第80話 制圧完了
オレの正体を知り、全員が抵抗をやめる・・・事は無かった。ガタガタと震えながらもオレと対峙している様子から察するに、ヤミー伯爵の命令には逆らえないのだろう。オレは台風のようなものだから、上手くやり過ごせれば良いのだろうが、この地を本拠地とする伯爵は違う。1度目をつけられれば、この地では生きて行けない。
同情はするが、容赦はしない。甘さが命取りになる、なんて何処かのヒーローか主人公と言ったキャラでは無いのだ。先手必勝、殺られる前に殺る。そんな考えのオレは、この世界に転生して良かったのかもしれない。地球では・・・日本では異端なのだから。
「さて、オレに武器を向けるのなら殺す。これが最後通告だ。・・・まぁ、素直に武器を下ろすようなヤツはいないよな。なら・・・行くぞ!」
「皆、かかれ!」
リーダー各の男が声を掛けると、この場にいる冒険者が全員でオレに襲い掛かって来る。のだが、全員がランクCからD冒険者らしく、あっという間に全員を一閃する。これでは修行にもならない。残るは冒険者ギルドの職員達であるが、どうやら戦闘に関しては話にならないようだった。冒険者達が一瞬で負けてしまった事により、完全に戦意を喪失している。
「さて・・・大人しく死ぬ、でいいか?」
「こ、こんな事をして、ただで済むと思っているのか?」
「そんなのはどっちでもいい。」
「冒険者ギルドを敵に回すと言う事は、世界中の冒険者を敵に回すと言う事だぞ!?」
「別に構わないけど?」
「「「「「なっ!?」」」」」
最後の気力を振り絞り、ギルドマスターがオレを脅してくるが今更である。冒険者ギルドには決別を宣言したのだから。あ、此処に居る者達は知らないのか・・・。
「今回の一件は、冒険者ギルド本部長のフィルフィアーナに宣告してある。ギルドとの決別もな。そういう訳だから、お前達を殺すのに何の問題も無いだろ?」
「無抵抗の女性まで殺すのか!?」
「勿論だ。オレは聖人君子じゃないんだ。敵対意識を向けられた時点で、抵抗云々は関係無い。オレが旧帝国兵を1人残らず殺した事、知らない訳はないよな?それに、此処に居た冒険者達と貴様らは違う。このギルドの職員は全員殺す。これは決定事項だ。」
「た、助けて下さい!何でもしますから!!」
受付嬢が助けを求めて来るが、そんな気はさらさら無い。オレがここまでキレているのには、それなりの事情がある。
オレは宿でゴロゴロ出来るような性格では無く、どちらかと言えば時間に追われる方が合っている気がする。その為、街での買い物がてら、情報収集をしていたのだ。
オレが気になっていた事。1つ目は、比較的大きな街の割に強い冒険者が少ない事。2つ目は、若い冒険者が少ない事。3つ目は、大きな街のギルドにしては職員が少ない事。これらの疑問は、街のおば・・・奥様方が簡単に教えてくれた。
まず1つ目の疑問だが、強い冒険者というのは我が強い者が多く、ヤミー伯爵のような自己主張の強い貴族とは距離を置く。そして権力者を後ろ盾にするような者は、そうしなければ生きて行けないような・・・つまり弱者が多くなる。その両方が重なって、この街には強い冒険者が少ないらしい。この街と言ったが、正確にはこの国全てであろう。旧帝国とどのような関係にあったのかは知らないが、おそらくは似たようなものだと思う。そう言えば学園の同じクラスに、第一王子と公爵令嬢もいたっけ。あまり関わらない方が良さそうだ。
次に2つ目。これはオレも経験したが、新人を狙う冒険者や貴族が多い為だ。ベルクト国内で多いようだが、登録したばかりの冒険者や、他国から訪れた低ランク冒険者が忽然と姿を消すらしい。おそらく、暴力や性のはけ口として攫われていると考えられる。これは本当に噂レベルの話なので、確証は無い。もし事実であれば、オレはキレる自信がある。
最後の3つ目だが、貴族のご機嫌取りに忙しい冒険者は魔物の討伐になど行かない。わざわざ危険な依頼を受けなくても、貴族のおこぼれを頂戴していれば甘い汁を吸えるのだから。辺境に魔物が多かったのも頷ける。魔物が増え過ぎると、餌に困った魔物が辺境を出る。必然的に餌となる生物、つまり人間が襲われる事となる。これまで街や村に魔物が来ていないのは、奇跡のようなものだろう。
話が大分逸れたので、そろそろ冒険者ギルドの対応に戻ろう。え〜と、確か『何でもする』って言ったっけ?残念だが、ギルドの者達にして貰う事は無い。
「貴様らにして貰う事など何も無い。貴族やそこの冒険者達と組んで、新人冒険者を食い物にしていただろう?助けを乞う者達に、貴様らは何かしてやったのか?」
「それは・・・。」
「そ、そんなのは唯の噂だ!大体、証拠があるのか!?」
証拠って、受付嬢が言い淀んだ時点で白状しているようなものだろ?それに、証拠は必要無いって事が何故わからないのだろう?
