第107話 漁船の手配
「では、こうしたらどうでしょう?今夜、義父上にマリンが鯖の塩焼きを作って差し上げるというのは?義父上もその味を確かめれば、納得がいくのでは?」
「確かに婿殿の言う通りじゃ、マリン、それでどうじゃ?」
「ええ、私はいいわ。ちゃんとした鯖の料理を食べさせてあげる」
マリンは胸を張るが、鯖の塩焼きはそんなに難しい料理ではない。
新鮮な鯖を三枚に下ろし、、塩を振って焼けばいいだけだ。問題は脂の乗った鯖があるかどうかだろう。
その後も、街の中を見て回ったが、ポセイドン王とマリンが口を利かないので、雰囲気が悪くなり、早々に切り上げて王宮の方に戻った。
これにはノイミもただ狼狽えるだけだった。
「マリン、鯖はどうするんだ?今から市場の方に買いに行った方が良いんじゃないか?」
「いえ、今から、捕りに行きます」
「は?捕りに行く?どこへ?」
「海に」
「へっ、海に魚を捕りに行くと言うのか?大丈夫か?」
「大丈夫でしょう。ノイミも手伝って」
いきなり振られたノイミも固まっている。
「え、ええ、分かりました」
「では、行ってまいります」
「ちょっと、待て、ここの海には魔物が居る。そこに大事な嫁を無防備な姿でいかせる訳にはいかない。ここは俺たちも行こう」
俺の言葉に嫁たちも頷いている。
「私の事を大事だと思ってくれているのですね。嬉しい」
「頭リ前だろう。ここに居る嫁たちはみんな大事だ。一人とも欠けてはいけない、大事な家族なんだ」
俺の言葉を聞いて、みんなの顔が紅潮する。
「そうよ、どんな魔物が居るかも分からないのよ。ここは全員で行きましょう」
エリスも同意してくれた。
全員が行動し易い服に着替えて、王宮を出て、港の方に行く。
「あのう、船を一艘、お借りしたいのですが…」
「あんたらは誰だ。いきなり来て、船を貸せだなどと言われても、『はいどうぞ』って言える訳がねえ」
たしかに漁師の言う通りだ。それに我々は、ここの住民とは違った服も着ているし、顔も違う。用心されるのは仕方ないだろう。
それはその後に聞いた数人全てが同じ答えだった。俺たちは行き詰った。
「あのう、コッポ村なら私が居たのでどうにかなると思いますが…」
そう言って来たのはノイミだ。ノイミはコッポ村で長い事、村の長を務めて来た。村の中に顔が利くということだろう。
だが、今からコッポ村へは極地探検車で行っても、夜になってしまう。魚を捕って戻ってくるのは明日の朝だ。
「だが、今からコッポ村まで行くのは時間がかかるぞ」
そう言った俺の言葉に反論したのはエリスだ。
「えへへ、誰か忘れてはいませんか?」
そうだ、駄女神の転移魔法があった。
「それじゃ、エリス頼めるか?」
「ok、任せて」
エリスはそう言うと、魔法陣を広げた。俺たちはその魔法陣に乗って、コッポ村に転移した。
「ここは確か、ノイミさんが住んでいた所じゃないか」
村の中にある白い石造りの家の中に居る。
ノイミは俺たちと一緒に来たため、既にこの家には住んでいないが、中はきれいに掃除がしてある。
「ギィー」
扉を開けて若い女の子が入って来た。
「キャー、あ、あ、村長ではありませんか?」
「まあ、ローラ、どうしたの?」
「いえ、村長が出て行かれた後にいつ戻られてもいいように掃除をしていたのです。今日はその日だったのです」
このローラという子がこの家を管理してくれていたようだ。
「まあ、ありがとう。ローラにはお世話になったわ」
見ると、まだ11,2才ぐらいの子だ。だが、こちらの子は12才ぐらいでも、しっかりとした子が多い。
「急に出て行ってごめんね。でも、この家を守ってくれていて、ローラには感謝するわ」
「いえ、私には、親がいませんでしたから、村長が親のように接してくれたので感謝するのは私の方です」
ノイミとローラの話は、まだ続きそうだが、話に時間を取る訳にはいかない。
「それでノイミ、直ぐに船を探さないと…」
「ああ、そうでした。ローラ、急いで沖に鯖を捕りに行かないといけないの、誰か船を貸してくれる人は知らないかしら?」
「それなら、レキアレッド爺さんがいいと思います。型は古いけど、時化には強いですから」
「型は古いが、時化には強い」、この言葉、どっかで聞いた気がする。
「では、レキアレッドさんを訪ねてみましょう」
「それならば私が案内します」
俺たちは船を借りるために、レキアレッドという漁師を訪ねることにした。
レキアレッドは丁度港に居て、漁網の修理をしていた。
「レキアレッドさん、船を貸して頂きたいのですが…」
ノイミがレキアレッドという、いかつい顔の爺さんに話しかけた。レキアレッドはいかにも海の男といった感じで、色も黒い。しかも、魚を追う為に目も鋭い。
その鋭い目でノイミを見返す。
「村長、船を貸せと言うのかい。船は漁師にとって命の次に大事な物なんだ。それをそう簡単に貸せる訳ねぇだろう」
理由を説明したが、それでも船を貸してくれるとは言ってくれない。
「だが、王様とその娘さんの事は分かった。俺にも娘がいるから、父親の気持ちってのもわかるぜ。だから、船は貸せないが、船を出してやる事は出来るぜ」
「えっ、それって…」
「俺の船だ。俺が操るのが一番ってもんだろう。ええ、違うかい?」
「レキアレッドさん、ありがとうございます」
「なあに、村長とローラの頼みだ。断ったら、男の面子が立たねえ。ところで、何を捕るんだ」
「鯖です」
「えっ、鯖かぁ」
レキアレッドさんの顔が曇った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます