第131話 サミエル・キロルの話

「ナルディについて、何か聞きたい事があるそうだな?」

 その男は部屋に入って来るなり、そう聞いてきた。

「初めまして、私はシンヤと言う者ですが、ご存じのとおりナルディは指名手配中です。その事について、お聞きしたいと思います」

「あんたらは憲兵か、何かか。憲兵には散々話したからそっちに行って聞いてくれ」

「いえ、憲兵ではありません。何度も申し訳ありませんが、ご家族の方にもご出席して貰えないでしょうか?」

 俺の言葉を聞いた先程応対してくれた女性が部屋を出ていった。恐らく、他の家族を呼びに行ったのだろう。

 しばらく、するとその女性が二人の女性を連れて入って来た。

「これで、全員ですか?」

「今、この家に執事や侍女はいません。私たち4人だけで暮らしています」

 酒に酔った中年男以外は、疲れた感じのドレスを着た中年女性と、同じようなドレスを着た、姉妹らしき女性が二人いる。この二人が独身だと言う娘たちなのだろう。

「それではナルディについてお聞きします。まずは小さい頃の事からです」

 サミエル・キロルについて聞くが、既に俺たちが入手している以外の新しい情報はなかった。

「では、奥様と、ご子息にもお聞きします。ナルディはどのような人でしたか?」

 夫人と言われた人はプライドがあるのか俺の質問には答えようとしない。代わって答えたのは長女の方だ。

「叔父上の事は正直、あまり良く知りません。ですが、叔母さまたちは、私たち姉妹を可愛がってくれました」

「それはいつ頃の話ですか?」

「この国がエルバンテに併合される前ですから、5年ほど前の頃です。叔母さまたちには今から時代が変わって行くので、貴族としてはやっていけない。この家に居ても先が見えているから一緒に来ないかと誘われました」

「何故、一緒に行かなかったのですか?」

「時代が変わって行く事は、いろいろな人の噂話から聞いて分かっていましたが、そうなると心配なのは両親です。両親を残して行く気にはなれませんでした。

 それに父にも反対されたので」

「あんな、ナルディなんかに付いて行くのは反対だ。俺たちはテロリストとは関係ない」

 ナルディがウラン爆弾を持って、行方知らずになっている事は既に国中に知られている。

 当然、その親族はテロリストに関係するとして世間からは白い目で見られている。

 サミエルはテロリストを否定している訳だが、世間はそうは見ないだろう。

「我々はナルディの行方を追っています。どこに行ったか心当たりはありませんか?」

「心当たりはありません」

「ナルディが住んでいた家とかは?」

「ナルディは25歳の時、エルバンテの国で実施された試験を受けると言って、この家を出ていった。それからは音信不通だ。」

 これは父親のサミエルが答える。

「妹さんたちは?」

「しばらくすると、ナルディから連絡が来たようで、二人して出て行った。なんでも官僚としてエルバンテに仕官できたから、一緒に暮らさないかと言って来たようだ」

「私も小さい時の記憶しかありませんが、その時は優しい叔母さまといった感じでした」

「ナルディは核の濃縮施設を持っていました。その費用はここから出ているんじゃないですか?」

「私は出していない。気が付くと、私の領地は既に人の手に渡る事になっていた。それは官僚となったナルディがやったようだ。既に、この家も抵当に入っており、来週には引き渡さないといけない」

「そうなると、あなた方は来月にはどこへ行かれるのですか?」

「取り敢えずは妻の兄の所に身を寄せようと思っている。娘二人はどこか良い家柄の所に嫁に行って貰えればよいのだが…。

 今の皇帝は何人もの妻を持つ女好きだと聞いている。できれば、皇帝の夫人に納まる事が出来れば一番良いが、愛人でも構わない」

「「「「「「「却下!」」」」」」

 嫁たちが反対した。

 確かに妻が6人も居ると女好きと思われても仕方ないが、実際、国民にそう思われていた事に落胆してしまう。

「あの、皇帝ともなれば女好きか否かにかかわらず、妻としないといけない場合もあるんじゃないですか?」

 言った後に俺は、地雷を踏んだ事を自覚した。

「今の言葉の『妻としないといけない場合』って意味を後から話し合う必要があるわね」

 エリスの言葉にラピスが反応する。

「そうですね。その意味は問い質す必要があるようですね」

 ミュは、こんな時は何も言わないので、第一夫人と第三夫人の二人の意見が合えば、他の嫁は何も言えなくなってしまう。

 それでも、俺に味方しようという目は誰もしていない。

「まあ、皇帝ともなれば、それは理解するが、女嫌いなら、そう何人も妻は娶らないだろう」

 俺の女好きが確定した。

 しかし、これ以上の情報も得られないので、お暇することにした。

「それでは、これで失礼します」

「叔父さまがご迷惑をかけて申し訳ありません、陛下」

 長女がそう言ってきた。

「えっ、陛下?」

「父上、この方は皇帝陛下です。あまり失礼な事は言わない方が良いでしょう」

「へ、陛下、我が家の娘をどうか…」

 そこまで言って、俺が遮った。

「エルバンテは試験次第で、職を得る事が出来ます。あなた方二人も試験を受けられてはどうですか?深窓の令嬢は今の時代には合わない」

 二人の姉妹は俺の言葉に深く頷いた。

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