第65話 生徒会長

きちんと説明しておくと、シリウス国際学園は日本の高校と同じ様な扱いで、3年間通う事が出来る。ただし、小学校や中学校に当たる学校は無く、この学園のみである。他国内にある学校も同じだそうだ。その為か、教えているのは基本的な内容のみとなる。一般常識や、貴族社会のマナー、戦闘訓練が主だろうか。ただし、3年生になると授業は選択制となるらしく、応用を学びたい者と日々の生活に役立つ事を学ぶ者に分かれるとの事だ。


給食というものは無く、食堂と売店のみである。全寮制なので、食事は寮と学園の食堂で摂る者がほとんどだ。オレ達のように、弁当持参はごく少数・・・でもないようだった。節約の為、狩りをして自ら調理する者もそれなりにいる。学園の調理室は常に無料で解放しているので、夜食を作るのも自由である。この学園は素晴らしい!トップはダメだが・・・。


話を戻すが、今日は食堂を利用してみたかった為、弁当を作って来なかった。一応、味のチェックはしておきたいからね。特待生の学舎にある食堂というだけあって、提供される料理は高級な物が多い。貧乏学生が特待生になったら破産するだろう。


オレ達が先に食べていると可哀想だと思い、現在は注文もせずに学園長と生徒会長を待っている。嫁さん達と午後の予定を話し合っていると、学園長が小柄な女性を連れて来た。


「待たせたのじゃ!この娘が生徒会長。あっちの男が私のだんな「ルークです!初めまして!!」・・・言うぐらい構わんじゃろ!減るもんでもなしに!!」


どさくさに紛れて嘘をつくのは感心しない。間違っても口にしてはいけない事があるのだ。こんな変態は無視して生徒会長の方を見やると、自己紹介をしてくれた。


「初めまして、ルーク君、それに皆さん。私がこの学園の2年生で生徒会長を務めているテアと申します。宜しくお願いしますね?」


生徒会長、つまり生徒達の代表というだけあって、礼儀正しい人である。だが、あまり良い予感がしないので、さっさと要件を聞いてお暇したい衝動はある。しかし、当初の目的である食堂の料理を味わっていない。食事しながらゆっくり話を聞くしかないだろう。


説明する必要は無いかもしれないが、生徒会長は茶色い髪のショートボブで、眼鏡を掛けた美人である。スタイルも中々良く、生徒から選ばれるのも頷ける一品だ。


「生徒会長・・・と学園長、折角ですのでお昼をとりながらお話しませんか?」

「そうじゃな!私は今日のおススメにしようかのぅ!!」

「え!?・・・実は、特待生の校舎には初めて入ったのですが・・・ここまで立派な食堂とは思っていなくて・・・」


この反応はひょっとして?まぁ、一般の生徒という事だったから、料理の金額を心配をしてるんだろうな。女性に支払わせるのは嫌だし、ここはオレが奢るとしよう。・・・学園長に奢るのは嫌だけど。


「こちらからお誘いしたのですから、ここの会計は私がもちます。遠慮なさらず、好きな物を注文して下さいね?」

「っ!?・・・・・あ、ありがとうございます。では、私も学園長と同じ物を。(ルーク君の笑顔はマズイですね。これは女性達が夢中になるのも無理はありませんか)」


ニッコリと微笑みながら奢る旨を伝えたのだが、生徒会長は頬を赤らめながら注文を決めた。そんなに支払いが不安だったのか・・・悪い事をしたかな?

とりあえず、全員分のメニューを注文して、生徒会長に向き直る。


「それで、私に何かご用でしょうか?」

「はい。実は、沢山の生徒から要望を頂きまして、今回はその・・・お願いの為に参りました。」

「要望ですか?」

「はい。実は、同じ学園の生徒として、一般の生徒達も特待生の生徒と親しくなりたいので、その機会を設けて貰えないかと・・・。ハッキリ申し上げると、今回の場合はルーク君とお近づきになりたい女生徒の勢いに押された形ですね。」


生徒会長のテアさんが苦笑交じりに説明してくれた。それはまぁ、動かざるを得ないよね。それならば、オレが一般の生徒達と一緒に授業を受ければ済む話だと思ったが、事はそう単純では無かった。


「しかし困った事に、その要望は3年生が大半なのです。」

「それは・・・同じ授業を受ける訳にもいかないですね。ですが、何故3年生が?」

「そうですね。3年生は今年で最後ですから。この機会を逃すと、ルーク君に見染めら・・・親しくなるチャンスが無くなりますから必死なんでしょう。」


今、見染められるって言おうとしたよね?安心して下さい!嫁さんの視線があるので、そんな事はしません!!無くてもしませんよ?・・・多分。


「それで思ったのですが、ルーク君はどのサークルにも参加していらっしゃいませんよね?見学もまだのようですし・・・。」

「そうですね。オレとしては、料理関係のサークルに参加させて頂こうかと思ってますが、最近時間が無かったもので・・・。」


主に女性問題で時間が無かったのだが、そこまで説明する義理は無いだろう。そして、調べた限りでは料理研究会というサークル1つだけだったので、見学しようと思っていたのだ。オレの言葉に、生徒会長が一瞬表情を輝かせたが、その後すぐに曇る。


「お料理ですか!・・・全員は入れませんね。ですが、こちらでルールを作ればなんとかなるでしょうか。準部員のような形で・・・」


色々と呟いているが、料理が運ばれて来たので皆は食べる事に集中する。料理が美味しかったので、集中してしまったと言った方が正しいだろう。まぁ、ほとんど話は終わったようなものだし、構わないかと思ったのだが、どうやら話はそれだけではなかったようだ。


「流石は特待生用の食堂ですね。一般の学生が食べられるようなレベルではありませんよ・・・。あ、すみません。それからもう1つお願いがありまして・・・。」

「お願い、ですか?オレに出来る事であれば大丈夫ですけど?」

「本当ですか!?実は・・・・・ルーク君にも、生徒会に入って頂きたいのです!」

「生徒会!?いや、それはちょっと・・・料理研究会との両立は難しいと思いますよ?」


この学園は生徒の数が多い。その為、生徒会の活動は非常に忙しいのだ。生徒会室で料理する訳にもいかないだろう。


「いえ、時々手伝って頂けるだけで構わないのです!生徒会の活動を通してルーク君とお近づきになれる生徒もおりますので。(主に私の事ですけど・・・)」

「はぁ。そうですね・・・時間のある時で良ければ、喜んでお手伝いさせて頂きますよ?」

「ほ、本当ですかぁ!?やった!!約束ですからね!?」


生徒会長が立ち上がり、嬉しそうに飛び跳ねている。その動きに反発するように、メロンが2つ揺れている。視線が釘付けになっているオレの足を、様々な方向から蹴ってくる者達がいる。嫁さん達にチェックされているので、生徒会長を落ち着かせて食事の続きを促した。食後のデザートにメロンはNGのようです。


こうして特に問題も無く生徒会長との食事を済ませたオレ達は、午後から料理研究会の見学に向かう事とした。学園長から聞いたのだが、料理研究会は現在部員1名のみらしい。嫌な予感がしてならない。神様、カレン様!どうか変態だけはいませんように!!

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