第100話 シードラとの再会

 翌朝、疲れ果てた俺とは反対に、元気いっぱいの嫁たちの顔は明るい。

 顔の艶がよく、何か憑き物が獲れたような顔をしている。

 イリシーゲルの宿に転移した俺たちは宿で朝食を食べてから、シードラの居る事務所に向かった。

「失礼します。シードラさんにお会いしたいのですが…」

 建物1階にある受付に行くと、総務課と書かれた所に居た女性事務員が応対してくれた。

 この女性はうさぎ族の女性だ。

 昔は獣族の地位は低かったが、今は差別がなくなり、人族と獣族といっしょに仕事をしている。

「はい、どちらさまでしょうか?」

「シンヤと言いますが、シードラさんにお会いしたいと思います」

「お約束はありますでしょうか?」

「すいません、昨日、この街に着いたばかりで予約はしていませんが…」

「しばらく、お待ち下さい。社長のスケジュールを確認します」

 うさぎ族の事務員はコンピュータの画面を操作していたが、

「現在、会議中となっています。1時間ほど後なら10分ほどお時間がありますが、それでよろしければ、大丈夫だと思います」

「それでは、1時間程後に参りますので、それでお願いします。用件はご挨拶ということになります」

 俺たちはシードラが社長を努めるキバヤシ商事を出て、街の中を散策する。

 鉱山の街だと言うので、寂れた感じを受けていたが、そんなことはない。結構、賑やかで、ミュ・キバヤシ店もあり、服の販売とかもやっている。

 やはり興味があるので中に入ってみる。

「いらっしゃいませ」

 猫族の店員が快く迎えてくれた。

「どのような物をお探しでしょうか?あっ、こちらの服は当社の服でございますね」

 嫁たちが来ている服を見て、自社のブランドだと分かったみたいだ。

「我々の服がミュ・キバヤシだと良く分かりましたね」

「はい、どのような服を販売しているかを把握するのは店員として当然です」

 このような地方都市の一店舗の店員だと言うのに立派な心掛けだ。今更ながらアールさんの教育が行き届いている事を実感した。

 だが、この店で買うようなものもないが、さすがに冷やかしで出れなくなった。

 嫁たちの顔を見ても、このまま帰れないといった顔をしている。

「ね、ネルの化粧品を買いましょうよ」

 エリスが言って来た。

「いいわね、そうしましょう」

 ラピスも同意する。

 ネルは色が白く、唇が赤いので、そのままでも十分美しいが、化粧はしていない。

 エリスたちは化粧品売り場に行って、ネルに化粧をし出した。

 化粧が終わった自分の姿を鏡で見て、ネルもびっくりしている。

「これが私?」

 ただでさえ美しいのに、さらに美しくなる。

「うん、いいわね」

 エリスが言う。

「それじゃ、これとこれもね」

 ネルの化粧品だけで済む訳もなく、結局嫁たちの化粧品も買って、ミュ・キバヤシの店を後にし、1時間後にキバヤシ商事に戻った。


「先程、訪ねて来たシンヤといいますが…」

 先程と同じ、うさぎ族の事務員が出迎えてくれた。

「はい、社長の方も会議が終わりましたので、大丈夫です。しばらく、お待ち下さい」

「もしもし、フロントですが、社長にご挨拶したいという『シンヤ』さまという方が、参られています」

「シンヤ?その人はもしかして、『シンヤ・キバヤシ』と名乗っていないか?」

「えっ、ええ?ち、ちょっとお待ち下さい」

 事務員は青い顔をしてこちらに聞いて来た。

「あ、あのう、お客様は『シンヤ・キバヤシ』さんと仰るのでしょうか?」

「ああ、そうですが」

「し、しばらくお待ち下さい」

「し、社長。その通り、会長のようです」

「すぐにそっちに行く」

「社長のシードラが直ぐに、こちらに来るそうです」

 うさぎ族の事務員が、そう答えると直ぐに2階からドタドタという音がしてシードラが姿を現した。

「あっ、やっぱり、会長じゃないですか?どうして、いつもいきなりなんですか?」

「いや、俺はいきなりのつもりはないんだが…」

「それを世間ではいきなりと言うんですよ、ところで、初めて見る方も居るようですが、全員が奥さまと言う事はないでしょうね?」

「いや、全員ではない。一人だけだ」

「えっ、一人だけでも十分ですよ」

 シードラはネル、ノイミ、クラウディアの事を言っている。

 ノイミやクラウディアもネルのついでに化粧品を買ったので、3人とも今は化粧をしている。

 なので、9人全てが人目を引く美しさだ。

「大体、こんな美人を集団で連れて歩くなんて、会長ぐらいのもんです」

「いろいろと事情があるんだよ。ところで、そろそろ中に入れてくれないか」

「あっと、これは失礼しました。メロディさん、会議室を用意をしてくれ」

「あっ、はい、分かりました」

 メロディと呼ばれたうさぎ人の事務員は、電話機とコンピュータを操作して指示された仕事に取り掛かる。

 その様子を見ていた他の社員は、固唾を飲んでこちらを見ていた。

 俺たちは、その社員たちの目を背中に感じて、シードルに連れられて2階への階段を上っていった。


「シードラ、金の採掘はどうだ?」

「ここの金鉱山は含有量も多いようで、採掘は順調です。それと、ここより南の方へ行ったところにある川の近くからリチウムが発見されました。

 それも今後採掘する予定ですが、大型の魔物が居るのでちょっと手間取りそうです」

「俺たちは南の方から来たが、たしかにシュゲークラブとかクロコダイルアーミーとか大型で狂暴な魔物が居たぞ。あと、ノコギリヤマメは小さいが、獰猛だし、数が多いので、一番面倒だ」

 それを聞いたシードラは口を開けている。

「会長は南から来たんですか?一体、どこに行っていたのです?」

 俺は今度の旅行の行程を話すと、シードラもびっくりしていた。

「それでは、今日は挨拶だけだったので、これで失礼するよ」

「これから、エルバンテへ帰られるのですか?」

「一度、東に行ってから帰ろうと思っている」

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