「証拠など無いな。」
「くっくっくっ。やっぱりな!」
「いや、そもそも必要無い。さっきの理由は、とってつけただけの物だ。深い意味は無い。オレと敵対した時点で、皆殺しは決まっているんだよ。」
「なっ!?そ、そんな事が、ぐふっ!」
ゴチャゴチャ五月蝿かったので、ギルドマスターの心臓を一突きしてやった。抵抗が必死過ぎて、話が進まないじゃないか。・・・オレ、悪役の方が向いてるかもしれないな。一応、それっぽく振る舞ってみようか?
「さて、残るは4人だが・・・どんな死に方がいい?四肢を順番に切り落とすか?それとも、生きたまま魔物の餌になるか?」
「ま、待って下さい!!」
「全て話しますから!!」
「ちょっと!?」
「お前ら、裏切る気か!?」
はい、2人死刑確定。自白しそうな2人に詰め寄ろうとした2人の首を一瞬で切り落とす。正直に白状する者以外は必要無いだろう。このあと、貴族の相手をしなくちゃならないのだ。
「さて、とりあえず貴族に関する事だけ聞かせて貰えるか?その後は、ギルドからの迎えが来るまで地下牢に入ってて貰う。オレが少しでも怪しいと思うような言動や行動を取った瞬間に殺すから、充分に注意しろよ?」
「わ、わかりました。では、貴族に関する事をお話します。」
その後、2人の男性職員から語られたのは、オレの予想通り・・・いや、予想以上の内容であった。過去10年の間、このギルドで標的となった冒険者の数は数千人に登っていた。生き残っていると思われるのは、最近攫われた者達のみと思われるらしい。その全員が、ヤミー伯爵家に連れて行かれたようだったが、現在の居場所までは知らないとの事だった。他にも色々と聞きたかったのだが、怒りのあまり殺気が漏れ、2人が気絶してしまったのだ。
やってしまったと思ったが、過ぎた事を悔やんでも始まらない。オレは2人を地下牢に入れ、鍵穴に細工をして開かないようにした。オレがいない間に、誰かが助けに来ないとも限らない。暗殺を警戒すべきか悩んだが、助けたいとも思わなかったので、それ以上手間を掛ける事はしなかった。
それからオレは伯爵の屋敷へと向かい、門の前に立っている。いきなり乗り込んでも良かったのだが、無関係な者に対して降伏勧告を行った。「伯爵の悪事に加担しておらず、無抵抗かつ協力する使用人に関しては命を保証する」と。現在は、オレの言葉を伝えに行った守衛の帰りを待っている状態だ。
10分程待っていると、守衛の兵士が沢山の使用人を連れて戻って来た。
「本当に助けて頂けるのでしょうか?」
「悪事に加担していないならね?ここには、そのような者はいないんでしょ?」
オレの問い掛けに、全員が無言でコクコクと頷く。嘘をつく者がいても、助かりたい一心で指摘や密告する者がいるだろう。とりあえず、今の所は問題無さそうなので、彼らには避難してもらおう。
「協力的な冒険者ギルド職員を、ギルドの地下牢に入れてあります。皆さんは、冒険者ギルドで待っていて下さい。あ・・・ギルド内は凄惨な光景ですから、掃除して頂けると助かります。」
「ごくっ。凄惨な光景ですか・・・わかりました。大丈夫そうな者達で対応しておきます。」
「ありがとうございます。それと、屋敷の中に捕らわれている者や、奴隷はいませんか?」
全員を見回すと、1人のメイドが答えてくれた。
「あ、あの!許可された使用人しか入る事の出来ない地下室があります!!お館様も今はそちらに・・・。」
「伯爵が?1人ですか?」
「いえ、執事長を始めとした使用人数名と、ファルマ男爵様、ダル子爵様と家臣の方々がご一緒です。」
「男爵に子爵ですか・・・他に良く訪れる貴族は?」
「地下室へ入られるのはその方々だけです。」
「そうですか・・・わかりました。ありがとうございます。」
微笑みながら礼を告げると、メイドの女性は顔を真っ赤にして俯いてしまった。何処か具合でも悪くなったのかと心配したのだが、他の使用人から質問されたのでそちらに視線を向ける。
「あの!我々は今後、どのような扱いを受けるのでしょうか?」
「悪事に加担していないなら、特に何も無いですね。事情聴取が終われば自由ですよ?」
「自由・・・では、この先どのようにして生活して行けば・・・。」
