第104話 魔法の秘密

 イリシーゲル市を抜けると、舗装された道路はすぐに土埃の舞う道路になった。

 だが、その道路は急ピッチで道路工事が進んでいる。

 これはキバヤシ建設が整備を行っているが、土魔法が使える魔法使いや工事用の重機を使用しているため、昔のように人手で苦労している事はないし、早く工事が完了する。

 この道路も1年もすれば、エマンチックまで舗装されるだろう。

 工事個所を抜けると途端に道路事情が悪くなり、あちこちに穴が開いているため、走行速度が極端に落ちる。

 それに道幅も狭い。反対側から馬車が来ると、すれ違いも困難だ。

 それでも、どうにかエマンチックとの国境の砦のところまで来た。

 エマンチック国はエルバンテの傘下であり、将来的に統合される事が決まっているとは言え、現時点ではまだ1つの国だ。

 なので、砦の所で入国の許可を貰う必要がある。


「見慣れない車に乗っているな。えっと、名前は、シンヤ・キバヤシ・エルバンテと…、えっ、エルバンテ公!すると、その青い髪のお方はお嬢さま」

 俺の許可証を見て、管理官が跪く。

「あっ、いや、そんな特別にすることはないから、それより通っていいだろうか?」

「どうぞ、どうぞ」

 ん?これって、どこかで聞いたような気がする。

 俺たちはエマンチック国に入り、東海岸にある王都を目指す。

 ここはノイミの故郷でもあるので、ノイミも嬉しいのだろう。

「ノイミ、どうだ、故郷は?」

「今から、とっても楽しみです。陛下、王都に着いたら、カッポ村まで行っても良いでしょうか?」

 東部地区の状況が分かるまで、いたずらに行動を起こす必要はない。なので、カッポ村に行くのも何ら問題ではない。

「ああ、いいぞ。全員で行ってみようか」

 シードラからの連絡では、アリストテレスさん、ゴウ、ルルミが社員としてキバヤシ商事に赴任したそうだ。

 アリストテレスさんが指揮を執り、ゴウとルルミが情報を集める事になるだろう。


 俺たちの極地探検車は久々に王宮の門を潜ると、ポセイドン王が出迎えてくれた。

「婿殿、よくぞいらした」

「義父上、またお世話になります」

「なんの、なんの、いっそ、こっちで暮らさないか。早く孫の姿も見たいしの」

 その言葉を聞いたマリンが顔を赤らめる。

「そうですよ、私も早くお嬢さまのお子をこの手に抱いてみたいです」

 ノイミも追い打ちをかけるように言う。

 だが、悪魔族と人族の間に子供は生まれない。人魚であるマリンは悪魔族であり、当然、俺との間に子供は生まれない。

「ですが、悪魔族である人魚族と人族の間に子供は生まれないのでは?」

「いや、生まれるぞ」

「「「「「えっ?」」」」」

 ポセイドン王からそう言われた俺と嫁たちが一斉に驚く。

「人魚族では男性が生まれる割合は非常に少なくて、それこそ100年に1人生まれるかどうかの割合だ。

 そして生まれた男の子は将来の王として育てられる訳だが、反面、女性の数が多くなる。

 そこで、女性の人魚は他の種族の男性の精を求めて、地上に出る訳だ。そして、男性の子を宿し、再び海に帰る事になる。だが、それでも生まれてくる子は女の子が圧倒的に多い」

「エリス、そうなのか?」

 神であるエリスに聞いてみる。

「魔石を持ちつつ、生殖機能も持った種族を創ったことがあるという知識が私の中にあるわ。それが人魚族かどうかまでの知識はないけど。

 もし、そうなら、人魚族がそうだったのね」

「悪魔族は子供は産めないのじゃないのか?」

「いいえ、生殖機能さえあれば、産めるわ。だけど、私では、その機能を付ける事はできない」

「では、ミュやネルなどの悪魔族はどうやって子供を創るんだ?」

「別の魔石を体内に入れるのよ。後はその魔石を育てる事が出来れば、悪魔族の子供になるわ。創られた子供は魔石の種類、大きさや母親の魔力に応じて、使える魔法に違いが出てくるの」

「魔石の大きさと母親の魔力は分かるが、魔石の種類って?」

「魔石は普通は黒色なんだけど、まれに白い魔石があるの。オーロラもそうだったわね。白い魔石は黒い魔石に比べ、比較にならないほど強い魔法が使えるわ。

 恐らく、正当な王の子孫であるマリンが持っている魔石も白い魔石だと思う。

 ミュも、あれだけ強い魔法が使えるので、白い魔石の可能性が高いわ」

「エ、エリスはどうなんだ?」

「私の魔石はレインボーよ。これは神のみしか持てないし、神が廃棄になったら、それはなくなるの」

「ネルはどうなんだ?」

「ネルも白い魔石の可能性が高いわ」

 魔石の話を聞いた俺たちはびっくりしている。


「だが、魔石のない人族や獣族でも魔法が使えるじゃないか?」

「シンヤさま、人の脳はほとんど活用されていないって話は知っているわね。では、その脳が全て活用できるとしたらどうなると思う?

 全て活用できたら、魔法が使えるの。ううん、魔法ではなく、超能力と言った方がいいかも」

「人族や獣族の魔法は超能力だと言うのか?」

「悪魔族もよ。もちろん、私もだけど。シンヤさまの時代では、テレパシー、サイコキネシス、テレポートなんて呼ばれているけどね」

「いや、だって、そうだとしても、水魔法や火魔法なんてどうやって使えるんだ?」

「水魔法は空気中の水分を集結させるの、火魔法は集めた水分を水素と酸素に分解して使うわ。土魔法は単なるサイコキネシスね。雷魔法は空気中の水分を振動させる事によって発生する静電気を使うの」

「空を飛ぶのもサイコキネシスなのか?だったら、結界はどうなんだ?」

「空を飛ぶのはそのとおり。結界は人によって違うわ。マリンやネルは水分を結晶化させて結界を張るわ。私たち神は地磁気を使った電磁バリアってやつね。ミュは炭素原子を使って結界を張るの」

 異世界で魔法は当たり前の事だと思っていたが、実はかなり科学的な事だった。

 エリスの説明は続く。

「脳を100%使えるから、こちらの人はちょっとした知識を得るだけで、それを進化させることが出来る。だから、シンヤさまがこの世界に来て、10年でこんなに文明が発達したのよ」

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