第172話 カレンの想い
ルークへ
本来であれば直接お話すべきですが、上手く伝える自信がありませんでしたので手紙で失礼します。
誰にも言えずにおりましたが、私には神としての役目があります。単刀直入に申し上げるとこの世界、フォレスタニアを守る事です。守ると言っても、具体的に何から守るのか?そう思われるかもしれませんが、一言で言い表すのは難しいです。良からぬ事を企てる者、強大な力を持つ魔物。そして、現在は封印されている魔神等。
中でも魔物と密接な関係にあるのが魔神ですね。ですがこれは、関わらなければ問題とは成り得ません。魔神が封印されている現状、手に負えないような魔物が現れる事はありませんから。
ならば何を危惧しているのかと言うと、最初に挙げた『良からぬ事を企てる者』になります。これは何も、欲望に駆られた権力者の事ではありません。具体的には、魔神を復活させようとする者の事です。
ここから先は、決して語られる事の無い真実です。秘匿される理由は、神々の恥となる為。出来る事ならこの手で片付け、当時を知る者達の胸に仕舞っておくべき真実。
世に言う『神魔大戦』ですが、事の発端は実にくだらないものでした。様々な神々がいるように、実に様々な魔神がおります。
その中のごく一部が言いました。「ただ見守るだけでは生温い、徹底的に管理すべきだ」と。ほぼ全ての神々が干渉を拒む中、積極的に干渉しようとしたのです。初めの内は穏便に済むと思われていました。それもそのはず、相手は圧倒的少数だったのですから。
神々の多くが楽観する中、突如事態は動きます。相手が実力行使に出たからです。誰もが油断しました。すぐに鎮圧出来るだろうと思ったのです。しかし、神々にとっての誤算がここにありました。相手はいつの間にか、圧倒的な力を保有していたのです。
何の前触れも無く奇襲を受け、多くの神々が亡くなりました。思えばこの時点で、我々の優位は覆されたのです。圧倒的だと思っていた相手に、次々とその数を減らす自軍。幾ら戦闘とは無縁の神でも、そこまで簡単に負けるはずがありません。そう考えた我々はまず、情報を集める事にしました。
そこで驚くべき事実に直面します。敵は何処からか此方の情報を手に入れていたのです。それが一体何処なのか。それはすぐにわかりました。味方が漏らしていたのです。
当然すぐに犯人を追い詰めるのですが、ここでまたしても予想外の出来事に見舞われます。裏切り者は複数いたのです。この事に気付くのが遅れ、我々は一気に数を減らします。その時点で、相手を殲滅するだけの余力が残ってはいませんでした。苦肉の策として、犠牲を払いつつも封印する事に成功するのですが・・・首謀者を取り逃がしてしまいます。
一時的ではありますが、こうして事態は収束します。ですが、話はそれで終わりません。あろうことか、残った神々の一部がその事実を伏せ、魔神を糾弾し始めたのです。これにより、我々と魔神の間に大きな溝を作る事となりました。先導したのは神だと言うのに・・・。
これまで魔神に関する説明をしませんでしたが、それはルークを巻き込まぬ為です。産まれて間もないルークであれば、見逃して貰えると考えておりました。ですが私の加護を受けてしまえば、確実に巻き込まれる事になります。ルークに危険が及ぶのは耐えられませんからね。それ程までに、私は貴方が愛おしいのです。
そして私が隠しているのはこれで最後です。魔神とは魔族の神。そして私達は人族の神です。貴方の父であるアーク様は答えて下さいませんでしたが、貴方の母は恐らく魔神だと考えられます。禁呪を扱えるのは、魔神とその加護を受けし者だけなのですから。
ちなみに光属性の禁呪が使えない件ですが、それは存在していないからです。聖女が使えるのは禁呪ではありませんが、それはいずれ説明するとしましょう。
隠し事ばかりの私でしたが、もし許して頂けるのであれば・・・改めて私の加護を受け取って頂きたいと思います。ですが、それには覚悟が必要です。裏切り者は、今もこの世界に潜んでいるのですから・・・。
ーーーーーーーーーーーーー
「そう言う事か・・・。スフィアはこれを?」
「いいえ。私は、私達はカレンさんの口から聞くべきだと思いましたので。」
読んだのかと問うルークに、スフィアは首を横に振る。真剣な面持ちのスフィアに対し、スッキリした表情のルークが口を開いた。
