第107話 ダンジョン 〜50階

結局全員が一緒に行くと言い出したので、ルークはティナとナディアと共にアイテムボックスの整理を始めた。『森の熊さん』の休息と、全員分の水を確保する為である。今回は空き部屋となっているボス部屋での作業となる。


「シャルルーナってエルフの王族なんだよね?」

「ええ、そうでしょうね。アストリアって名前だもの。」

「アストリアって・・・エルフの国名か何か?」

「・・・やっぱり知らなかったのね。」


ナディアさん、やっぱりって何よ?間違ってないけどさ。オレがそんな細かい事をいちいち気にすると思ってるの?


「妖精が暮らす森の近くにあると言う、エルフの国の名前です。ですが、何処にあるのかはわかっていません。」

「あら?ティナも知らないの?」

「私はエルフの国の出身ではありませんから・・・。」


そう言えば、昔そんな事を聞いた気がする。ティナはカイル王国で生まれたって話だったっけ?エルフと言えば『迷いの森』って設定だよな?じゃあ、行った事が無いであろうティナには抜けられないか・・・。


「そんな事より、あの娘達50階から戻ったのよね?なら、ポーターを見つけたら帰還しても構わないんじゃない?」

「いや、50階までは行こうと思う。」

「何か狙いがあるのですか?」

「50階が最下層なら攻略してしまいたいし、まだ先があるとしても50階まで行っておけば、50階には転移出来るかもしれないでしょ?」


今回は冒険者達の救出となるが、本来の目的はナディアの姉探しとオレのレベル上げである。救援依頼が完了したら、再度ダンジョンに戻る必要がある。出来る限り楽をしたいからね。


「ルーク・・・ありがとう。」

「気にしなくていいよ。さて、水も確保出来たし、そろそろ行こうか?」


50階に転移する意味を理解したナディアが礼を言ったが、その必要は無い。まだ見つかってないのだから。ナディアの姉さんの実力は不明だが、単独行動ではおそらく無事ではないだろう。言葉に出来ない想いを胸に仕舞い、オレ達は『森の熊さん』と合流する。


「オレ達は先に進みますけど、本当に付いて来るんですか?」

「シャルが行くのであれば、私達も一緒に行きます。仲間ですから。」

「それに、皇帝陛下に恩返しが出来るかもしれませんからね。」


うさ耳のルクルさん、恩返しがしたいなら大歓迎です。今度バニーガールの衣装を作らせますね

!!兎の獣人はオレの予想通りの可愛さなのだが、予想外なのが熊さんである。


オレのイメージでは、デカくて黒い種族を想像していた。シャケを咥えていれば尚良い。しかし現実は違った。フウさんだけが特別なのかもしれないが、茶色い小さな耳と尻尾が生えているだけの、小柄な女性なのだ。クマなの?と思わず聞き返したくなる。


オレはシャル達の相手をティナとナディアに任せて、最後尾を離れて歩いている。そのまま41階に降り立つと、そこも所謂『ダンジョン』という景色だった。しかし、40階で発見した冒険者達に言わせると、道を間違えると入り口に戻されるとの事である。ここで言う入り口とは、ダンジョンの入り口ではなく、その階の入り口、つまり階段の前との事だった。その強制転移は41階から49階まで続くそうである。


40階のセーフティエリアから魔法も使用出来ないのだが、これもダンジョンの仕掛けの1つ。存在するのかは知らないが、探知系の魔法を禁止する目的だろう。


さらに、この階からは熱帯にでも訪れたかのように錯覚してしまう。高温多湿で、若干居心地が悪い。人目を気にしないというのであれば、素っ裸で動き回りたい程だ。失礼、パンツは履かせて頂きたい。中腹のジャングルに自生する、1本の黒いバナナは隠さなければ落ち着かない。おっと、横にアボカドも2つあったかな。・・・って、下ネタじゃねぇか!!


話を戻すが、蒸し暑いので喉が乾く。しかし、魔法に頼っていると飲水が確保出来ない。水無しで50階に辿り着くのは不可能との事だったので、これもダンジョン製作者の思惑の1つと思われる。


さて、救助対象の冒険者達に案内されるまま、オレ達は41階を進んで行く。幾つもの分岐路を通過し、体感で3時間が経過した頃、大きく開けた場所へと辿り着いた。そこには広大なジャングルが広がっていた。言い換えると、熱帯雨林である。


何故態々言い換えたのかと言うと、『水いらねぇじゃん!』と思う者がいるからである。オレもそう思った。凄く気になった。そのまま放置するのも気持ち悪いので、仕方なく聞いてみた。誰にって?指名せず、全員に聞いてみたよ。そしたら誰か答えてくれるでしょ?


「この気温と湿度、環境なら、飲水の確保は難しくないよね?」

「そう思う気持ちはわかりますが、ここでは雨が降らないんです。川や沼もありません。」


淡い期待に賭けたのだが、予想通りシャルルーナが答えた。クマさん、あなたリーダーですよね?