「まぁ、仕事は無くなりますよね。・・・では、条件付きで私が面倒を見ましょうか?」
「「「「「「「「「「本当ですか!?」」」」」」」」」」
この場にいる全員に詰め寄られて引いてしまったが、生活が掛かっている分みんな必死なのだろう。とりあえず、詳細はオレが戻ってからと言う事で使用人達にはギルドへと向かってもらった。現在伯爵邸の地上部分にはオレしかいない。オレは使用人達から教わった通りに屋敷内を進むと、やがて地下室への入り口と思しき扉の前へと辿り着いた。警戒しつつ地下へと進むと、そこには目を背けたくなるような光景が広がっていた。
血まみれで床に倒れている者、今なお暴力を振るわれている者と振るっている者。さらには奥に見える扉の向こうから悲鳴や怒号、そして笑い声が聞こえてくる。怒りに震えていると、オレの姿に気付いた男が叫ぶ。
「誰だ!?貴様、此処をヤミー伯爵様のお屋敷と知っての狼藉か!?」
「誰だと?お前らは、目をつけた冒険者の事も知らないのか?」
「何!?そうか、貴様がアストルとかいう新人冒険者か?伯爵様!皆様!こちらへお越し下さい!!」
無言で様子を伺っていると、奥の扉から薄い寝間着を来た男女10名程がやって来た。どうやら行為の最中だったらしく、汗をかいている者もいる。
「折角お楽しみの最中だったと言うのに、一体何事です?」
「奥様、それにお館様。例のアストルという冒険者が、こちらにいるのです。」
「何だと!?・・・くっくっくっ、まさか自分から殺されに来るとはな。此処を知られたからには許しておけん。じっくりと拷問してやろう。」
奥様って事は、伯爵婦人なの!?如何にも性格の悪そうな顔をしている。緩みきった体型と言い、オレの好みでは無い。いや、今は関係無かった。
「いや、死ぬのは貴様らの方だぞ?」
「は?ふはは、あーはっはっはっは!これは傑作だ。冒険者に成り立ての素人に、一体何が出来ると言うのだ!?」
「貴様らに構っていては、助かる命も助からない。冥土の土産にオレの名を教えてやろう。オレはルーク=フォレスタニア。フォレスタニア帝国皇帝だよ、ゴミ虫ども。」
「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」
世直しなんて柄でも無いが、こいつらは然るべき場で裁かれるべきであろう。10数人が驚いている隙に全員の両手両足を切断し、回復魔法で傷口を塞いでやる。不意打は卑怯だって?オレも本意では無いんだけど、今は時間が無い。拷問を受けていた者達の気配が弱まっているのだ。あまり放っておくと死んでしまう。
オレは急いで全員に回復魔法をかけて回る。とりあえずはこれで問題無さそうだ。10数体のダルマは放置して、扉の奥へと向かう。そこには、先程まで性的暴行を受け続けていたと思われる5人の男女が横たわっていた。さらに奥へと視線を移すと、既に亡くなっている男女が6名、無造作に捨て置かれている。オレは感情を抑えつつ、アイテムボックスからシーツを取り出して5人に掛ける。それから回復魔法と生活魔法を施し、身なりを綺麗にしてやる。すると、現実に戻って来た女性が声を掛けて来た。
「あ、あなたは・・・」
「オレは偶々今回の件に関わった冒険者です。貴族達は身動き出来ない状態にしてあるので、もう心配無いですよ。」
「やっと・・・悪夢のような出来事から開放されたのですね・・・・・。」
「そうだと・・・ん?すみません、貴女の首にあるのは何ですか?」
「え?・・・あぁ、奴隷の首輪です。ご存知ありませんか?・・・・・あの?」
話には聞いていたが、実際に見るのは初めてだった。オレは奴隷制度が嫌いである。人は誰しも平等である、とは思わない。現実は不平等だからこそ成り立っている部分が多々ある。オレは、人は生まれながらに不平等であり、人生とは・・・社会とは不公平な物だと考えている。誰よりも努力し、その努力が実れば上へと登って行ける。そんな世界だからこそ、人々の多くは頑張って生きている。しかし、奴隷はダメだ。根本にあるべき、人権という物を無視している。どれだけ努力しても、認めて貰う事すら出来ない制度や仕組みなど、オレには到底享受出来ないのだ。急に黙りこんだオレに女性が声を掛けて来るが、怒りを抑えるのに必死過ぎて相手などしてやれない。
