第129話 世界政府総会1
城へ戻って汗を流し、みんなで朝食を済ませるとスフィアが今日の予定を告げる。
「本日は世界政府の総会が開かれます。遅れないように着替えを済ませて下さい。」
「いつもの議事堂だと、大人数は入り切らないんじゃないの?」
「そうです。ですから総会は、クリミア商国にある世界政府本部で行われます。」
ライム魔導大国にあるという議事堂の狭さが気になったので、スフィアに聞いてみた。どうやら大人数の場合は、開催地が異なるらしい。
「どうしてそんな面倒な事をするのですか?」
「ティナさんの気持ちは理解出来ますが、単純に警備の問題ですね。」
本部なのに警備の問題?オレとティナが揃って首を傾げていると、スフィアが詳しく説明してくれた。
「普段の定例会議も世界各国の王達が集まるのですから、その警備は厳重を極めます。ですが、いつもの参加者数であればライム魔導大国で開催した方が警備が楽なんですよ。あそこに攻め込む馬鹿はいませんからね。」
「本部は厳重じゃないの?」
「いえ、以前まではこの国が脅威でしたから・・・。」
なるほど。会議中に攻め込まれたら、世界各国の王達が一網打尽だもんな。ライオンの隣で雑談は出来ないか。
「そんな事より・・・皆さんは、その格好で行くつもりですか?」
「「「「え?」」」」
スフィアの問い掛けに、総会参加メンバーが揃って声を上げる。みんなの格好に何か問題でも?ちなみにオレは強制的に着替えさせられた。まぁ、冒険者寄りの衣装なので文句は言えない。王冠・杖・マント着用と言われたら逃亡していただろうけど。
「え?じゃありません!カレンさんはいいとして、ティナさんとカレンさんの服装は何です!?」
「おかしいですか?」
「私だって普段通りよ?」
ティナとフィーナの姿を確認するが、至って平常運転である。というか、これぞエルフという服装なのだから、スフィアの言いたい事がわからない。ちなみにカレンは、普段からドレス姿である。あんな格好で激しい動きが出来るのだから、誰が見ても異常だろう。あれ?ひょっとして・・・。
「ティナとフィーナは護衛だよ?おまけにその服って、エルフ族の正装だよね?」
「・・・そうでしたね。すみません、うっかりしていました。」
「ぷぷぷっ。」
笑いを堪えたルビアをスフィアが睨み付ける。まったくこの2人は、いつになったら仲良くなるものやら。このままでは不毛な争いになりかねない為、さっさと総会に向かうとしよう。
「さて。少し早いと思うけど、遅れるよりはいいだろ。」
「そうですね。早めに向かって説明しておきたいですし。」
スフィアの言葉は気になるが、着けば説明して貰えるらしいので余計な発言は自重する事にする。
城の地下にある区画に入り、最奥の扉をスフィアが開ける。ここの鍵はスフィアだけが持っている。どの国でも転移魔法陣は国家機密扱いなので、国王のみが鍵を所持しているらしい。
オレ?フラフラしてる奴が持っててもダメでしょ。だからスフィアに押し付けてみた。長年染み付いた習慣なのか、自然に受け取ってくれたので良しとしよう。だから2度とこの件に触れてはいけない。鍵を所持するという事は、会議に参加するという事になるのだから。
ちなみに自前の転移魔法を使わないのは、怪しまれるのを避ける為である。ほとんど使った事が無いのもあって、細かい仕様がわからないのだ。転移魔法陣には、質量や範囲の制限があるのかもしれない。おいそれと実験する訳にもいかない為、オレもカレンも全く同じ転移魔法だと断言出来なかった。
オレとカレンであれば、魔力を込めた分だけ転移させる事が出来る。かなり燃費の悪い魔法なのだが、本気を出せば王都をまるごと転移させられる気がする。
この転移魔法陣だが、世界政府に管理担当者がいて、会議の日のみ使用許可を出しているらしい。各国の魔法陣と連動していて、世界政府内の魔法陣が起動していなければ使えない仕様との事だった。なかなか考えられた仕組みである。
「ルークは顔を知られていないでしょうから、到着したら私とフィーナさんが先導します。」
「了解。黙って付いて行くよ。」
いちいち誰何されても面倒という事なのだろう。スフィアに答えてからティナとカレンに視線を向けると、2人も頷いてくれた。スフィアはその様子を確認し、転移魔法陣を起動させる。
一瞬で景色が変わり、目の前には見知らぬ者達が立っていた。
「スフィア王妃殿下にフィーナ様・・・いえ、フィーナ王妃殿下でしたね。後ろの方が皇帝陛下でしょうか?」
「えぇ、そうです。少し早いですが、案内を頼みます。」
「かしこまりました。それではこちらへ。」
大勢の中から1人の老人が声を掛けて来た。スフィアとフィーナの顔は覚えていたらしく、すんなり案内して貰える事になった。いきなりオレが来たら、誰だって話になったんだろうな。面倒な事にならなくて良かったよ。
暫く歩いて行くと、大きな扉の前へと辿り着く。両脇に立つ警備兵によって扉が開かれるとそこは、12畳程度に仕切られた空間になっていた。全面と左右を仕切られてはいるが、腰の高さ程しかない為、座っていても見渡す事が出来る。
正面に進むと、ここはどうやら2階となっているらしく、下を見下ろす事が出来た。下には教卓のような机が置かれており、テレビの国会中継を思い出した。
「あの場に立つ時は、集中攻撃されると思って下さい。」
「なんとなく、そんな気がしたよ。」
オレの視線に気付いたスフィアが、聞きたくもない説明をしてくれた。出来る事なら立ちたくない。椅子に座って居眠りするのが理想である。
「どうやら1番乗りのようですね?」
「好都合ですね。入って来た順に説明しますから、ティナさんも出来る限り相手の顔と名前を覚えて下さい。」
「カレンはいいの?」
カレンの名前が上がらなかった為、思わず聞いてみた。スフィアせんせ〜い!カレンちゃんだけズル〜い!!
