったのか、全員が息を呑んだ。これは本当にオレの憶測なので、みんなには再度念押ししておいた。


「だからヴィクトリア様達が邪魔だったのね・・・。」

「里帰りと無関係の私達はどうするの?」

「まずリリエル達には上空からこの世界の探索を頼みたい。降りなくていいから、大体の様子を探ってくれ。」

「いいよ〜!」


フィーナからの質問だったが、まずは大きな所から説明する。大きい分だけ説明も大雑把だからである。しかしリリエルは相変わらず軽い返事だ。


「次にナディアだけど・・・引き続き竜王達と行動してくれればいい。」

「・・・いいの?」

「あぁ。ナディアの姉さんを助けたいのはオレ達も同じだ。」

「みんな・・・ありがとう。」


オレの言葉に全員が頷いたのを確認し、ナディアが礼を言う。ナディアの姉は最優先事項の1つだから、今回の壮大な妄想に付き合わせる必要は無い。


「ユーナは悪いけど、スフィアが抜けた分の穴埋めを頼む。」

「お任せ下さい。」

「カレンはみんなのフォローをして欲しい。」

「わかりました。」

「最後に残ったティナとフィーナだけど、2人はオレと一緒にエルフの国を探して貰う。」

「「「「「エルフの国?」」」」」


何故この状況でエルフなのかわからないといった様子だな。これはスフィアにも話してないから説明しておくか。


「ずっと気になってたんだけど、世界政府の会合にはエルフの国王も参加してるだろ?」

「そうですね。」

「それなのにエルフの国に関する話題は一切出ない。行ったって話も聞いた事が無い。にも関わらず、特に発言する事も無いのに毎回欠かさず参加だけはしている。」

「確かに・・・私も大まかな場所しか知りませんね。エルフ国に関しては、そういうモノだと聞かされていました。」

「転移魔法陣の謎を調べる為にも、まずは場所を確認しておきたいんだ。併せてエルフ国の考えてる事も知れたらいいとは思ってる。」

「それだけじゃないんでしょ?」

「勿論だ。フィーナが言うように、出来ればそこで妖精族と精霊に関する情報を集めたい。」


文献の数は少ないが、それでも妖精族と精霊に関する記述は残っている。変わってしまった今の世界で、それらがどうなったのかを確認しておく必要はあるだろう。



当然まだまだ疑問は尽きないのだが、まずは簡単に答えの得られそうな問題から手を付ける事にした。それにフィーナも気付いているだろう。オレが『里帰りの必要のないティナとカレン、リリエル達』と言った理由に。


ナディアは別件で動くから名前を出さなかったが、フィーナは違う。『里帰りと無関係の私達』なんて言ってたけど、フィーナにだって帰る故郷はあるはずだ。それは多分、エルフの国・・・。何故隠すのかはわからないが、王女でない事を祈るばかりだ。



もう王女様は要りません!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る