第119話 かき氷勝負

 ここから、エンタイ行の列車に乗り換えることになるが、列車の発車までには、2時間程の余裕があるので、サンドロースの街に食事に出ることにした。

 シードラが資源開発を始めた頃は、オアシスの中にポツンと事務所があるだけだったが、今では、オアシスを中心とした街が出来ている。

 20階建てのビルもあり、写真でみた砂漠の中の街がイメージされる。

 この街は外に出ると暑いので、地下通路があり、地上に出る事なく移動できるのも便利だ。

 それに、地上には砂トカゲや大型のサソリも居る事から安全を確保するという点でも、地下通路の方が良い。

 地下街にはいろいろな飲食店が並んでいるが、その全てがキバヤシ系列のチェーン店だ。

 中には砂漠なのに寿司屋なんてのもある。

 こんな所で、寿司屋かと思うが、冷凍車などで輸送技術が発達したので、それも可能になったのだろう。

 この地下街は、ここに住んでいる住民や出勤前のモーニングを求める人たちで朝のこの時間でもかなりの混みようだ。

「結構、混んでいるな。どこかでモーニングでも頼もうか?」

 名古屋の喫茶店名物のモーニングを頭に浮かべながら俺が言う。

「私、かき氷が食べたい」

 そう言ったのはエリスだ。

 たしかに、朝だと言うのに、太陽が昇ると直ぐに40℃くらいに地上の温度はなる。

 その景色を見るとかき氷を食べたいのも理解できるが、この地下街は冷房が入っており、そんなに暑くはない。

「地下街は冷房が効いているから、かき氷は身体が冷えるぞ」

「えっー、でも外の景色を見ると、かき氷って食べたくならない?」

「まあ、それは言えるが…、どうしようか」

「婿殿、儂もエリスさまに賛成じゃ。朝からかき氷、良いではないか」

「ご隠居殿、かき氷とは一体何でしょうか?」

「うむ、氷を細かくして、その上にシロップを掛けた単純な食べ物なんだが、暑い時はこれが一番じゃな。昔は氷を作る技術がなかったので、食べる事が出来なかったが、最近の技術の進歩により、食べれるようになったのじゃ」

「ご隠居殿の薦めであれば我も、そのかき氷を食べてみようぞ」

 結局、かき氷を提供してくれるファミリーレストランに入って、各々が注文することになった。

 かき氷を頼んだのはご隠居さまとポセイドン王、それにエリスの3人だけだ。後の人はモーニングセットを頼んだ。

 ウェイトレスが持って来たかき氷を見るが、かなりの量がある。だが、溶けるとただの水だ。

 水としての量は少ないだろうから、直ぐにお腹も減る事になる。

「フフフ、ポセイドン殿、これはな、最初は頭がキーンとなるのじゃ、そのキーンとなるのを堪えて、いかに速く食べれるかが男の見せ所でもある」

「なんと、そのような、危険な食べ物であるか。そういう話なら、ご隠居さまに負ける訳にはいきませんな」

「ホッホッホッ、また儂と勝負をするというのかな。そういえば、この間の食べ比べでは途中で邪魔者が入ったおかげで、勝敗がつかなかったからのう」

「おお、そうでした。それでは、再戦ということで。私が開始の合図をするということで良いですかな」

「おお、いつでも来られよ」

 ご隠居さまたちの勝負が再び開始となった。歳なんだから、もう少し大人しくしてくれよ。

「よーい、ドン」

 ポセイドン王が合図をすると、二人が同時に目の前にあるかき氷を食べ始める。

「うおっーー」

「おおっー」

 二人とも、両手で頭を押さえている。早速、「キーン」が来たようだ。

 だが、再びかき氷を食べ始める。

「うおっーー」

「おおっー」

 また、同じ事をやっている。やっている本人たちは真剣なのだが、見ている方としては面白い。

 しかし、その中でもかき氷を平気で食べている人物が俺の横に居る。

「エリスはかき氷を食べても頭がキーンってならないのか?」

「うん、私は平気。なんたって、神なんだから、そんな事でキーンってならないわ」

「それって、脳がないからとかいうオチじゃないだろうな」

「シンヤさま、酷いわ。今まで私の知識で助けてあげたのに、その言い方はないわ」

 横を見ると他の嫁たちもエリスに同情した目をしている。

「ごめん、ごめん、ちょっとした冗談だったんだ。許してくれ」

「なら、この後にパフェを頼んでもいい?」

「へっ、エリス、まだ食うのか?」

「いいじゃない。これは慰謝料分よ」

 そう言うと、エリスはさっさとかき氷を食べて、追加でパフェを頼んだ。

 ちなみに、義父上たちは、まだ半分も食べていない。

 結局、二人が食べ終わったのは、エンタイ行の列車時刻寸前だった。

 最後はシロップ氷のようになっていて、既にかき氷と呼べる物ではなかったが、二人は満足した顔をしていた。

 勝負はご隠居さまの方が若干速かったということで、この勝負はご隠居さまの勝ちということになった。

「どうじゃな、ポセイドン殿」

 大した勝負でもないが、勝ったご隠居さまが胸を張る。

「いや、あれは慣れの差と見た。我もこれから何度となく修業を積み、ご隠居殿を負かす事も出来ると確信した次第である」

「ははは、儂が生きているうちに挑まれよ」

「しかし、あのキーンはいかにして攻略するかが課題である。たくさんの魔物と戦って来た我であるが、あのキーンには勝てる気がしない」

 ポセイドン王がそう言うと、エリスの方を見た。

「えっ、私?特に修行なんてしていなわよ。これは慣れよ、慣れ」

 エリスがまた「脳みそがない」と言われると思って、凄い勢いで言い訳を始めた。

「あっ、いや、エリスさまに脳みそがないとは思っておらぬ」

 ポセイドン王が、こちらも言い訳をするが、それは逆効果だ。ポセイドン王も地雷を踏んでしまったようだ。

 その言葉を聞いた嫁たちがポセイドン王をジト目で見る。

「マ、マリンや」

 ポセイドン王はマリンに助けを求めたが、マリンも白い目で父親を見ている。

「あ、だから、その…」

 ポセイドン王がまだ何かを言おうとするが、それは止めた方が良い。ここは嵐が吹き去るのを待つしかないのは、俺の経験から分かっている。

 食事が済んだ俺たちは落ち込んだポセイドン王と供に、イリシーゲル行の列車に乗った。

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