第206話 帝国の決断6
最高神が帰ってからも色々と騒がしかったのだが、少しして落ち着きを取り戻した。召喚された者達の件もあるのだが、そこまで逼迫していないようなので、まずは自分達の事を処理すべく話し合いを始める。が、大事な事を思い出したのでスフィアに耳打ちする。
「スフィア、悪いけど席を外すから、その間に説明を頼める?」
「構いませんが、どうかしましたか?」
「考えたらオレは何も食ってないんだよ。ついでにみんなにも軽く作って来る。」
「でしたら『ぱふぇ』のお代わりをお願いします!」
夕食をたらふく食べ、シメのチョコレートパフェを2つ食べたにも関わらずまだ食べるつもりらしい。幾ら別腹とは言え、流石に限度というものがあるはず。そう思ったのだが、正面切って言える訳もなく・・・グッと堪えて従う事にした。
スフィアがみんなに説明し様々な意見を取り纏めている頃、オレは自分の晩飯とデザートのお代わりを作っていた。食材は神域で料理が終わった際、片っ端から回収してやった。アークの顔が引き攣ってたが、そんなのを気にしてはいられない。
15年間切望していた地球の食材なのだ。オレのテンションはマックスで、他人の視線は全て無視。それだけの価値があるというものだ。
米があったのでオムライスでも作ろうかと思ったのだが、ティナの反応を想像して後日に回す事にした。1人で食べるなら、何処か僻地にでも転移しなければならないだろう。だから作ったのはサンドイッチ。肉を使うとティナが食いつくから、野菜メインで仕上げてある。寂しい晩飯だが、肩身が狭いとか思わないで欲しい。ティナ対策は最重要案件なのだ。
一方のデザートだが、今回はシンプルなストロベリーパフェにしておいた。チョコレートパフェより手が掛からないからである。適当でもイチゴがあれば満足するんじゃね?と思ったのは秘密だ。
そして現在、嫁さん達は目論見通りイチゴ談義に花を咲かせている。オレは部屋の隅っこでほくそ笑みながら、独り寂しくサンドイッチを齧っている。ティナが近寄って来た時は焦ったのだが、サンドイッチの具を確認してボソッと「草・・・」と呟き戻って行った。ホッと胸を撫で下ろしたせいで言えなかったが、草じゃありません!野菜です!!
ハーレムだろうと、時が経てばそんなものだ。徐々に人数を増やすか、お店に通うのが賢い選択だろう。
ネガティブになっているのは疲れのせいだろう。虚しくなってきたので話を進める。
「・・・で、オレは食材の提供を打ち切りたい、と言うより狩りに追われる生活をやめたいんだけど、みんなの意見は?」
「やむを得ずの賛成。でもどう切り出すかで揉めてるわ。」
「ルビアでも難しいか。一方的に宣言するのはダメかな?」
「ダメとは言わないけど、帝国全体の立場が悪くなるでしょうね。」
オレは何を言われても気にしないんだが、国民に影響が出るとマズイよな。となると、そういう流れに持って行くしかなさそうだ。
「他の国を挑発して、その流れで何とかならないかな?」
「今の状況だと、どの国も引っ掛からないでしょうね。打ち切られないように必死だもの。」
「提供する量を減らすのは?」
「それだと末端の民から切り捨てられるわよ?」
ナディアの指摘はごもっとも。何かネタでもあればなぁ・・・。ネタと言えば、みんなを連れて転移したんだった。
「オレが転移魔法を使える事について、何も無かったの?」
「どの国も発言を控えているようです。内々では不法入国で追求するかどうか揉めている国もあるようですけど、現時点では得策とは言えないとの結論に至ったとか。」
まぁ、弱みを握ってるようなもんだからな。でも何とかなるかもしれない。
「そこから強引に攻めていけないかな?」
「と言いますと?」
「この状況下では仕方ないとは言え、皇帝率先して法を犯すのは問題だよね?だから他国に転移するのはやめます、みたいな?」
