第20話 大成、クラスメイトに青葉との関係を問いただされる

 俺たちは新1年生が帰った後は講堂の片付け作業を先生方と一緒に行い、それが終わった後は他の生徒たちと新学期最初の登校となる。俺たち全員は生徒会室で持参したお弁当を食べた後は全員新クラスへ向かった。

 時刻はまもなく午後1時になろうとしている。

 俺たち新2年1組の連中は続々と登校している。クラス替えがあったと言っても、特進科は元々2クラス(1組と2組)しかないから、半数が入れ替わったに過ぎない。普通科(3組~8組)は毎年クラス替えがあるけど、特進科は3年生の時にクラス替えがないから来年も同じ顔触れになる。ただ、今年の1年生から特進科はスーパー特進科と特進科の2つに別れたので、この2つは3年間同じ顔触れのまま過ごす事になる。俺と青葉あおばは、いわば旧特進科最後の学年という事になる。

 今日の席順は仮的に出席番号順に座る事になっているから、俺は青葉の後ろだ。青葉の前は北舟岡きたふなおか当麻とうま、俺の後ろは昆布盛こんぶもり双葉ふたば、この4人の並びも変わってない。俺たちは青葉の机の周囲に集まってワイワイと話をしている。

「おー、たいせいー、また今年も同じかあ」

「とうまー、お前も相変わらずだな」

「まあ、わたしは青葉ちゃんと一緒のクラスで良かったと思ってるよー」

「そうね、私も双葉ちゃんと同じで良かったよ」

「まあ、俺たちは来年も同じクラス確定だからな」

「とういう事は大成たいせい、お前はゲーセン部屋を使用できる権利をあと2年も手に入れたという事だな」

「あー、大成君だけに使わせるのはずるいー!わたしにだって使わせてよー」

「双葉は毎日のように使ってるだろ?たまには大成に貸してやれよー」

「えー、大成君に使わせたらわたしに回ってこないわよー。大成君は神クラスなんだからさあ」

「俺が神クラスなら双葉さんは世界の想像主だろ?全知全能の神から神クラスと言われるのは恐れ多いぞ」

「まあまあ、大成に双葉ちゃんもそのくらいにしておきなさいよー」

「そうだぞ、だいたい所有者に断りもなく押しかけるお前らがよくない!青葉ちゃんをみろ、いつも謙虚で、それでいて気配り上手だ。まさにおれの理想像そのものだぞ」

「あー、そんな事を言うならさっさと青葉ちゃんに乗り換えればー、ぷんぷーん!」

「あー、ちょ、ちょっと待ったー!おれは双葉を見捨てる事は決してしないぞー。さっきのは冗談だ」

「それはそうよねー。青葉ちゃんには大成君がいるもんねー」

「だよなー」

「とうまくーん、ふたばちゃーん、いっつも言ってるけど誤解だよー」

「はあ?お前ら、いい加減に認めろよ!?」

「認めるって何を?」

「またまたー、この夫婦がとぼけちゃってさあ」

「だーかーら、私と大成は夫婦でもないし、だいたい私は大成のカノジョでもないわよー」

「じゃあ、青葉ちゃんにとって大成君はなーに?」

「幼馴染」

「「はあ?去年までと同じ返事!?」」

「そう。まあ、あえて言うなら上司と部下かな」

「会長と書記だから上司と部下かあ・・・大成、お前、ホントに青葉ちゃんと付き合ってないのか?」

「だーかーら、いっつも言ってるだろ。青葉の言う通りだ」

「お前らさあ、いい加減にくっつけよー」

「とうまくーん、くっつくってなーに?」

「「だめだこりゃあ」」

 そう、俺たち4人は昨年も同じクラスで同時に遊び仲間でもある。当麻と双葉さんは同じ中学出身だが中学の時には特に接点もない、ただの同級生だったのだが同じ高校の同じ科、同じクラスになった事がきっかけで入学して間もなく付き合い始めた。俺は双葉さんが母娘揃ってBOUQUETブーケの常連客だった関係で以前から顔を知っていたが、直接話をするのは清風山せいふうざん高校に進学して同じクラスになってからだ。以来、俺たち4人は連れ添って遊ぶ事が多くなり、マンガ本とゲームで埋め尽くされた当麻の部屋は俺たちの溜まり場になりつつある。当麻の凄いところは、この部屋で過ごしていながら青葉に次ぐ第2位の成績をキープしつつ囲碁部と将棋部のエース格だ。おまけに囲碁アマ五段、将棋アマ三段の実力の持ち主で麻雀の腕はプロ級との噂もあり、ある意味、青葉以上の天才なのかもしれない。その代わり恵比島えびしま先輩並みに体の線が細く、体育は学年最下位レベルの奴だ。

 でも、当麻と双葉ちゃんは俺と青葉の関係を誤解している。まあ、この二人以外にも誤解している奴はいるけど、俺と青葉は決して彼氏彼女の関係ではない。少なくとも青葉はそう思っている。でも、俺としては・・・。

「はいはいー、みんなー、そろそろ席についてねー」

 そう言うとらん先生が教室に入ってきた。という事は間もなく予鈴がなる時間だ、と思っていたら予鈴が鳴った。蘭先生は几帳面だから去年の国語の授業も予鈴が鳴る直前に1年2組に入ってきていたし、それは担任を受け持っていた1年3組でも同じだった。

 俺たちはさっきまでの喧噪が嘘のようにおとなしく自分の仮の席に座っている。俺たちのクラスは36人、男女同数のクラスだ。それは2組も同じだ。

「よーっし、全員来てるわねー。じゃあ、ちょっと早いけど確認の為に名前を読み上げますから返事をしてくださいねー」

 そう言って蘭先生は出席番号順に名前を読み上げて行った。出席番号1番の赤平あかびらから読み上げていき、当麻に続いて青葉、俺、双葉さんと続き、35番の矢不来やふらい、36番の鷲別わしべつさんまで読み上げ、全員が返事をした時点で

「みなさーん、これから1年間、一緒に頑張りましょう」

 蘭先生が教室中に響くような声でみんなに呼び掛け、これに合わせるかのように拍手が沸き起こり、新生2年1組の船出となった。

 この後、蘭先生がこれからの予定を簡単に説明した。今日はショートホームルームの後は始業式を講堂で行い、その後はロングホームルームで終了だ。明日はロングホームルーム2時間と1年生歓迎オリエンテーション、午後から部・同好会合同説明会のみで終了、明後日から通常通りの授業となる。

 始業式も無事に終わり、色々な提出物を出してロングホームルームが終わったから今日は下校だ。

 帰りのショートホームルームの、本当の一番最後に蘭先生が

「それとー、みなさんもご存じとは思いますが、クラス委員と風紀委員の選出を明後日のショートホームルームまでにする必要があるので、立候補したい人は先生に行ってきて下さいねー。あー、でも、生徒会役員である串内くしないさんと駒里こまさと君は立候補する権利がないので他の34人の誰かにやってもらう事になります。そこだけは承知しておいてくださーい」

 この欄先生の言葉を最後に俺たち2年1組の生徒は教室をバラバラと出て行った。今日活動しているのは運動部と文化部の一部だけど、うちのクラスにはその部に所属している連中は皆無だから全員が帰宅の途に就いた。あー、いや、一部は進学塾へ向かったと言った方が正しいかな。

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