第200話 閑話 嫁探訪1

200話達成&小説家になろうさん50万PV達成記念の閑話になります。ちょっと長くなりそうな予感・・・。


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いつもと変わらない、普段通りの朝。横を向くと、気持ち良さそうに眠るリノアの姿があった。少し前まではカレンよりちょっとだけ美人だと思っていたのだが、加護を与えられるようになってからはぶっちぎりの1位。魅力が溢れ過ぎていてヤバイ。


数分間リノアの寝顔を堪能し、静かにベッドから出る。今日は休日なので、朝早くに起こす必要も無い。そもそも起きるには少し早い時間帯である。何故オレが早起きしたのかと言うと、ズバリ休日だから。ダラダラ過ごすのもアリかもしれないが、まずはみんなの朝食を作らなければならない。



普段は城の料理人に任せているのだが、オレが居る休日は出来る限り料理人達にも休みを与えている。ブラック企業ではないのだから、休日はあって然るべきだろう。


(まぁ、一斉に休ませてやれないのが申し訳ないんだけどな。)


城には休日なんてものが存在しないので、交代で休みをとる以外に方法が無い。もうちょっと制度というか仕組みを見直す必要があるかもしれない。そんな事を考えながら、着替えて厨房に足を運ぶ。



厨房に立ってからは考え事を中断し、料理に集中する。嫁の数も多いが、使用人の数も多い。のんびりしていては時間が無くなってしまうのだ。この城に住まう嫁と使用人、併せて約60名。さらには常駐する兵士50名弱。併せて約100人分の朝食を一手に引き受ける為、オレが調理を担当する日にのみ採られる食事形態。つまりはビュッフェ形式である。


これは思いの外好評だった。好きな料理を好きなだけ選べるというのが大きい。使用人の中には若くて育ち盛りな者もいるし、あまり量を食べられない者にとっても沢山の種類を少量ずつ選ぶ事が出来る。


体を動かす兵士達は良く食べるし、何よりウチにはフードファイターがいるのだ。作る総量は200人前に登るのだが、それでも盛り付けに時間を割くよりかは大分マシ。これを全て1人で熟すのは無理だが、手伝ってくれる使用人や料理人がいる。


6時から9時までが朝食の時間となっていて、仕事のある者達から順に訪れる。本来であれば5時から調理開始はあまりにも遅いのだが、そこはアイテムボックスの出番。流石に200人前を1人で作るのは厳しいので、前日の夜に大半を調理済みだ。特にデザートは冷やす時間もあるので当然だろう。



一応説明しておくと、昼と夜は料理人達に任せている。オレも1日拘束されるのは辛いので、希望者を募る形だ。休みより金が欲しいという者はどの世界にもいるもので、特別に手当を支給している。割の良いアルバイトのようなものだろう。


彼等はオレと入れ替わりで厨房に入り、昼食と夕食の仕込みを手伝う。そして手に入れたお小遣いを握り締めて夜の街へと繰り出す。行き先は察してあげようじゃないか。


あとは残念ながら休みじゃない料理人や使用人に任せれば問題無い。オレが嫁さん達の夕食を担当するから、少ない人員でも回るのだ。



1時間なんてあっという間で、残念ながら本日仕事の料理人と使用人が厨房に現れる。


「「「「「おはようございます、陛下!」」」」」」

「あぁ、おはよう。早速そっちの料理を運んでくれるかな?」

「「「「「かしこまりました!」」」」」


並べられた料理を慌ただしく運んで行く使用人達。そんな彼女達の中で、1人この場に残る者がいた。


「ティナ達の分はこっちね。」

「かしこまりました。」


恭しく一礼し、指示された料理を運んで行く使用人。彼女は嫁さん達の担当である。残念ながら、嫁さん達は別室での食事である。オレみたいな『なんちゃって王族』ならばまだ我慢出来たのかもしれない。だが流石に『生まれながらの王族』と一緒に食事は無理だった。


理由は他にもある。ウチのフードファイターと同じ空間では、落ち着いて食事が出来ないのだ。お目当ての料理が無くなるかもしれない。そう思うと焦って料理を味わえなかった。何しろティナの食事は2時間に及ぶ。並の人間が2時間もの間、戦々恐々としながら食事を摂る事は出来ない。




8時を過ぎた頃。終わりが見えた事で、今度はティナの弁当作りに切り替える。オレが料理出来る時は作る決まり、というかそれが自然と出来上がった習慣となっていた。




そんな弁当を作り終えてふと思う。


「そう言えばこの弁当、一体何処で食べてんだ?そういやティナが何してるのか知らないな・・・。それに他のみんなも何してるんだ?」


自分の時間を大切にしたいオレは、嫁さん達と不干渉を決めている。だが別に干渉してはならない決まりでもない。オレがそうだから、みんなも自然とオレに合わせてくれているのだ。その為、オレは嫁達の休日の過ごし方を知らなかった。


「みんなが何してるのか、見に行ってみるのもいいな。」



こうして何気ない思い付きにより、突然の嫁探訪が始まったのである。




後片付けを料理人達に任せ、早速行動を開始する。と言っても、オレは嫁の行動がわからない。それに覗きみたいで何か嫌だ。ここは一つ、誰かを道連れにするのがいいだろう。


「行動が読めるのは・・・スフィアか。」


何とも失礼な物言いかもしれないが、これは代え難い事実。そう思いながら向かうのは執務室。今回はノックせずにドアを少しだけ開け、中の様子を覗いてみる。何だか有名な家政婦にでもなった気分だ。


(・・・いた。)


