第133話 大成、再び罰ゲーム(?)でデートする⑨~心臓によくないですよ~

 俺と石狩いしかりさんは上映開始5分前に部屋に入ったけど、思っていたよりは観客は多かった。まあ、本来は春休みに合わせて上映されていた物を土・日の午前と午後に1回ずつ延長上映していたにすぎないから、観る人は少ないと思っていたけど半数近くの席が埋まっていたからそれなりに賑やかだった。

 でも、やっぱり小さな女の子を連れた親子が大半で、それもお母さんと一緒に来ている子が殆どだ。まあ、幼稚園児と思われる男の子を連れたお母さんもそれなりにいたけど。他にも小学生と思われる女の子のグループもあそこの席に見受けられるし、こっちの席には高校生と思われるカップルも見受けられるけど、男が積極的にこの映画を見たいとは思えないから彼女についてきただけ、と感じるのは俺だけだろうか?

 俺たちの席はほぼ正面だけど後ろから数えた方が早いくらいの席だ。端の席は見にくいから嫌だし、かと言って前すぎると今度は全体を見るのに疲れる。そう考えるとこの辺りでもいいかなと思われる。俺の右には石狩さんがいるけど、ニコニコ顔でカップを右手に持っているが、どうやらまだ手に付けてないようだ。俺の方はというと既に3分の1くらいは飲んでいる。

「・・・駒里こまさと君は映画館に行った事はあるのか?」

「ん?何度かありますけど、サッポロファクトリーは初めてですよ」

「というとステラプレイス?」

「うん」

「前回はいつ行った?」

「前回行ったのは小学校の5、6年だったと思う」

「何を見た?」

「えーと、たしか青葉あおばかえでみどりだけでなく母さんたちも一緒に『ハリー・ショッカーと不死身の騎士団』を見た」

「へえ。あたしは中学の時にお母さんと『アンナと雪の女王様』に行ったよ」

「あー、俺も誘われたけどパスしたから楓と緑が青葉と三人で行ったよ」

「どうして行かなかった?」

「こう言うと失礼かもしれないけど、中学生にもなって、あの映画を楓たちと一緒に見ろというのは正直勘弁して欲しいですよ」

「ナルホド、たしかに兄様も同じような事を言ってた・・・」

「そういう訳だから今日は久しぶりに映画館に来たよ」

「その久しぶりの映画をあたしと一緒に見れる事をどう思う?」

「そ、それは・・・光栄ですよ」

「駒里くーん、大変嬉しい言葉だけど、全然嬉しそうに見えないぞ」

「はーーーーー・・・(ゴニョゴニョ)なら良かったんだけどなあ」

「すみませんね、幼児向けの映画で!」

「い、いえ!そんな事を言ったつもりではなかったんだけど・・・」

「ま、それは冗談だ」

「勘弁してくださいよお、心臓によくないですよ」

 ここで上映が始まるブザーが鳴ったから俺と石狩さんの会話は中断の形になった。

 俺は手に持っていたコーラを飲み始めたけど、カップを持っているのは左手で、右手は手すりの上にのせたままにしている。石狩さんはというとカップは右手に持っているが飲んでない。ただ、左手は膝の上に置いている。

 でも、俺は気付いているけど、石狩さんは左手を少し動かしてはまた膝に戻すという動作を何度かしているし、膝に戻す度に軽く「はー」とため息をしている。俺は石狩さんが何をしたいのか、何でため息をしているのかに気付いてるけど、それを口に出してはいけないというのも分かっているから無言を貫いているし、顔はスクリーンを向けているけど意識は自分の右手と石狩さんの左手に行ってるというのも分かっている。

 女子柔道部最強とまで言われる石狩さんでも、躊躇ちゅうちょする事があるんだなあ。


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「どうしてポップコーンを買わなかったのかなあ・・・美味しいのに」

「あくまで個人的予想だけど、太美クンが体重を気にしてるのではないかなあ」

「ダイエットしてるから?」

「いんや、あの身長であのクラスだと、大会前は相当減量しないと体重オーバーで失格になるから、普段から気を付けてるんだと思う」

「そう言えば柔道は規定体重をオーバーしたら失格だったわねえ」


「それにしても、まさか『小学生でーす』で通るとは・・・」

「心臓ドキドキしてたけどー、アッサリ通ったからねー」

「あのさあ、それって、あたしたちが小学生だと思われたって事じゃあないの?」

「「うっ・・・」」

鶴沼つるぬま先輩がやったからといって、生徒会長が率先してやってもいいのかよ!?」

「ま、まあ、料金は高校生も小学生も同じだから犯罪じゃあないわよ」

「そうそう、大丈夫だよー」

「あたしは責任持てないぞ」

「でもさあ、映画館限定カードを貰えるなんて思わなかったよー!」

「なーんか、得した気分だよねー」

「兄貴に見付かったらどうするつもりするんだ?」

「「まあまあ、細かい事は気にしない、気にしない」」

「あたしはどうなっても知らないぞ!」


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