そんな時、隣の部屋から叫び声が聞こえて来た。例の貴族達である。自分達の置かれた状況が理解出来ないらしく、文句を言っているようであった。オレは隣の部屋へと向かい、全員に殺気を向けて貴族達の意識を奪う。しかし、その程度では怒りが収まる事など無かった。
「くそぉぉぉ!!」
叫びながら石造りの壁を殴る。そして次の瞬間、オレの体が輝きだした。ついに、スーパー〇〇人に目覚めたのである。・・・・・ごめんなさい、嘘です。いや、あながち嘘でも無さそうだ。多分、これが本当の意味での覚醒なんだろう。力が漲る感覚と、頭の中に様々な事が浮かんで来る。その中の1つに、今のオレが求める物があった。
急いで暴行を受けていた者達を連れて扉の奥へと戻り、奴隷の首輪をつけられている者達に魔法を掛ける。
「リリース!」
オレの魔法によって、奴隷の首輪が砕け散る。本来奴隷の首輪は、その主人にしか外せない。無理に外そうとしたり壊してしまうと、その奴隷は死んでしまう。また、誰かがその主人を殺すと、殺した者が新たな主人となる。そして、奴隷が主人を殺す事は出来ない。実行出来ないようになっているそうだ。奴隷商人という職業の者ならば、合意の上で奴隷の所有権を移譲する事が出来るらしいが。
奴隷の首輪が壊れても生きている事に、全員が驚いている。
「嘘!?首輪が壊れたのに・・・生きてる!?」
「どうして!?」
「貴方は一体!?」
あまりこの場に留まりたくなかったので、質問を無視して今後の事を説明してやる。
「冒険者ギルドに、悪事に加担していなかったこの屋敷の使用人達が避難しています。今から貴女方にも合流して頂いて、ギルド本部の対応を待って欲しいのです。とりあえず、ギルドに着いたら説明しますので・・・。」
そう告げると全員が頷いたので、オレは地下室への扉に鍵を掛けてから全員を連れて冒険者ギルドへと向かった。
「数日の内に、冒険者ギルド本部から人が来るはずです。今までの補償や、これからの面倒はギルド本部に請け負って頂くつもりです。それまでは、腕に自信のある方々には伯爵邸の警備を、それ以外の方々にはこちらで生活をして頂けないでしょうか?それから、皆さんが今後の生活に困らない程度の金銭を、伯爵邸から持ち出す事を許可します。ですが美術品はダメですよ?目立つ物を所持していると、良からぬ輩に狙われますからね。あとは・・・全員に書状を渡しておきます。一応、今から一月の間だけ効力を発揮するように書きますので、どうしても行く宛の無い方は頼って下さい。」
流石に手書きで30人以上の書状を用意するのは大変だったので、10枚用意する事にした。それぞれ各グループに別れるだろうから、その代表者が持つという形である。受け取った者達が内容を確認し、一斉に驚きの声を上げる。
「「「「「「「「「「フォレスタニア皇帝陛下!?」」」」」」」」」」
「えぇ、そうですよ?あれ?名乗ってませんでしたっけ?って、そんなに畏まらなくていいですから!」
「し、しかし・・・」
「これまでのご無礼、誠に申し訳ございません!!」
最敬礼を通り越して、全員土下座である。土下座なんてするのは、オレだけで充分だよ。いや、オレもしたくはないけどね?
「あ〜、そういうのは要りませんから、普通にして下さい。それに、今はランクF冒険者のアストルと名乗っています。お忍びで旅をしているんですよ。正体がバレたら、皆さんの事を恨みますからね?それが嫌なら、気軽に接して下さい。」
「わかりました。ですが我々の恩人ですから、今はアストル様と呼ばせて頂きます。申し遅れましたが、私はメイド長のミリアと申します。それでは、改めてアストル様にご相談したい事があるのですが・・・。」
「はい、何でしょうか?」
その後、全員に行く宛が無い事を聞かされ、どうした物かと頭を抱えるのであった。あと、あのダルマ達はどうしようか?・・・罰として、ボーリングのピンにでもする?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。