第165話 大成、大人の世界の話を聞かされる

「・・・あれは25年、いや、30年くらい前かなあ。とにかく平成どころか昭和の時代、バブルが始まった頃の話じゃよ」

 ゴッドマザーはまるで瞑想めいそうするかのように話し始めたから、俺も青葉あおば広内金ひろうちがね先輩も沈黙してしまった。

「・・・世間はバブルだ好景気だ日本は世界一だとか言って浮かれてたけど、広内金家は国のエネルギー政策の転換で炭鉱が全て閉山したから経営再建の真っただ中だった時の話じゃ・・・」

「「「・・・・・」」」

「・・・我が義父、北の炭鉱王こと広内金山遠矢さんとおやは60代の前半に肝臓を患ってから体が弱くなって、とうとう肝臓かんぞうがんが悪化して医師から余命半年と宣告されてなあ、その宣告を受けた1週間後だったと思ったけど、婆やは山遠矢の妻、つまり義母から呼び出しがあったから療養中の義父を見舞いに行ったけど、そこにいたのは義父と義母、それと我が妹で山東雲さんとううんの妻、山栄やえだけだった・・・」

「「「・・・・・」」」

「・・・簡単に言えば義母から『夫はかつて浮気をした女性が一人いて、もし生きてるようなら会いたいと言ってるから探して欲しい』と頼まれたよ。でも、同時に『かつて夫の秘書をしていた女性だけど、結婚を理由に退職したけど、どうやら結婚してなくて私生児の形で子供を産んだようだから、夫の子供である可能性が高いから子供も合わせて探して欲しい』とも言われたよ。義母も余命半年ほどの夫を責める気はないし、むしろ今まで何も支援してやれなかった事を詫びたいと言ってたくらいだから、婆やも山栄やえも必至になって当時の記録とかを調べ上げて、3か月ほど掛かったけど義父の浮気相手と、その子供を探し出して二人を義父に引き合わせたよ。その子供というのが想像がつくと思うけど三笠みかささんじゃよ。もちろん、三笠さん本人の承諾を得た上でDNA鑑定もやったから義父の隠し子だというのは間違いない」

「「「・・・・・」」」

「ただ、三笠さんをこの場で認知するという事は広内金家の負債を引き受ける事にもなりかねないから、義父と義母、それと三笠さんの母親との間で交わされた約束が『広内金家の債務整理が終わったら三笠さんを義父の子供だと認知して、三笠さんに慰謝料の名目で資産の一部を譲る』として、それを書面で残したのじゃ。三笠さんも三笠さんの母親も最初は慰謝料はいらないと言っていたのじゃが、義父が受け取るように何度も言ったから最終的に折れた格好になったけど、義父は資産の1割とまで言ったけど三笠さんは金額には全然拘ってなかったのは事実じゃよ」

「「「・・・・・」」」

「義父はその後まもなく亡くなって、三笠さん母娘も一般の参列者として葬儀には来たし、三笠さんの母親が亡くなった時には広内金家を代表して婆やが行ったよ。もちろん、三笠さんは驚いたけど、義理とはいえ姉妹だとは大っぴらに言えないから形式的な挨拶しかしなかったよ」

「「「・・・・・」」」

「だけど、広内金家の負債の整理がバブルのお陰でアッサリ終わって、広内金商事の経営が右肩上がりで回復した頃に、義母が二人の息子、山東雲と山大樹さんたいきが三笠さんに支払った慰謝料を知って唖然としたんじゃよ。義母の考えていた額より桁が1つ、いや2つ少ないと言い出して『これが広内金家の者のする事なのか!』と激怒して二人を呼び出して長々と説教した挙句、義母が広内金商事と大蝦夷銀行の当時の筆頭株主で、後に『平成のたぬき総理』とまで呼ばれるようになる、時の自由民政党幹事長の小幌こぼろ周麿しゅうまろと共に臨時株主総会を開いて二人を解任させるクーデター紛いの事をする寸前まで話が行って、慌てた二人が義母と小幌周麿に平謝りして臨時株主総会は無くなったけど、それ以来、二人とも義母の顔色を伺うようになったから、事情を知ってる者からは義母は『広内金家のゴッドマザー』とまで呼ばれるようになったし、義母が病で倒れてからは二人とも婆やの顔色を伺うようになったから、今では婆やが二代目『広内金家のゴッドマザー』とまで呼ばれるようになったのは華苗穂かなほも恐らく知ってるのではないかな?」

 それだけ言うとゴッドマザーは広内金先輩に向かって『ニヤリ』としたけど、広内金先輩は「アハハハ」と笑って誤魔化した。もちろん、青葉はそんな事は全然知らないから口をぽかーんと開けたまま唖然としていたけどね。

「・・・慰謝料の代わりと言っては何だが、5年くらい前に『めでたい焼き』の店舗を新しく建て替えるという話が出た時に、三笠さんが『大蝦夷銀行から融資を受ける際の保証人になって欲しい』と婆やに言ってきたのじゃが、それを婆や個人の金であの土地を買って店を建てて、それを三笠さんの夫の天幕てんまくさん名義に切り替えて慰謝料の形にする事で三笠さんに納得してもらったよ。本来なら色々と面倒な手続きとか登録とか売却したという証明が必要なのだが、今や『政界のドン』とまで言われる周麿自身が動いてくれたお陰でスンナリ終わったけどね。ま、ここまでの話は大人の世界の話であるから広内金家にとっても、周麿自身にとっても表に出ると結構困る話ではあるが・・・」

 ここまでゴッドマザーはどちらかといえば淡々と語ってたけど、俺もゴッドマザーの様子をつぶさに観察していたから、ゴッドマザーが嘘を言っていたとは思ってない。つまり、広内金先輩と青葉は再従姉妹はとこ同士の関係なのは間違いないという事だ・・・


「・・・さて、前置きが長くなってしまったが、青葉さんの父親について話す事にするよ」


 そう言うとゴッドマザーはテーブルの上に置いてあった黒縁の眼鏡、まあ老眼鏡なのは間違いないだろうけど、それを掛けたら懐からスマホを取り出した。


 あ、あれっ?

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