「・・・特例で認められるんじゃない?」
「ですが、それを言ったら何を言っても特例となる恐れがありますよ?」
そうなんだよな。そもそもの話、各国がここまで必死になるのは肉のせい。牛や豚といった家畜は全て、村で飼育されていた。一緒に避難する事も出来ず置いて来たせいで、どの国も肉を入手する手段が無い。
事前に地下農場という対策を行っていた、ドワーフ国とカイル王国、そして帝国だけが家畜の保護に成功している。保護なんだから国内の需要を満たせるはずもない。それどころか、数を増やす為には生かしておく必要がある。
野菜に関しても似たような事が言える。各国に種を確保するよう呼び掛けはしたが、結局は種だ。すぐには食えない。こちらはドライアド達の協力を仰げば比較的早期に解決するが、それでもすぐとはいかない。
「手詰まり感が半端ねぇな・・・。」
「肉もそうだし、野菜もそうなのよねぇ。森で採取出来る物でもないし。」
「大体増えた魔物が食えないようなヤツばかりなのがいけないのよ。」
「「「「「確かに・・・」」」」」
ナディアが言う文句に対し、全員が同意する。そう、ダンジョンから出て来た魔物の種類が問題なのだ。スライムやゴブリンさん、狼などがほとんどである。つまり、食えないもしくは美味しくない魔物ばかり。美味しく頂ける大型の魔物は、出入り口のサイズのせいで移動出来なかった。
似たような理由で鳥型の魔物も来ていない。ダンジョンを作った魔神の悪意が汲み取れるというものだ。
「お金があっても食べられないのですね。ところでお金は美味しいのでしょうか?」
「ティナ、頼むから金属は食べないでね?」
「細かく砕いたら食べられませんか?」
「消化出来ないわよ・・・。」
ティナとナディアの会話は、微笑ましいのか痛々しいのかわからんな。金があっても食えないってのは戦争なんかで聞く話だが、今は世界大戦みたいなもんか。安全な国から買えればいいんだが・・・買う?
「スフィア!グリーディアの国内情勢は!?」
「残念ですが、ネザーレアとフロストルを取り纏めるのに手一杯で、食料の確保は難しいようです。こちらの大陸を助けられるのは2年後でしょうね。」
「そもそも環境が厳しいわよ?」
ルビアが指摘するように、あの2国はギリギリ人が住めるような気候だったっけ。最悪移住も考えたけど、これもダメかぁ。
「グリーディアがダメとなると・・・あとは未だ見ぬエルフ国と魔族の国か?見つけ出して交渉してみるとか?」
「いきなり行って売ると思うの?」
「力を見せつければ・・・」
「それ、交渉とは言わないからね?」
フィーナさんのおっしゃる通りですね。脅迫とか略奪と呼ばれる行為だわ。
「どっかに取引出来るような安全な国って無いもんかね〜?」
「そうそう都合良くは・・・」
「ふふふ。迷走してる姿って、見ていて楽しいわね〜。」
「お義母さま?」
そう言えば居たな。しかもオレ達が悩んでる姿を見て楽しんでやがる。絶対に性格悪いよな。うん、間違い無くオレの母親だ。
「ストロベリーパフェまで御馳走になったから助けてあげるわ。ルーク、アナタ安全に美味しい食材が買えるでしょ?」
「は?オレ達の話、ちゃんと聞いてたのか?一体何処にそんな国があるんだよ?」
「あるじゃない?上よ、上。」
上?上にあるのはローデンシアだぞ?あそこにはリリエル達が暮らす分しか無いんだが。と思っているのがわかったのだろう。すぐにヴィクトリアが否定する。
「もっと上よ。と言っても、実際に上にある訳じゃないんだけど。」
「上?・・・・・天国?・・・神域か!?」
「正解!そしてルークは権利を手に入れたでしょ?」
「そうか!取引すれば地球の食材が手に入る!!」
いや、しかし本当に大丈夫なのか?話を聞いた時から考えていたが、そこまで大量の食材を手に入れる事が出来るんだろうか?