「なら、現時点を以てカレンとスフィアの加護を再開!但し、スフィアとの子作り1年間無しは変わらない。まぁ、それもスフィア次第だけどね?」
「はい。さらに罰を軽くして頂けるよう、頑張るしかありませんね。」
ルークの決定に、スフィアが悲しそうに笑った。甘い、と思うかもしれないが実は相当重い罰である。貴族や王族、皇族に嫁いだ者にとって、最も重要な務めは跡取りを産む事。1年とは言えその役割を降ろされるのだから、スフィアの立場は嫁達の中でも1番下となる。
スフィアとしては、この1年の間に子供が出来ない事を祈るしかない。もしくは、出来ても全員が女の子であるか。后妃にとって、第一皇子というのは何よりも大きいのだ。戦えないスフィアにすれば、絶対に先を越される訳にはいかないだろう。
さらに罪を軽く、と言ったのは再び加護を貰える事を意味している。これはカレンのついでにスフィアも、という意味である。ついでのように聞こえるが、これはルークも考えての結果だ。しかし深い考えではない。
反省しているようだと感じたのが半分。残りの半分は、抱くなら若い方が良いと思っただけの事。1年あれば、スフィアの肉体は10代後半まで若返るだろう。10代と30歳手前。どちらがいいと問われれば、大抵の者が前者を選ぶだろう。ルークは単に、スケベだったという話。
脳内ピンク色のルークだが、スフィアに悟られる事なく加護を再開する。実はこの時、図らずもカレンの危機を救っていたのだが、それは後日。
ルークとスフィアのやり取りが終わると、ナディアと竜王達が近付いて来た。何が起きているのか理解した様子のエアが神妙な面持ちで呟く。
「どうやら妾達も協力せんといかん事態となっておるようじゃの?」
「エア、だったか?悪いけど頼むよ。」
「で、どうするの?」
「そこなんだよなぁ・・・」
ナディアに言われ、ルークは腕を組んで難しい顔をする。そもそも、エリド村の者達の狙いが転移門というのは、ルークの憶測でしかない。確定しているのは迷いの森と、ライム魔導大国にあるダンジョン。そして現在襲撃を受けていると言う、ラミス神国の小さな遺跡である。
確証は無いが、カレンは迷いの森へ向かっているだろう。となれば、ラミスとライムの2ヶ所をどうにかしなければならない。しかし、戦力を分断して良いものなのか、判断がつかなかったのだ。ルークが悩んでいると、アースが疑念を口にする。
「問題は本当に3ヶ所なのかって事だな?」
「あぁ。オレ達が知らないだけで、他にもあるのかもしれない。こんな事ならカレンに相談する
べきだったよ。」
意味深な発言に、ナディアが詰め寄る。
「どういう事?」
「ん?あぁ、実は・・・」
ティナとフィーナにしか教えていなかった事を思い出し、ルークはリューとサラを目撃していた事を告げた。未然に防げたかもしれないと考えるルークではあったが、それは無理だとアクアが告げる。
「そうですか。ですが、未だ相手の目的も不明ですからね。どの道避けられなかったでしょう。」
「じゃな。それに、ライムという国のダンジョンは封鎖されておるのじゃろ?近づけるのか?」
エアの指摘に、そう言えばといった表情のルークとナディアがスフィアへと視線を向ける。当然スフィアも2人の意図を悟り、求められる以上の情報を提示する。
「ライムにあるという最高難易度のダンジョンは、国が厳重に管理しています。向かった所で門前払い・・・さらに我々の場合、5帝が行く手を阻むでしょうね。」
「そういや喧嘩売ったんだっけ・・・。」
「「「「「・・・・・。」」」」」
完全に忘れていたルークに、全員が冷たい視線をぶつける。
「ま、まぁ、ライムはその5帝とやらに任せるとしよう!」
「いや、反応を見るに噛ませ犬って所だろ?なら、お前だけでも様子見に向かうべきだ。手に負えなければ応援を呼べるしな。」
厄介事を回避しようとしたルークにアースが口を挟む。全員が無言で頷くのを目にし、逃げられないと悟ったルークが折れる。
「はぁ・・・わかったよ。じゃあ今からラミスにいるティナ達の所へ送るから、みんなは遺跡に向かってくれ。」
「「「「「おぉ!」」」」」
結論が出た所で、ルークはスフィアを残して転移する。詳しい打ち合わせはみんなに任せて、単身ライムの拠点へと転移するのであった。
エリド達の作戦開始から既に2時間以上が経過していた。果たしてルーク達は間に合うのか・・・。
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