「え?・・・なら地面を掘ってみれば?」

「試した冒険者がいたらしいんですが・・・何処を掘っても岩盤に当たるとの事です。」

「じゃあ、この木は何処から水を・・・?」

「ここに生えてる木は、岩盤を突き破っているそうですよ。岩盤は分厚く硬い為、魔法も無しに掘る事は難しいそうです。」


全てシャルルーナが答えやがった。あ、別に彼女が嫌いな訳では無い。『距離を取れ!関わるな!!』とオレの勘が告げているだけだ。


しかし、魔神も凄い所に力を入れるものだ。そんな所に注力するより、他にすべき事があっただろうに。まぁ、余計なお世話なんですけどね。


それにしても、凄いジャングルだなぁと思い木を見ると、オレの目線より低い位置に沢山の果実が成っている。1つ取ってみると、美味しそうな香りがする。味見すべきか悩んでいると、クマさんがスマイル付きで解説してくれた。


「41階から49階まで、それぞれ異なる実が成っているんですよ。実はどれも美味しいのですが、食べると喉が乾くのでやめた方がいいですよ?」

「喉が乾く?ひょっとして全種類ですか?」

「はい。雨が降らないので、水分を奪っているのかもしれませんね?」


そんな不思議植物が存在するのかよ・・・。しかし非常に気になるので、オレは10個程アイテムボックスに収納した。その後も順調に進み、サンプルも無事にゲットしているのだが、オレには名前の無い実の正体がわかってしまった。味見など必要無い。見た目と匂いだけで充分なのだ。42階から46階までに、パッションフルーツ・マンゴー・アボカド・パパイア・ライチを手に入れた。


47階へと続く階段の前で食事と睡眠をとり、その後も順調に移動を続ける。47階から49階までにはバナナ・パイナップル・コーヒーを入手出来たのである。内心、全力で歓喜した。食べられないのに・・・。しかし、そんな事より肝心のポーターさんがいない。


「ここまで来ても見つからないなんて・・・」

「ねぇ?普通に考えたら、喉が乾くような実を持ち帰る訳にはいかないわよね?」


シャルルーナの呟きに、ナディアが口を出した。オレも、話を聞いた時に思っていたが、常識のある者であれば、そんな曰く付きを持ち帰るはずがない。


「それじゃあ、あの子は!?」

「貴女達の為に、50階へ向かったんでしょうね。」

「「「「っ!?」」」」


森の熊さん一行が言葉を失っている間、オレ達は今後の方針を話し合っていた。


「で、どうする?」

「50階を見てないオレ達じゃ、勝手に判断は出来ないかな。」

「冒険者なのですから、自己責任で構わないと思いますよ?」

「なら、本人達に任せるという事でいいのね?」


漠然としたナディアの問い掛けに、オレとティナが一言ずつ返して話し合いは終了した。揉めている時間は無さそうだ。そんなオレ達の会話が聞こえたのか、森の熊さん・・・略して『森熊』の4人がオレ達に視線を向けている。元ギルドマスターに、手短に説明して頂こうじゃないか。


「私達は予定通り50階へ向かうわ。護り切れる保証は無いけど、付いて来るなら邪魔にならないようにして。わかった?」

「「「「はい!!」」」」


その後もナディアは全員に礼を言われていたので、オレとティナは先行する事にした。50階に辿り着くと、そこは今までとは趣が異なっていた。ダンジョンというよりは洞窟である。通路も広く、天井も相当高い。口にはしないが、これはアレだ。ドラゴン級の魔物が出ると物語っている。


50階に入った事もあり、試しに鑑定魔法を使ってみると、問題無く使用する事が出来た。魔法無しでの戦闘は面倒なので、非常にありがたいものだ。ナディア達が到着したのを確認し、オレは鑑定魔法を使って魔物の少ない道を選択していく。


ちなみに、出現する魔物はガーゴイル、キマイラ、サイクロプス、ゴーレム等、有名処のオンパレードであった。恨みは無いが、オレのレベル上げの糧になって貰う。


「すご・・・。」

「これがSランク・・・。」

「カッコイイ・・・。」

「美味しそう・・・。」


1人変な事を言っているが、全員纏めてスルーしてあげる事にした。オレは鑑定魔法を使うのに忙しいんです。などと考えていると反応があったので、そちらへ向かうと巨大なリュックが転がっていた。


「あれは!・・・ドーラ!!」

「み、みんなぁぁぁぁぁ!!」


クマさんがリュックの影に隠れていた少女に気付き、名前を叫びながら駆け寄った。少女もその声に気付き、泣きながらクマさん達の元へと駆けて来る。どうやらドワーフのようだ。


オレ達が温かい目で見守る中、ふと何かに気付いたナディアが呟く。


「ボス部屋の前じゃないの・・・。」


その言葉にオレも視線を移しながら、情報収集の為に鑑定魔法を使用する。


「えぇと、ここのボスは・・・なっ!?」

「どうかしたのですか?」


驚きを声に出してしまった為、ティナが訪ねてくるのだが、オレは何と答えたら良いのかわからず、その場で黙り込んでしまった。


■クリスタルドラゴン(改造種)

Lv:650

年齢:?


■アイネ=ミトラス=ラウラ(結晶化)

Lv:71

年齢:19歳



ボス部屋には、ナディアのお姉さんがいたのだ。年齢も気になるが、何よりも問題なのは『結晶化』という表現だろう。鑑定結果を正直に告げるべきなのか、答えを出せそうになかった・・・。

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