「私は人間の政治に興味ありませんから。」
「・・・そういう事です。」
何それ、ホントにズルいじゃねぇか。オレだって興味無いんですけど?
「ルークは皇帝ですし、私達の夫ですからダメですよ?」
「「「「・・・・・。」」」」
ティナさんや。何故わかった?今日は何も考えないようにしよう。
そんなやり取りをしていると、出席者が続々と入室し始める。スフィアから王の名前を聞きながら待っていると、ついに全員が揃ったようだった。
議長は世界政府の職員が担当するらしく、会場が静まり返ると開会を告げる。
「皆様お揃いのようなので、これより総会を開会致します。進行は私、マークが務めさせて頂きます。それでは5帝の任命式から。前年度に引き続き、天帝ギルス様。火帝ルチア様。水帝ナナシ様。風帝カトレア様。土帝ドラン様。皆様、中央へお越し下さい。」
呼ばれた者達が退出し、1階から現れる。この部屋の外に階段があるらしいな。呼ばれた者達を見ると、意外にも全員が若かった事に驚いた。火帝なんて、オレと大差ない年齢かもしれない。関心したのも束の間、カレンが素直な感想を述べる。
「やはり大した実力ではありませんね。」
「あのさぁ・・・一体誰と比較してる?」
溜息混じりに聞いてみたのだが、カレンが答える事は無かった。ティナやフィーナと比較したんだと思うけど、そもそもの前提が間違っている。この大陸では上位に入る実力者だろう。それ以上となると、エリド村の住人くらいしか思い当たらない。
「それでは皆様。5帝の任命に対して、反対の方は挙手をお願い致します。」
議長のマークの呼び掛けに、3人の国王が手を挙げた。あれは確か・・・。
「ねぇスフィア?手を挙げてるのって誰だっけ?」
「あちらのエルフ族がアストリア王国国王、ライザック=アストリア。人族の向かって左がフロストル王国国王、ザブラス=セーヌ=フロストル。右がネザーレア王国国王、サウダイール=ギルス=ネザーレアです。あらゆる事に難癖をつけて来る面々ですね。」
いるよねぇ〜、そういう人。ネザーレアとフロストルは想像してたけど、まさかエルフもかよ。良く見たら『森の熊さん』所属の王女も座ってやがる。拒絶しておいて良かったよ。性悪小姑みたいなのが義父になったら発狂ものだ。
「賛成多数という事で、引き続き5帝の任をお任せ致します。5帝の皆さんは席にお戻り下さい。」
「ちっ!」
「我が国の者の方が優れていると言うのに!」
「・・・くだらん。」
5帝がゾロゾロと歩き出すと、ネザーレア・フロストル・アストリアの国王達が暴言を吐いた。コイツらは3バカと呼ぶ事にしよう。5帝が戻って来ると、議長が次の議題に移る旨を告げる。
「次の議題は、冒険者ギルドに関する内容です。デニス副本部長、こちらへどうぞ。」
オレのギルドカードを落として行ったおっさんだ。って言うか、副本部長?そう言えば、まだフィーナがどうするか聞いてなかった。
「フィーナの件、まだ片付いてなかったね。どうするか決めた?」
「えぇ。私はルークから離れないわ。嫌だって言っても無駄よ?」
「そんな事言わないよ。」
ウィンクしながら答えたフィーナに、オレは笑顔で返した。信じてたけどね。そうこうしているうちに、デニスのおっさんが中央に辿り着く。
「我々冒険者ギルドからは2つ。1つは冒険者ギルド本部長、フィルフィアーナの進退に関する説明を求めます。もう1つは・・・Sランク冒険者であるルーク=フォレスタニア皇帝陛下を、SSSランクに推薦します!!」
「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」
まさかの提案に、出席者全員が驚愕する。承認されれば、史上初のトリプルとなる。驚くのも無理は無いだろう。オレ達としても、決別宣言した後すぐにSSSランク推薦と言われれば驚くというものだ。
「あの野郎・・・。」
「完全にしてやられたわね。」
フィーナに関する議題は想定の範囲内だったが、まさかオレをトリプルにしようとは。オレと敵対せずに済む方法としては、まさにベストな選択だろう。非常に名誉な事である以上、断る者などいないはずである。・・・オレ以外には。
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