第108話 鯖漁

「鯖がどうかしましたか?」

 俺の問いにレキアレッドさんが答えた。

「鯖はこの先の『レイニオン島』の周辺にいるんだが、そこは漁場としては最高で、小さな魚から大きな魚も居る。当然、獰猛な鮫や、その鮫を餌にするシースネークも居るので、危険が危ないんだ」

「危険が危ない」というオヤジギャグを久々に聞いた気がするが、ここはそれとなくスルーすることにしよう。

「『危険が危ない』って、またレキアレッドさんのオヤジギャグが出た」

 ローラが、レキアレッドさんに突っ込んで来た。レキアレッドさんは、いかつい顔をして、いかにも頑固親爺といった感じなので、俺はスルーしたが、このローラって子は、もしかしたら怖いもの知らずかもしれない。

「ははは、ローラにはまた1本取られたな。だが、それだけ危ないという事さ」

 笑うと、ブロンドの髭の中に黄色い歯が浮かぶ。

「それでは、鮫や魔物の方は我々でどうにかしましょう」

「出来るのか?」

「どうにか」

「まあ、村長が居るのなら、大丈夫かもしれねぇが…」

 ノイミは水魔法の使い手だ。村長になったのも、コッポ村を襲って来る魔物から守ったという功績があるからだ。

 その村長が居るのなら、レキアレッドさんが大丈夫だと思ったのも納得いく。

「では、これから船を出そう」

 レキアレッドさんが出港の準備をする。帆船ではあるが、漁船にしてはかなり大きな船だ。

 俺たち全員が乗っても問題ないくらいはある。


 出港して30分程で目的のレイニオン島が見えて来た。

「そろそろ、ここら辺りから、いろいろ出てくるぞ」

 船長のレキアレッドさんが、声を掛ける。

 船の側面から顔を出して、海の中を覗き込むと、船の下には魚群に混ざって、大きな魚影がある。その大きさ、10mぐらいだろうか。頭が潰れているので、ハンマーヘッドシャークだと分かる。

 その後ろにはホホジロサメも居るが、こちらも10mほどの大きさがある。

「船から頭を出すなよ。食われるぞ」

 レキアレッドさんが、強い口調で言って来た。

 俺は直ぐに頭を引っ込めたが、その直後にホホジロサメが海中から飛び出て来た。

 もう少し、海の中を見ていたら、確実に今頃はサメの口の中だったろう。

 たしかに、魚の群れも多いが、サメとかも居る。さて、どうやって釣ったら良いものだろうか?

「レキアレッドさん、どうやって釣りますか?」

「普通に、釣り竿で釣るとそれを見つけて、サメに食われてしまう。そうかといって、網を使うにしても、サメが網の中に入ると人の手ではどうにもならない」

「だったら、どうやって捕るんですか?」

「サメを一匹、殺すんだ。そうするとそこに他のサメが集る。その隙に釣るしかないだろうな。問題はどうやって、サメを殺すかだ」

「マリンならどうする?」

 俺から対処方法を聞かれたマリンは、ちょっと考えていたが、

「まず、何か、餌で釣って、海から出たところをアイスアローで射ろうと思います」

 だが、この意見に異議を唱えたのはミュだ。

「雷魔法をこの海に落とせば、魚が感電しますので、そこを捕まえればいいのではないでしょうか?」

 全員が、そう言ったミュを見る。

「では、こうしよう。ミュとネルで雷を落として、魚を気絶させた後、マリンとノイミが飛び込んで、鯖を船に放り上げてくれ。直ぐにサメや魔物が来るだろうから、時間が問題になる。迅速にこなす事が重要だ」

「「「「はい」」」」

「ラピスとミエリーは携帯レールガンで周囲を監視してくれ」

「「了解」」


「「サンダーボルト!!」」

 上空に上がったミュとネルが特大の雷を海に落とした。すると海の中に居た魚が白い腹を見せて上がってくる。

 するとそれを見たマリンとノイミが服を脱いで、海に飛び込み、気絶した魚を船の上に投げ込んでくる。

 船の中は、あっと言う間に鯖だらけになった。その鯖は木箱に入れると、ミュとネルが氷魔法を使って、鯖を凍らせる。

「もういいぞ。上がってくれ」

 エミリーがパレオ2枚を海の中に投げ込むと、腰にパレオを巻いたマリンとノイミが取り付けられた縄梯子に手を掛けた。

「マリン、ノイミ、直ぐに上がって、何か来るわ」

 エリスが叫んだ。

 船の舳先に白い波が立っている。

 その時、船を飲み込むように大きく口を開けたシースネークがこちらに向かって来るのが目に入った。

「ドン」

「ドン」

 ラピスとエミリーが携帯レールガンを発射した音が響く。

 携帯レールガンの赤い閃光は、シースネークの口の中を突き抜けると、背中の方から抜けたが、それでもまだこちらに向かってくる。

「「ウィンドカッター」」

  ミュとネルがウィンドカッターを投げると、シースネークの口の上半分が無くなり、血を出しながら海の中に消えた。

 その死骸には、直ぐにサメが群がって来る。

 その隙を見て、マリンとノイミが船に上がって来た。

「マリン、ノイミ、ご苦労さま」

「いえ、お父さまに約束したので、がんばりました。でも、ちょっと、頑張り過ぎたかなーっと…」

 既に箱の中に入り切れない程、鯖がある。

「レキアレッドさん、半分ぐらい持って帰りますか?」

「鯖は傷みが早い。持って帰っても氷魔法がないと鯖を保管できねぇ」

「では、我々で全部持って帰りますね」

 俺たちは、鯖の入った木箱ごとカイモノブクロの中に入れた。

 シースネークに群がっているサメを見て、レキアレッドさんは船を港の方に向けた。

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