第57話 大成、古めかしい純喫茶に行く
結局、
この店の前にあった看板には『純喫茶おりんぴあ』と書かれていた。
かなり古めかしい建物だし、だいたいセレブのお嬢様が出入りするとは思えないような喫茶店だ。けど、もしかしたら超穴場の名店なのかもしれないし、華苗穂先輩のお父さんやお爺さんとかのお気に入りだったりして。
でも、店に入る直前に華苗穂先輩は握っていた手を離した。
俺は一瞬「あれっ?」と思ったけど、古めかしい扉を開けるためなのかなあと思ったから、あまり気にしなかった。
「・・・
そう言うと華苗穂先輩は店の中に先に入ったから、俺は華苗穂先輩に続く形で店内に入った。
『いらっしゃい・・・あれ?華苗穂さんじゃあないですか』
カウンターの中にいた初老の紳士、いや失礼、マスターが華苗穂先輩に声を掛けて来た。
「マスター、ちょっと立ち寄らせてもらったよ」
『ああ、構わないよ。いつもの席が空いてるから座っていいよ』
「分かった」
それだけ言うと華苗穂先輩は窓際の席に座り、俺は先輩と向い合せの席に座った。他に客が数人いたけど、まるで昔にタイムスリップしたかのような雰囲気の店だ。
「・・・この店の名前の由来が分かるか?」
いきなり華苗穂先輩が口を開いたから俺はびっくりしたけど、質問の意味は分かった。
「・・・店の名前が『おりんぴあ』になってる意味ですか?」
「そうだ」
「うーん・・・普通に考えれば南ヨーロッパをイメージしたとか、あるいはギリシャのオリンピアに関係した人が作った店とかですか?」
「どっちも違う。この店は昭和47年(1972年)開業だ。これ以上のヒントはないぞ」
「昭和47年?」
「そう、昭和47年」
「・・・なるほど、札幌冬季オリンピックが開かれた年に開業したからですか?」
「そういう事だ。一度改修しているが開業当時の雰囲気は変わってない」
それだけ言うと華苗穂先輩は外を見て黙ってしまった。
なんとなくだが華苗穂先輩の雰囲気がさっきまでとは違う。何と表現したらいいのか分からないけど、寂しそうな気がする・・・。
「こらー!
いきなり大声を上げられたから俺も華苗穂先輩もビックリして声をあげた人物を見た。その瞬間、俺も華苗穂先輩も声を揃えて
「「
「あらー、覚えていてくれて良かったわ。まさか君たちがデートしている現場に出くわすとは思わなかったからね。何なら
そう言うとこの女性はニコニコしたまま俺と華苗穂先輩を交互に見て笑った。
「勘弁してくださいよお。これはデートじゃあなくて罰ゲームですよお」
「あれ?広内金さん、本当にそうなの?」
「そうですよお。ボクだって本気でこいつと付き合ってる訳じゃあないですよ」
「まあ、それもそうね。男嫌いで有名な広内金さんがデートするとは思えないから」
そう言ってこの人は再び笑った。
この人の名前は紅葉山
性格はというと・・・表向きは真面目なお嬢様なのだが、実際にはアニメオタクとして校内では知らない人がいないと言われたくらいの有名人で、前のアニ研部長でもある。ただし、華苗穂先輩は校内1の貧乳(?)だが、この紅葉山先輩は自称Fカップ!もしかしたらEかもしれないけど、とにかくボン・キュン・ボンという表現がぴったりの先輩だ。しかも男子からの人気は青葉と校内を二分していたほどの美貌だ。
青葉が人気面で紅葉山先輩を上回った最大の理由は、あまりにも度が過ぎたアニメオタクが原因だ。何しろ去年の学園祭である『清風祭』では、前夜祭を含めると3日間とも別のコスプレをしていたほどなのだ。生徒会の公式行事も含め、前夜祭はメイド、初日は某アニメヒロインのセーラー服、二日目は魔法少女のコスプレで過ごし、とにかくオタクの度が過ぎるので一部の男子・女子からは敬遠されていた程だ。
でも、男でも女でも誰隔たりなく接していて、しかも面倒見が良かったから生徒からの受けは良く先生方からの信頼も厚かった。ある意味青葉はこの偉大な(?)先輩の後を1年生の段階で引き継ぐ形で生徒会長になったから、高いハードルを最初から突き付けられたに等しい。
それにしても・・・エプロンをしてるという事は・・・
「あのー、紅葉山先輩」
「あのね、もうわたしも大学生だから紅葉山先輩って呼ばなくていいわよ。桔梗さんで構わないし、言い難ければ紅葉山さんでも構わないよ」
「じゃあ、ボクは紅葉山さんと呼ばせてもらいますよ」
「俺もそうさせてもらいます」
「ええ、構いませんよ」
「紅葉山さんはここでバイトしてるんですか?」
「バイトしてるも何も、ここのマスターはわたしのお爺ちゃんよ」
「「はあ!?」」
「ちょっとー、間抜けな声を上げないでよお。それにわたしはずっと以前から店の奥でバイトというか手伝いというか、影の店員でもあったんだからさあ」
「そうだったんですか。ボクも全然気づきませんでした」
「当たり前よ。わたしも表向きはサラリーマン家庭の娘だったから、お爺ちゃんが喫茶店を経営しているとは高校生の時には一言も言ってなかったし、だいたい特進科の生徒と特待生はバイト禁止だったからコッソリ店の手伝いをしていたに等しいわよ」
「へえ」
「広内金さんはこの店にくる時は半分以上の確率で眼鏡してるでしょ?だから最初からバレバレよ。しかも男の子と一緒に来るんだから、どうみてもデートとしか思えなかったわ」
「「・・・・・ (・・;) 」」
「まあ、広内金さんは知らないかもしれないけど、この喫茶店を開いたのはひいお爺ちゃんだからお爺ちゃんは2代目。広内金さんが中学生の頃から時々ここの席で一人でコーヒーを飲んでるのはわたしも知ってたわよ。しかもあなたが飲むコーヒーはいつもわたしが作ってたんだからね」
「マジですかあ!?ボクはてっきり毎回マスターがやったと思ってました」
「まあ、わたしがいない時はお爺ちゃんがやったのは事実だけど、わたしがいる時は毎回わたしよ」
「いやー、全然気付かなかった。いつもスペシャルブレンドを頼んでたのに味が変わらないから」
「まあ、わたしもお爺ちゃんに鍛えられたと言っても過言ではないからね。それよりオーダーはスペシャルブレンド2つでいいの?それともショートケーキかチーズケーキを頼むの?」
「大成、ここのチーズケーキは結構美味しいんだぞ。何なら食べてみるか?」
「先輩がオススメするくらいの味なら食べてみたいですね」
「じゃあ決まりだ。紅葉山さん、スペシャルブレンドとチーズケーキを2つずつ」
「了解であります!」
そう言うと紅葉山さんはカンターの方へ戻って行った。
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