第136話 帰還

 俺たちはエルバンテの港に帰ってきた。

 エリスの転移魔法で、帰っても良かったのだが、地上最大と言われているラフランテ湖を見てみたいと思い、無理を言ってヤマトで周遊していた。

 帰って来ると、既にクラウディアが運転する極地探検車も戻っており、更にエマンチック国もエルバンテ領に加わる事が確定しており、後は領土移譲の手続きだけとなっている。

 この辺りは官僚がうまくやったのだろう。

 そして、東部方面の代官はナルディ・キロルがいなくなった後を指名しなければならない。

 前任者は俺の指名責任もあったので、今回は慎重を期す必要がある。

「東部方面の代官を誰にするかだな」

 国の政治は宰相を頂点とする議員と実務を行う官僚が居るので、宰相がその地方地方の長官を決めるが、代官は皇帝の代行者として、駐在する軍の指揮権が与えられる。言わば、この両名が経済と武力で地域を盛り立てる事になる。

「シュバンカさんはどうかしら?」

 エリスが推薦してきた。

 シュバンカは長い間、西部方面の代官として努めており、その実力は折り紙付きだ。

 元々は俺の開店時からの売り子だったが、その対外交渉力を買って、俺が代官に指名したところ、彼女の人柄なのか、新しく組み入れられた領土の領民が慕ってくれたというのもある。

 今では、西部方面の母と呼ばれている。

 実際、彼女は、夫セルゲイさんの間に子供が4人いる。

 セルゲイさんは一時、キバヤシロジテックの社長をしていたが、社長を辞任してからは忙しい妻に代わって、主夫をしていた。

 軍隊一と言われた弓の名手が家で皿洗いをしている姿を想像すると笑えて来るが、本人も気に入っているようだ。

「たしかに、シュバンカさんは実績もあるし、ナルディ・キロルの後をうまく纏めてくれるだろう。

 だが、彼女を西部から東部に異動させるとなると、彼女自身や領民はどうだろうか?」

「そうね…」

 俺の言葉にエリスも黙った。

「では、エミールは、いかがでしょう?」

 今度はラピスだ。

「エミールは北部方面代官として着任したばかりだ。今は動かせない」

「そうですか…」

 ラピスも黙った。

「南部のヘドックさんも…」

 エミリーが言うが、南部は小さな国が集って出来ており、昔からのしきたりやその地方独特の慣習がある。

 ヘドックを動かすということは、その後に入れる人が問題となる。それを考えるとヘドックも動かす訳にはいかない。

「無理だな」

 俺の言葉にエミリーも黙った。

「やはり、シュバンカさんに行って貰おう。ナルディの後始末とエマンチック国の加盟を考えると、ここは実績のある彼女しかいない。

「では、副代官のコンラードは?」

「いや、彼を代官にしようと思う。副代官にはエルハンドラ…」

「えっー、エルハンドラ??」

 エルハンドラはアホだ。副代官をやらせたらどうなるか分からないので、嫁たちが反対するのだろう。

「…の妻のミドゥーシャにしようかなぁーと」

「ミドゥーシャなら賛成です」

「そうです、彼女なら心配いりません」

 エリスとラピスは賛成のようだ。見ると他の嫁も頷いている。

 しかし、エルハンドラよ、お前はもう少し嫁を見習った方がいいと思うぞ。

 だけど、俺といい、エルハンドラといい、ゼルゲイさんといい、嫁におんぶに抱っこの状態だ。嫁がいなかったら、何も出来ない男ばかりだ。

「ウーリカはどうするのです?」

 ラピスが聞いて来る。

「ウーリカはシュバンカとは離れないだろう。一緒に東部方面に行って貰おう」

「ところで、エミールから副代官の指名について嘆願書が来ていた。ジルコ・ファンレイを副代官として登用したいそうだ。

 彼は若いが、今度の北部の国の統合の際に影ながら動いてくれた事で、エミールが是非にと言ってきた」

「ジルコですが、ジルコはルルミと結婚するらしいですよ」

 その情報はマリンだ。マリンは人魚なので歳を感じさせないが、既におばさんと言って良い歳だし、そんな人の噂話に敏感なのが、おばさんの証拠だ。

「ほう、そうなんだ。ルルミの方が年上だろう」

「たしか4つか5つ上です」

「あっ」

「ミュ、どうした?」

「いえ、1年程前ですか、北の国に行く直前のことです。ルルミが来て、誘惑の魔法を入れた水が欲しいというので、1本渡した事があります。もしかして、それを使ったのでは…?」

「…、ミュ、あれはあまり人に渡すな」

 誘惑の魔法を入れた水は、本来、冒険者が魔物と対峙した時に、魔物に投げつけ、一瞬朦朧とさせるための薬だ。そして、その薬はミュが湯に入った後の残り湯だ。

 ミュが俺と愛し合った後に入った湯の方が効果が高いらしい。

 しかし、残り湯なので、衛生的に問題がある。

「そうだっんだ!」

 今度はエリスだ。

「エリスか、どうした?」

「北の国を離れる直前だけど、ジルコがお腹を壊したの。私が治療してあげたのだけど、その時、健気に介護していたのが、ルルミだったわ。

 私はてっきり、ルルミの介護のおかげで一緒になったと思っていたけど、どうやら違うようね」

 恐らく、ルルミはジルコに誘惑の水を飲ませたが、非衛生的なため、ジルコはお腹を壊した。それに罪の意識を持ったルルミが看病したが、誘惑の魔法の効果もあって、ジルコはルルミに好意を持った、と、言うのが正しいのだろう。

「まあ、結果良ければ全て良しね」

「確かに、エリスさまの言う通りです」

 エリスとミュが言うが、お前たちが言うな。

「それで、旦那さまにお願いが…」

 今度はエミリーが言う。

「何だ?」

「いえ、そろそろ私も母になりたいなと…、夜も更けましたし」

「そうね、いいわね。夜も更けたし」

「そうです、夜も更けました」

「あら、もうこんな時間、これからは大人の時間ですね。夜も更けましたし」

「私も、そろそろ母になりたいです。夜も更けましたし」

 だから、夜も更けたと、どう関係があるんだ。

「精よりは献血の方を…」

 ネルは血の方が良いみたいだ。

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