第123話 大成、キラキラ姉弟の喧嘩に出くわす

 今日もJR組と重なったようで、仁仁宇ににう駅から清風山せいふうざん高校へ向かう列が道路の向こう側を歩いてる。俺と青葉あおばかえでみどりは信号が変わるのを待っている状態なのだが、道路の向こう側を歩く集団の中に石狩いしかりさんがいるのに気付いた。さすがに石狩先輩はまだ足のギブスが取れてないから石狩さん一人しかいないけど、その石狩さんは道路の向こう側からこっちを向いて俺に一瞬だけ視線を合わせたから『ドキッ』とさせられたけど、石狩さんは特に表情を変える事なくすぐに前を向いて歩き続けたし、青葉たちもその事で何か反応を示した訳でもなかったから俺もホッとしたのは事実だ。

 でも、俺たちが信号を渡り始めた時に駅の向こう側からが現れた。遠目からもハッキリ分かる、ロリ顔の巨乳の女子生徒と男の割には背が低くてツンツン頭の男子生徒が速度を早くしたり遅くしたりして歩いて、いや、走っていると言うよりは何と言うか、とにかく競争しながらこちらへ向かってくるのが見えて来た。女子生徒は赤いリボンだから2年生、男子生徒は緑ネクタイだから1年生だというのが分かる。そう、赤井川あかいがわ美利河ぴりか美流渡みるとの『キラキラ姉弟』だ。

 が、その様子がいつもと違う事に俺たちは気付いた。

 見た目はいつも通りに弟の美流渡君の方が美利河さんが隣にならないように頑張っているけど美利河さんがムキになって並ぼうと必死になっている。でも、普段なら互いに肩で息をしながら『ぜーぜー』と息切れしながら『追いかけっこ』をしているのだが、何故か今日に限っては二人とも大声を出しながら『追いかけっこ』している。でも、ハッキリ言うけど互いに『喧嘩腰』という表現がピッタリなほどに険悪なムードで『追いかけっこ』をしているようにしか見えない。普段のような『仲の良い(?)姉弟』とは程遠い状況だ。

 前を歩いていた青葉が俺の方を振り返って

「・・・たいせー、なーんとなくだけど『キラキラ姉弟』らしくないよねえ」

「たしかに。何を言い争ってるんだあ?」

「でもさあ、気になるから呼び止めて話を聞いてみようよ」

「おーい、やめておけよ。『夫婦喧嘩は犬も食わぬ』というけど『きょうだい喧嘩』だって同じような物だぞ。首を突っ込むとロクな事にならないぞ」

「どうかしら?この串内くしない青葉に解決できない問題はないわよー」

「おい、ちょっと待て!この状況でを振りかざすつもりなのかあ!?いくら何でも無謀だあ!」

「大丈夫大丈夫、私にまっかせなさーい」

「俺はどうなっても知らないぞ、はーーー」

「まあまあ、ここは私に任せなさい!」

 そう言ったかと思ったら青葉がキラキラ姉弟の前に立ち塞がる格好になって両手を広げたからキラキラ姉弟は足を止めた。当然だが二人ともゼーゼーと肩で息をしている。だけど、普段とは違い相当険悪なムードだ。周りにいた連中は「何をやっているんだあ?」と言わんばかりの顔で俺たちの横を素通りする感じ次々を学校へ向かって歩いているから、この6人だけが横断歩道の前で立ち止まっているような感じになっている。

「おーい、おはよー、キラキラ姉弟らしくないよー」

「会長!丁度いい機会だから、この分からず屋の美流渡を何とかして下さい!」

「冗談じゃあありません!青葉先輩、この分からず屋の姉ちゃんを何とかして下さい!」

 そう言い合ったかと思うと、二人とも『フン!』と言わんばかりに互いにソッポを向いてしまったから、青葉だけでなく俺も楓も緑も「なんだこりゃあ!?」と互いの顔を見合わせてしまった程だ。

「・・・と、とにかく事情を話してくれないと私も何も言えません。まずはキラキラちゃんから事情を話してください」

 青葉は努めて冷静な態度でそれだけ言うと美利河さんに説明を求めたけど、美流渡君が一瞬だけ「えー、先に言わせてよお」というような表情をしたけど、さすがに青葉以外にも俺や楓、緑がいたから自重したけどね。

 その美利河さんは顔を真っ赤にしたかと思うと肩で息しながら

「どうしたもこうしたもありません!会長からも美流渡にはクイズ研究会ではなくスイーツ研究同好会に入るよう言って下さい!」

「「「「はあ!?」」」」

 ちょっと待て、美利河さんは一体、何を言いたいんだあ?だいたい、美流渡君が入る部・同好会を何で美利河さんと同じ同好会にさせる必要があるんだあ?青葉だけでなく楓や緑まで頭の上に『?』が2つも3つもつくような顔をしているぞ。

「と、とにかくキラキラちゃん、意味がよく分からないんだけど・・・」

「あのですね、簡単に言うとクイズ研究会の部長の滝ノ下たきのした先輩だけでなくクイズ研究会のメンバーが事あるごとに『クイズ研究会に入ってくれ』『クイズ研究会の女神様』とわたしに言ってくれるし、スイーツ研究同好会の部長の錦岡にしきおか先輩も華苗穂かなほ先輩もわたしがスイーツ研究同好会の退部届を出してクイズ研究会に鞍替えしてもいいって認めてくれたんだけど、今年の1年生がいつの間にか他の部に引き抜かれちゃって4人いた筈だったのに1人になってしまったのよ!」