魔物の素材なら問題にはならない。しかし貨幣と交換というのは躊躇われる。普通の売買ならば問題ないと思うが、一方的に購入する事となれば話は変わって来る。取引すればする程、この世界から貨幣が消えるのだ。
喫緊の問題解決にはなるが、続ければ他の問題が出て来る。更には地球側への影響というのも懸念されるだろう。この辺の問題は神域で対処するのだろうが、そうなると充分な量を確保出来ない事になるはずだ。
相手が違うのかもしれないが、とりあえずこれらの疑問をぶつけてみた。すると、答えてくれたのはシルフィの方。
「神域との取引は、実際に地球の物質を用いる訳じゃない。具体的には、最高神の能力である『万物創造』によって生み出される。だから何の問題も無い。そして支払われた通過や素材は神域側で保管し、時間をかけて還元される。」
「還元?」
「娯楽の為の資金。具体的な例を挙げると、神々がこの世界を訪れた際のお小遣い。」
「「「「「お小遣い・・・」」」」」
生々しい表現に、嫁さん達も言葉に詰まる。出来ればもうちょっと他の例えにして欲しかった。
「これはみんなが思うよりも大事な事。私達は本来、神々の短期訪問を奨励している。その世界を見て回り、気に入った神が移住を申請する仕組み。にも関わらずこの世界を訪れる神が皆無だったのは、この世界に魅力が無いから。これはカレンにも責任がある。」
「・・・すみません。」
「追求するつもりは無いから大丈夫。・・・正直に言えば、誰も気にしていなかった。」
「・・・・・。」
あまりの物言いに、カレンが目に見えて落ち込んでしまう。ムカついたのでシルフィを睨み付けると、慌てて事情を説明し始めた。
「か、勘違いしないで欲しいのは、神にも限界があるという意味。慢性的な人手不足。そして似たような世界は無数に存在するし、滅びた世界も多い。」
「それでいいのか?」
当然の疑問に口を挟んで来たのは母だった。
「ルークは可愛くもない者達を守りたいと思う?妻達に危害を加えるような者を、ルークは率先して救うと言うの?」
「・・・ないな。」
「神々というのは、基本的に不干渉なのよ。神が何でもかんでも手出ししていたら、それは『生きる』のではなくて『飼われる』という事よ。気まぐれに助ける事はあっても、世話や介護をする訳じゃないわ。」
そう言われると納得してしまう。自分達の意志で『生きている』のだから、その結果滅びる事になっても仕方ないって事なんだろう。
「極論を言えば、ここは魔神達を封じた世界だから、滅びなければそれで良かったの。問題なんて無かったでしょ?」
「それは・・・そうなんだろうな。」
「でも今回2つの問題が起こった。頭に入れておいて欲しいのは、神々が対処するのは女神カナンに対してのみ。魔物の件は不干渉を貫くわ。」
「「「「「え?」」」」」
神域との取引だとか、色々と優遇してくれているのだが、それでも不干渉と言われた事には全員が驚きの声を上げた。
「王族として私が告げる。本来この世界の住人のみが対処すべき問題に対し、取引という干渉を行うのはカレンの為。偶々ルークが居たからルークに頼んだだけ。」
「どういう事でしょう?」
「本来、世界の維持はカレンの手に余る。何の取り柄も無いカレンだけど、約1000年という期間に渡り世界を存続させた。この功績は大きい。」
「何だか微妙です・・・。」
「その努力に対する報奨として、今回に限り救済を施す。それが取引する本当の理由・・・多分。」
いちいちカレンを貶すのは気に食わないが、それだけカレンが評価されているんだろう。最後の呟きは聞こえなかった事にする。
ともかくだ。元々はティナ達を休ませる為に言い出した事。その目処がついたので、これにてお開きとなった。明日から具体的な内容を話し合って、この窮地を乗り切る事にしたのである。
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