予想通り、執務机にはスフィアの姿。群れを成して襲い掛かる書類に立ち向かうその姿は、さながらどこぞの女勇者か。


(みんなの行方は気になるけど、近付くべきじゃないな。仕事に集中させてあげよう。オレは優しい旦那、うん、なんて素晴らしいんだ。)


そんなアホな事を考えたせいだろうか。一瞬外した視線を戻して驚愕する。


「ヒィッ!」

「そんな所でコソコソと、一体何をしているのですか?」


いつの間にか扉の前に移動したスフィアと目が合い、思わず悲鳴をあげてしまった。失念していたが、オレの加護でスフィアの身体能力は向上している。動き自体は素人のソレだが、移動速度は熟練冒険者と同等。


数秒あれば椅子から立ち上がって数メートル程度は朝飯前。オマケに感覚も鋭くなっているんだろう。あっさりと視線に気付かれてしまった。まぁ、オレも気付かれないように気をつけていたわけでもないしな。


「い、いや、スフィアは忙しいだろうから気を遣ったんだ!」

「そうですか、お気遣い頂きありがとうございます…とでも言うと思いましたか!?」


ーーゴン!


「痛っ!」


オレの考えなどお見通しだったのだろう。スフィアによって勢い良く開けられた扉が額に直撃する。額を押さえながら悶絶するオレに、スフィアが言葉を続ける。


「それで、一体何の用です?」

「実は・・・」


スフィアに事情を説明すると、予想外の返答が返って来た。


「そういう事ですか。申し訳ありませんが、みなさんの移動はカレンさんにお任せしています。ですから私も把握していないのですよ・・・。」

「まぁ、プライベートな事だしな。ならカレンの居場所はわかる?」

「カレンさんでしたら、テラスにいらっしゃると思いますよ?」


テラス?そんな所で何してんだ?まさか日向ぼっ・・・


「ルーク?」

「え?何?」

「失礼な事は考えない方が身の為ですよ。」

「・・・・・。」


何故バレたのかはわからないが、ここは黙ってやり過ごそう。下手に言い訳するのは傷口に泥を塗る行為に思える。


「・・・まぁいいでしょう。私も暇ではありませんし、さっさと行きますよ!」

「はい。」


大人しくスフィアに連れられテラスに向かうと、お茶しているカレンの姿が見えた。その後ろには使用人、所謂メイドさんが控えている。



「しかし良くもまぁ、カレンの居場所を知ってたな。取り決めでもあるの?」

「いいえ、そのような物はありませんよ?」

「ん?なら何でわかるんだ?」

「用の無い時はいつもあそこにいますから。」


何だろう?今のセリフが妙に引っかかる。


「カレンの仕事ってみんなの転移だよな?」

「えぇ。」

「基本的に暇なんじゃない?」

「そうですね。」

「なら1日中あそこでお茶してるって事になるよな?暇なんだよな?」

「待機と言って頂けますか?」

「「・・・・・。」」


体の良い厄介払いという事だろう。さっきの仕返しもあるし、何よりカレンが可愛そうだ。ここは一つ仕返しと行こうじゃないか。


「あんな所で毎日お茶するのも飽きるだろ。それにスフィアも忙しいみたいだし、カレンに手伝うよう頼んでやるよ。」

「ちょ、待って下さい!」

「何?」

「カレンさんの手を煩わせる事もありません!私は大丈夫ですから!!」

「いやいや、それだとカレンもつまらないだろうし、実力のある者を遊ばせておくのは上に立つ者としてどうかと思わないか?」

「そ、それは・・・」


流石のスフィアも返答に窮するらしく、必死さが伝わって来る。あとひと押しって所だろう。


「大丈夫!角が立たないようにするから、オレに任せておけって!!」

「ですが!」

「・・・何か事情でもあるの?」


如何にも空気読めませんって雰囲気を醸し出してみたが、やはり無理があったらしい。途中からスフィアの顔つきが訝しむものへと変化した。そのせいで堪え切れなくなり、ニヤッとしてしまった。


「・・・はぁ。わかってて言いましたね?先程の仕返しですか?」

「いいから説明して。」

「全く・・・。初めはカレンさんにも手伝って頂いておりました。ですが、どうにも我々とは感覚にズレがあるらしく・・・力技に走ろうとする傾向が見られるのです。」

「力技?」

「えぇ。例えば辺境で魔物の被害があったとします。その対処をカレンさんに頼むと、単独で突撃してしまわれるのですよ。」

「悪い事じゃないよね?」

「ゴブリンの群れが相手でも、ですか?」

「うわぁ・・・」


それってアリの巣に核兵器をぶち込むようなものじゃないか。


「当然魔物は殲滅して下さいます。ですが一緒に周辺の自然まで無くなるんですよ!?その後の対処をする私の身にもなって下さい!!」

「お、おう・・・」

「ですからカレンさんには大人しくして頂きたいのです!」


なんだか色々と苦労をかけていたらしいな。すまん。スフィアが涙目になってしまったので、この辺でやめておこう。


「わ、わかったから落ち着いて!案内はカレンに頼むから、スフィアは仕事に戻ってくれ。」

「・・・はい。取り乱してすみませんでした。いいですか?くれぐれも、く・れ・ぐ・れ・もお願いしますね!?」

「はいはい。心配しなくても大丈夫だから。」


なんとか宥める事には成功し、スフィアを帰らせる事が出来た。かなり不安そうな表情だったが、その辺は信じて貰おう。自然を大切に!



こうしてオレは案内を頼むべく、カレンの下へと歩み寄るのだった。

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