第81話 命懸けの大博打

暫くの間、オレは考え込んでいた。この場にいる者達の処遇をどうすべきか。そして結論に至る。


「皆さんには、私の城で働いて頂こうと思います。勿論、嫌なら他を当たる事にしますので、遠慮せず言って下さい。」

「私達がお城で!?」

「ミリアさんは嫌ですか?」

「とんでもございません!私のような下賤の者が、お城で働けるなど身に余る光栄にございます!!」

「あぁ、現在の帝国では、身分で仕事を決めたりしてないんですよ?機会は誰にでも平等に与えられるべきです。努力しその働きが認められれば、上の地位に就く事も可能です。」

「「「「「「「「「「本当ですか!?」」」」」」」」」」


この場に居る全員が身を乗り出して食いついて来た。まぁ、この世界では当然の反応なんだけどね。


「本当ですよ?私が保証します。それで、私が帰国したら、皆さんには私の考えている施設を手伝って頂きたいのです。幾つか候補がありますので、それぞれの希望に沿う形を取らせて頂くつもりです。」

「重ねてお礼を陳べさせて頂きます。皇帝陛下、今後とも宜しくお願い申し上げます。」

「では、ギルド本部の聴取が終わったら、希望者は城へと向かって下さい。私はここでお別れさせて頂きますので、各自注意して行動して下さいね?では、失礼します。」


アストルの姿が見えなくなると、女性達が騒ぎ始めた。男性達は、怖くて近付けずにいる。


「あぁ、なんて素敵な方なのでしょう。あのお方こそ、私が今まで夢見てきたご主人様です!」

「メ、メイド長!?大丈夫ですか?でも・・・本当に素敵ですね!」

「お城勤めを続けていれば、陛下に見初められたりするでしょうか?」

「バカ!そんなの有り得ないわよ!!でも1度くらいは求められる可能性も・・・」

「「「「「「「「「「頑張りましょう!」」」」」」」」」」


宿へ戻る途中、寒気を感じたアストルであったが、何も考えない事にした。昔、『人が想像出来る事は、現実に起こり得る』って言葉を聞いたような気がするからだ。


その後は何も無く、現在は宿で3人と向き合っている。今後の身の振り方を決めなければならないからである。このまま宿を続けて行くものと思っていたのだが、予想外の展開となってしまったからだ。


「ヤミー伯爵達は捕らえました。アスナさんの呪いについては、明日聞き出そうと思っています。まぁ、これで安心して宿屋を続けられますね?」

「その事なんですが・・・この街では、いえ、この国では宿屋を続けて行く事は出来ないでしょう。」

「どうしてですか!?」

「1度貴族に目を付けられたと知られれば、お客さんが寄り付かなくなります。この国にいる以上、その噂は付いて回るでしょう。」

「そう・・・ですか。わかりました。では、ポーラさん達にも私の城に来て頂きましょう。」

「「「城?」」」


あ、正体を隠したままだった。オレは慌てて変装用の魔道具である指輪を外す。


「今まで隠していましたが、私の名前はルーク=フォレスタニアと言います。まぁ早い話が、帝国の皇帝です。」

「「皇帝陛下!?」

「こうていへーかって?」


ポーラさんとアスナさんは驚いているが、アンナちゃんには理解出来なかったようだ。


「隣の国の王様って事だよ。」

「アストルお兄ちゃん、王様だったの!?すごーい!!」


アンナちゃんの目がキラキラと輝いている。ちょっと誇らしいが、オレなんて名前だけだ。皇帝としての職務なんてスフィアに任せっきりである。いかん、ちょっとヘコんできた。


「まぁ、城に来て頂くとは言いましたが、他にやりたい事があれば何でも言って下さい。出来る限りお力になりますので。私の旅が終わったら、お2人にはお願いしたい仕事もありますが、無理にとは言いません。」

「いえ、私はともかく、アスナには是非とも陛下のお世話を!(アスナの幸せの為にも、こんなチャンスは逃せないわ)」

「私も、陛下の元で働かせて頂きたいです!(側室は無理でも、愛人か妾なら・・・)」

「・・・お兄ちゃん、私は?」

「ん?アンナちゃんは・・・大きくなるまではお勉強かな?もし頭が良くなったら、難しいお仕事をして貰うからね?」

「ホント!?うん、私頑張るよ!」


楽しそうに会話を続ける親子に書状を渡し、オレは部屋へと移動した。この宿を引き払う準備等で忙しくなった為だ。この間に、オレは嫁さん達に事情を説明する。


「と、いうのが今回の顛末かな。大勢で城に押し掛けると思うけど、対応宜しくね?」

「わかりました。ミリス領の人手が不足しているようでしたので、丁度良い機会です。ミリスから連れて来た者達を帰しましょう。それで、ルークが考えている施設というのは何ですか?」

