第106話 親子喧嘩
「ふはぁー」
朝から欠伸が出る。
「ご主人さま、どうかされましたか?」
ネルが尋ねて来るが、それは昨夜の嫁たちの行為に原因があるとは口が裂けても言えない。
「あら、シンヤさま、お疲れ?では、回復魔法を掛けてあげるわね。ヒール」
エリスの回復魔法で眠気が吹き飛んだ。そういう所はさすがに神だ。
「旦那さま、今日はどうします?」
「そうだな、街にでも出てみようか?」
アリストテレスさんたちが情報を集めるまで時間がかかるだろう。それまではやる事もない。
「婿殿、我も街に出てみようと思うぞ」
「義父上は既に顔が知られていますので、大事になるかと思います」
「ははは、それは心配ない、ちゃんと変装するよって」
嫁たちも、普段の服からこちらの庶民の服に着替えてきた。
服を変えても、嫁たちの美しさは変わらないが、ここで下手に褒めると今夜もどうなるか分からないので、言葉を掛けてはいけない。
俺に嫁6人、クラウディアにノイミ、それに義父の10人で街に繰り出す。
街の中は壁の白い建物が続いており、写真で見たギリシャのクレタ島を思い出す。
それにこちらの庶民の服も白いローブの用な服なので、昔のエーゲ海周辺ってこんなだったのだろうと思ってしまう。
街の中を歩いていると、ロバに荷を積んだ商人と思わしき人が街の大通りを行き交うが、エルバンテのようにトラックが通る訳ではないので、そんなに広くはない。
街のメインストリートと思われる所に来ると、道の両側に店が並んでいるが、それでも、エルバンテほどの賑わいはない。
俺が呉服屋だからだろうか、服を販売している店は気になるので入ってみるが、白いローブのような服が並び、デザインも単調だ。
「いかがでしょうか。お気に入りの服はございましたでしょうか?」
エリス、ミュ、ラピスは俺が店をやっている頃から知っているので、服を見る眼も堅実だ。
「もう少し、色があった方がいいし、もっと動き易い方がいいと思うの」
エリスの正直な意見だろう。
「最近、エルバンテという国の方々が来られていて、たしかに彼らの服と比べると見劣りがするのは否定しません。
我々もエルバンテからの商品が入れば、販売したいと考えております」
それなら、なるべく早くこちらで販売できるように輸送を確立する必要がある。これは、アールさんに情報として入れておこう。
呉服店を出て、雑貨屋に入る。こちらも、昔風の土器が並んでいて、ガラスや陶磁器なんて物は無い。
その次の店に行っても同じだ。エルバンテの店に並ぶ物と比べるとさすがに見劣りがする。
だが、この人だけはそうではないらしい。
「どうじゃの、我が国の品は。なかなかの物じゃろうて」
そう言われも、Noとは言えないので、黙っていると、
「婿殿、今度はどこぞの店で食事にでもしようではないか?」
ポセイドン王に案内されて、一軒のレストランに入った。
レストランと言っても、そんなに大きな店ではない。テーブル席が10席ぐらいあるだけだ。
席に着いてもメニューはないし、壁にもメニューがある訳でもない。
それもそのはず、こちらには字がない。住民は字も書けないし、書いた字も読めない。
だから、メニューが無い。なので注文は客が口で説明して、料理人がその場で作る。
「我は、鯖をオリーブオイルで焼いた物をお願いする」
ポセイドン王が注文をする。
「婿殿は何にするのじゃ?」
「では、私はカツカレーで」
「「私もカツカレー」」
エリスとマリンが俺に同意した。
「私はナポリタンで」
「私もお嬢さまと同じ物を」
ラピスとエミリーはイタリアン系だ。ここが地中海の雰囲気なので、パスタが良かったのだろう。
「私はトマトジュース、それとビーフシチューを」
トマトジュースは、ネルらしい注文だな。
「私もご主人さまと同じカツカレーにしようかな」
「「それじゃ、私たちも」」
ミュ、クラウディア、ノイミは俺と同じカツカレーにした。
だが、それを聞いた店主は口を開けたまま、微動だにしない。
「あ、あのう、カツカレーとは一体、どんな食べ物でしょうか?」
「婿殿、我もカツカレーなんぞ、初めて聞いたぞ。それは一体、どんな食べ物じゃ?」
ポセイドン王と店主の言葉を聞いて、俺たちは顔を見合わせた。
「では、義父上と同じもので」
「私たちも同じ物で」
結局、全員がオリーブオイルで揚げた鯖になった。
レストランを出たが、口の中にオリーブオイルが残って嫌な感じがするが、ポセイドン王はご機嫌だ。
「どうしゃな、婿殿、我が国の料理は?なかなかの物であろう」
「はい、なかなか美味しゅうございました」
「でも、ちょっと油濃い」
そう言ったのはマリンだ。
「マリンは鯖が嫌いか?人魚族のくせに魚が嫌いとはな」
「魚は好きだけど、料理の仕方が良くないわ。あれじゃ鯖の味なのか、オリーブオイルの味なのか分からないもの、食材の味を台無しにしているわ」
「う、むむ」
ポセイドン王が唸った。
「初親子喧嘩ですか?」
自分でもいらないところでチャチャを入れたものだ。
すると、二人が俺の方を見た。
「私は正直な感想を述べただけ」
「我も我が国の料理をコケにされて、黙っている訳にはいかん」
「「う、ぬぬぬ」」
親子で睨み合いに発展した。
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