第34話 大成、唖然とする

「・・・以上、文芸部ありがとうざいましたー」

 美利河ぴりかさんは文芸部の部長からマイクを受け取り、その次のチェス部の部長にマイクを渡した。


 午後から始まった部・同好会合同説明会は生徒会長である青葉あおばの簡単な挨拶(当然だが、この挨拶の原稿は俺が作った)の後、抽選に従い1番になったクイズ研究会から始まった。体育館の入り口付近には最後の呼び込みに賭ける部・同好会が集まってきていていたが、会場である体育館内は勧誘活動禁止なので昇降口から体育館前の連絡通路が最後の勧誘場所になっていて、説明会が始まるまでは朝以上の盛り上がりを見せていたのは事実だった。

 体育館の床にはシートが並べられ、その上には椅子も沢山並べられている。一番前側には移動式のステージも設けられていて、発表者はステージの上に乗って発表するのだが、順番は3月の抽選に従って1番のクイズ研究会、2番のスキー部、3番のサッカー部・・・という順番で発表を行い、最後から2番目が剣道部、一番最後が鉄道研究会だ。虎杖浜こじょうはま先輩が作ったパンフレットはこの発表順に並べられている。

 今日の司会担当は美利河さんだ。でも、俺たち生徒会メンバーもステージ下で待機している状態だ。そう、最後から2番目に行う剣道部が今日の最大の懸案事項なのだから、俺たちは最後まで気が休まる事はない。いや、時間が進むにつれて緊張が高まっていると言っても過言ではない。

 この部・同好会合同説明会の主催は生徒会だ。だから先生方も生徒を誘導する担当の1年生の担任を除いては数人来ているが自分が顧問をしている部や同好会の発表時に一緒にステージ上に上がってPRする為に来ている先生方だけだ。だから自分の担当が終われば戻っていってしまう。唯一の例外が生徒会顧問であるらん先生だが、蘭先生自身は今日の説明会に口を出す事はしないし、自身が顧問をしている茶道部の発表時にステージ上に上がる事も無かった。当然だが1年生の担任も生徒会主催行事に口を出す事はしない。


 チェス部の次が問題の剣道部だ。既に剣道部はステージ下に来ている。発表者の人数に制限はないから剣道部は全部で6人がステージに上がるようだ。全員が道着と袴を着用して竹刀を持っているが、その中に紅一点の美留和びるわ先輩がいる。6人とも緊張しているようには見ないが、かと言って笑っている訳ではない。

「・・・チェス部、ありがとうございましたー」

 美利河さんはチェス部の発表者である部長からマイクを受け取り、部長はステージを降りて行った。その部長と入れ替わりの形で剣道部の男子5人と女子1人の6人がステージに上がった。

「次は剣道部です」

 そう言ってから美利河さんは剣道部の部長である3年7組の滝川たきかわ先輩にマイクを渡した。

 剣道部は6人が横一列に並んだ後に滝川先輩だけが一歩前へ進み出て

「えー、おれたち剣道部は現在3年生9人、2年生8人で活動中です。過去にはインターハイの団体3位、個人準優勝などの記録も収めている、清風山せいふうざん高校の運動部の中では学校創設時から活動している数少ない部の一つです。この体育館の横にある武道館の1階がおれたち剣道部の活動場所です。そんなおれたちは君たち1年生の入部を心より歓迎します」

「「「「「歓迎しまーす」」」」」

 ここで滝川部長がマイクを美留和先輩に渡して列に戻った。美留和先輩は少し緊張した面持ちで一歩前に出ると話し始めた。

「えーと、わたくしが清風山高校剣道部の紅一点、3年6組の美留和びるわ咲来さきです。いや、正確には女子剣道部最後の生き残りです。昨年、女子剣道部は人数が部として存続できる10人を割り込んだので男子剣道部と合併し剣道部となりましたが、3月を持ってわたくし以外の人は卒業してしまったので、本当の意味での最後の生き残りになってしまいました。今のままでは団体戦に出場する事もできません。団体戦に出場するとまではいかなくても、せめて女の子同士で練習したいと切実に思っています。一人でも二人でも構わないので、女の子の入部は大歓迎です。もちろん、男子の入部も、初心者も有段者も清風山高校剣道部は歓迎します」

 そう言って美留和先輩は深々と頭を下げた。

 そのまま剣道部はステージから降りて行ったので、俺たち生徒会メンバーは唖然としてしまった・・・。

 これでいいのかあ?爆弾発言どころか、ただひたすらに低姿勢で呼び掛けただけで終わった・・・肩透かしもいいところだぞ!?。

 美利河さんも一瞬呆気に取られた格好だったが、慌ててマイクを美留和先輩から受け取って

「えーと、剣道部、ありがとうございましたー。それでは大トリの鉄道研究会お願いします」

 そう言うと剣道部と入れ違いに同好会である鉄道研究会の部長の虎杖浜先輩がステージに上がって行った。

 剣道部の男子5人は俺たちの前を黙って歩いて行ったが、一番最後に歩いていた美留和先輩が青葉の前で立ち止まった。俺は青葉の横に立っていたので、美留和先輩の表情がはっきりと見える。明らかに不満顔なのだ。

「・・・会長、鬼鹿おにしか先生からも指導があったので今日のところは会長のお言葉通りにさせてもらいました。でも、もしもの時には会長がやってくれるんですよね」

「・・・もちろんですよ。この串内くしない青葉、生徒会長として発言には責任を持ちます」

「・・・わかりました。会長を信じてます」

 それだけ言うと美留和先輩は足早に去って行った。

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