「うん?それはまだ内緒かな。帰ったら改めて相談するよ。」

「そうですか。まぁ、今聞いても何も出来ませんから構いませんけどね。それよりも、ギルド本部の動きです。」

「あそこはルークが考えているよりも優秀よ?多分明日の朝にはルークの所に着くわ。」


スフィアの言葉を引き継ぎ、ナディアが説明を始めた。思えば、ギルド本部に関しては何も知らない。


「それは、近くに本部があるって事?」

「ギルド本部は・・・本当は秘密なんだけど、ギルド本部はライム魔導大国にあるのよ。」

「ライムって世界政府の議事堂がある?まぁ、その国が何処にあるのか知らないんだけどね。」

「ライムは・・・ミーニッツ共和国の北にそれぞれラミス神国とヴァイス騎士王国があって、その北に位置しているわ。ちなみに国土は、帝国に次ぐ広さよ。」

「そこから1日で?」

「ライム魔導大国には、世界最速の飛竜がいるのよ。国はギルド本部に協力的で、今回も飛竜を借りてベルクトに向かったらしいわ。」

「・・・何処でそんな情報を?」


相手も中々ではあるが、嫁さん達の方も負けてはいない。客観的な目で見ている。可愛いから贔屓してる訳ではない。


「ファーニスのギルドで仕入れて来たのよ。各ギルドにも通信の魔道具は置かれているから、ギルド本部の動きを探って貰ったの。私達の使っている魔道具に比べたら酷い物だけど、短い文章ならやり取り出来るのよ?」

「ふ〜ん。まぁ、明日には決着がつくなら良かったよ。」

「事はそう単純じゃないのよ・・・。」


ナディアが難しい顔をしている。これ以上、何か問題でもあるの?


「フィルフィアーナ、ギルド本部長はね・・・男嫌いと言われているの。さらに今回は、ルークが喧嘩を売ったようなものでしょ?」

「別に喧嘩を売ったつもりは・・・・・あるのか?」

「はぁ。そんな訳だから、これ以上揉めないか心配してるの!」


そんな事を心配しても仕方が無いので、この件はここまでとなった。まぁ、気持ちは嬉しいんだけどね。その日の夜は何事無く過ぎ、翌朝オレは冒険者ギルドの中にいる。ギルド本部の職員を名乗る者に呼び出された形だ。職員の横柄な態度に相当おかんむりなのだが、皆の説明が終わるまで耐える事にした。そして全ての説明が終了し、最後はオレの番という訳だ。


「・・・事情は全てわかりました。事実確認を済ませた職員からの報告とも一致します。今回の件で、被害に遭われた方々には、冒険者ギルドとベルクト王国より相応の賠償金を支払わせて頂きます。それから、アスナさんを苦しめていた呪いの魔道具ですが、こちらで確保しましたのでもう大丈夫です。」

「いや、それだと納得出来ないな。この場で破壊してくれ。」

「貴様!たかが新人冒険者の分際で、本部長であるフィルフィアーナ様に何と言う口の利き方だ!?」

「リック!やめなさい!!」

「冒険者である事が気に入らないのか?なら、このカードは返却させて貰う。ほら、受け取れ!」

「き、貴様ぁぁぁ!!」


フィルフィアーナのまな板、じゃなくて胸、は無いんだけど・・・やっぱ胸か。胸に2枚のギルドカードを投げつける。その行為に我慢出来なくなったリックと呼ばれている男が、オレに剣を向ける。


「オレは敵対する者に容赦しない。剣を向けられた以上は、敵とみなすが・・・それは冒険者ギルドの総意という認識でいいか?」

「あぁ、そうだ!今から冒険者ギルドはお前の敵だ!!」

「なっ!?リック!貴方は何を言っ「フィーナ様を侮辱されるのは我慢なりません!!」・・・貴方は個人の感情で、冒険者ギルドを危険に晒したのですよ?」

「フィーナ様?い、一体何を言っているのですか?」


フィルフィアーナに睨まれ、リックは動揺し始める。オレはその様子を一瞥し、変装を解いて2人に告げる。


「フォレスタニア帝国皇帝、ルーク=フォレスタニア・・・冒険者ギルドからの宣戦布告、確かに受け取った。手始めに・・・あの飛竜でも殺して食うかな?」

「フォレスタニア、皇帝・・・陛下?まさか、そんな!?」

「お待ち下さい!あの飛竜は、シシルは違うのです!!」

「お前達が乗って来たからには、冒険者ギルドの一員だろ?悪いが、それ以上は知らないな。」

「でしたら私の命を差し上げます!今回の我々の不手際、それで許しては頂けないでしょうか!?」


いや、別に貴女の命なんていりませんよ?今回、オレは意地悪しているだけなのだ。自分達冒険者ギルドの不手際だというのに、本部職員の横柄な態度からは、反省の色が見えなかったからだ。


今回、勢いで飛竜を殺すとは言ったが、今のルークにそれ程の力は無い。これまでの戦闘経験から、互角の勝負までは持って行けるかもしれないが、決定力に欠ける。持久戦ともなると、体の大きい飛竜の方が有利だろう。事実、ルークは内心焦っていた。


『やっべぇ、つい調子に乗って飛竜を殺すって言っちまったけど、どう考えても無理でしょ!?これ以上、おかしな方向に話が向いたら、オレ死んじゃうって!!なんとか話題を逸らさないと・・・そうだ!』


「いや、お前の命と冒険者ギルド職員の命が釣り合うとは思えないが?」

「では・・・では、私を好きにして下さって構いません!」

「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」


この人は、一体何を言っているのだろう?全員がそう思って硬直してしまう。言ったフィルフィアーナも恥ずかしさのあまり、全身を真っ赤にして固まってしまった。この状況から最初に復帰したのはルークである。伊達に何度も修羅場をくぐり抜けてはいない。


「わ、わかった。では、ギルド本部長に免じて、今回の一件は許すとしよう。」

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!不束者ですが、これからよろしくお願いします!!それからリック、貴方は本部に戻って、私の辞意を伝えて下さい。」

「「え?」」


不本意ながら、オレとリックの声が揃う。これから?辞意?何を言ってくれてるの?なんか、嫌な予感がする。このまま流されてはいけない!


「いや、本部長!?何を言ってるのかわかってます?」

「そ、そうですよ、フィーナ様!ギルド本部長を辞めるなど!!」

「ルーク様、私の事はフィーナとお呼び下さい。一生貴方に付いて行きますから!リック、本部長だけでなく、冒険者ギルドも辞めさせて頂くのです。間違えないで下さい!」

「「はぁ!?」」


ど、どうしてそうなる!?オレとリックが固まっていると、本部長が勝手に説明し始めた。


「ルーク様は、私を好きにして構わないという言葉に対して『わかった』とおっしゃいました。つまり、『おはよう』から『おやすみ』まで、私をメチャクチャにするぞ、という意味です。これはもう結婚するという事なんです!」

「そんな訳ねぇだろ!!」

「そしてリック、今回の件は私の無能さを物語るものです。私の指導が行き届かなかった結果、冒険者ギルドの職員がギルドの方針に従いませんでした。リックもやめるように言った私の言葉に従いませんでしたよね?これはもう、引責辞任という形をもって詫びる以外にありません。」

「フィーナ様がいなくなったら、冒険者ギルドはお終いです!」

「これで一件落着ですね?あぁ、やっと肩の荷が下りました。」


この女、人の話を聞きやしねぇ。いや、待て!そもそも男嫌いって話は何処へ行った!?


「あの、本部長は男嫌いって聞きましたけど?」

「・・・・・。」

「フィルフィアーナさん?」

「フィーナです!」

「フィ、フィーナさん?」

「呼び捨てでお願いしますね?旦那様!」


微笑みながら小首を傾げるフィーナさんの不意打ちとも言える仕草に、オレは思わず見惚れてしまう。が、それどころではない。真相を、真相を聞かねば!


「フィーナは男嫌いじゃなかったの?」

「それは、幼少の頃から女性ばかりの環境で過ごして来ましたので、男性に免疫が無くて・・・どう接したら良いのかわからなかっただけです。」

「あのリックって人は?」

「リックは男性として意識した事などありませんよ?」

「そ、そんな・・・」


リックが、この世の終わりといった表情をしている。とりあえず、コイツは無視だ。オレは自分の事で精一杯である。


「一生に一度の大博打でしたが、どうやら私の勝ちのようですね?」

「博打って・・・まさか!?」

「私の命と私の身、普通なら順序が逆ですものね?殺されたらどうしようかと思いましたが、理想の旦那様を手に入れる為です、命を賭けるに値しますよ。上手く言質も取れましたし・・・あ、証人は沢山いますから、絶対に逃しませんよ?」

「いや、そんな・・・待って!実はオレ、ある程度胸の大きい人しか愛せないんだ!」

「・・・・・。」


貧乳の皆さん!オレを敵視してくれて構わない!!声を大にして言おう。オレはおっぱい星人である!無いよりは有った方がいいじゃないか!


誤解の無いように言っておくと、好きになった人が貧乳だったとしても、それはそれで構わない。それは『その人』が好きなのであって『そのおっぱい』が好きなのではないからだ。おっぱいが好きなのは、人を好きになるのとは全く別だ。


話が盛大に逸れたので戻しておくが、険しい表情でフィーナが沈黙している。オレも命を賭けて勝負に出たのだよ。どうだ!?言い返せまい?どんなに頑張っても、無いものは無いのだ!はっはっはっ!!


「ある程度の胸があれば受け入れて頂けるという事ですね?」

「そうですね。ある程度の『パチン!』・・・え?」


オレの言葉を遮る形で、フィーナが指を鳴らす。すると、フィーナの胸が膨らんでいるのだ。それはもう、立派なメロンである。


「男性はこの胸を舐めるように見つめて来るんですよ。男性に免疫が無い状態では耐え切れなくて、幻覚の魔法で無いように誤魔化していたんです。さて、これで文句はありませんね?」

「え?いや、実はオレ、ひんぬー「ありませんね?」・・・はい。」

「あぁ、良かった!それでは、残務処理を終わらせてしまいますね、あなた?」


渋々折れると、フィーナは嬉しそうに仕事をし始めた。その仕事ぶりは、スフィアを超えるものであったのだが、ルークは敗北感に打ちのめされていた為、気付かなかったのである。



これが大組織のトップ・・・勝てない。勝てる訳が無かった!オレの完敗だぁぁぁ!!

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