「ちょ、ちょっとキラキラちゃん、それとキラキラ君を引き抜く事がどう繋がるの?」

「だってさあ、とりあえず1人残ってくれたから廃部は免れそうだけど、わたしが退部したらスイーツ研究同好会そのものが廃部か休止になっちゃうから、錦岡先輩も華苗穂先輩も掌を返したかのように『試食専門の幽霊部員のままでいいから、とにかく退部届だけは勘弁してくれ』って必死になってわたしを引き留めるのよお!でもさあ、これだと美流渡と同じ同好会に入れなくなるから、背に腹を変えられないから美流渡をスイーツ研究同好会に引っ張ってくる事にしたのよ!当然だけど錦岡先輩は美流渡の入部は大歓迎の立場だから『何がなんでも引っ張って来てね』と言ってくれたし、華苗穂先輩も歓迎の立場だからクイズ研究会の部長の滝ノ下先輩に直接話をつけに行って、美流渡がスイーツ研究同好会に入る事は既に了承済ですから、あとは美流渡がスイーツ研究同好会の入部届にサインするだけなんです!そういう訳ですから、会長からも美流渡がスイーツ研究同好会に入るよう、ビシッと言って下さい!」

 おいおい、スイーツ研究同好会が存続の危機に立っているのは俺も同情するし、今年は例年以上に引き抜き合戦が行われているのは俺でも知ってるけど、『あのひろ内金うちがね先輩』が直談判しにいったら、普通の人間だったら「嫌です」とは絶対に言えないから、滝ノ下先輩から見たらパワハラ紛いというか職権乱用で美流渡君を引き抜かれたに等しいぞ。そんな事を生徒会長が黙認したとなったら、それこそ大問題だぞ!?

 さすがの青葉も美利河さんが暴走している事は理解したようだけど、かと言って広内金先輩の暴走まで止めるほどの度胸が青葉にあるとは思えないぞ。どうする?

「・・・うーん、確認の為にキラキラ君に聞きたいんだけど、キラキラ君はスイーツ研究同好会への入部届を出す気はあるの?」

 青葉はにこやかに美流渡君に話しかけたけど、美流渡君は首を『ぶるるるるー』と横に振って「ぜーったいにありません!」と即答した。美利河さんは「ちょっと美流渡!いい加減に諦めなさい!」と大声を出したけど、それを青葉がやんわりと制した後にニコッとして

「あのさあキラキラちゃん、滝ノ下先輩がキラキラちゃんに入部して欲しいって口癖のように言ってるは私も知ってるけど、キラキラちゃんがスイーツ研究同好会に所属したままクイズ研究会に参加しても問題ないわよ」

「へ?・・・いいの?」

「ぜーんぜん大丈夫よ。だってさあ、元々キラキラちゃんは試食専門だからスイーツを作るメンバーではないわ。例えば、うちのクラスの当麻とうま君は囲碁部所属なのに将棋部に顔を出しているし、実際、高校生将棋名人戦や高校生将棋竜王戦とかの予選会には清風山高校将棋部の一員として出場したでしょ?他にもさあ、去年の高校サッカー選手権の予選の時にはゴールキーパーが怪我人続出で控えのゴールキーパーが誰もいなかったから、中学の時にゴールキーパーをしていたラグビー部と陸上部の1年生が控え選手としてメンバー登録されてたのはキラキラちゃんも同じクラスだったから知ってるわよね」

 そう青葉が言うと美利河さんも美流渡君も互いの顔を見合わせて目をパチパチさせてるけど、『目から鱗』とでも言おうか、俺もそんな簡単な方法で解決出来るのかと本気で疑ってるくらいだ。当然だけど俺も楓と緑の三人で互いの顔を見合わせて『いいのかよ!?』と言わんばかりだ。

「・・・かいちょー、たしかにサッカー部の件は知ってるけど、ホントにいいんですか?」

「まあ、キラキラ君も錦岡先輩と華苗穂先輩の顔を立てる意味で、活動日に調理実習室に顔を出すようにすれば?出来立てのクッキーとかチーズケーキがそれこそ食べ放題よ。それにさあ、元々クイズ研究会の活動日は月・水・金だけどスイーツ研究同好会は水・金でしょ?でも、スイーツ研究同好会の活動日は別に水・金に拘ってないのは私も知ってるから、キラキラちゃんから錦岡先輩に『キラキラ君がスイーツ研究同好会に顔を出せるよう、活動日を火・木に変えてもいいですか?』とか言ってみれば?恐らく錦岡先輩もイヤとは言えない筈だから、これで全て解決できると思うけど、どうかなあ」

 それだけ言うと青葉はニコッと微笑んで、「これで全て解決よ!なんてったって、私がルールブックですから!」と例の決め台詞を放ち、その勢いに飲まれたのか美利河さんも美流渡君も首を縦に振る事しか出来なかったくらいだ。

 青葉が「折角だから一緒に登校しましょう」と言って歩き出したから、美利河さんは青葉と並んで歩き、その後ろを楓と美流渡君が並んで歩く形になり、最後尾に俺と緑が並んで歩いて正門に向かった。緑は珍しく俺が見ていてもニコッとした表情を崩さず、いつものようなツンとした表情を見せなかったから俺も「あれっ?」と思ったほどだけど、あまり深く考えるのはやめようと思って、あえて考えるのをやめた。


 これまでの様子を見る限りでは、青葉たちだけでなく、美利河さんと美流渡君のキラキラ姉弟、それに他の学校の連中の誰も俺と石狩さんが明日デートするなどとは微塵も思ってないようだから、あとはこのままボロを出さないように気を付けて、何とか今日を乗り切れば・・・

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