第90話 キラープラントの罠
「陛下、上流側へ向かいますか?それとも、下流側に向かいますか?」
「衛星画像を表示してくれ」
クラウディアが車内の大型モニタに衛星画像を表示した。それを嫁たちと見て、協議する。
「ここからだと、下流側に行けば、海になる。ここは、上流側に向かった方が良いのではないか?」
俺の意見に嫁たちも頷いているので、上流側に向かう事になった。
大きな中洲の水際を上流に向かって進んでいると、濁った水が濁らない水になった。
しかし、透明度がある訳ではなく、土色の水が濃い緑になったという感じだ。
途中、水際を走れない所があったので、川の中を走ってみた。すると、極地探検車に向かってくる魚が居る。
外部カメラで見ると30cmぐらいの川魚のようだ。
「エリス、あれは何という魚か、分かるか?」
「えっと、あれはノコギリヤマメね。ピラニアと同じで、動物とかを食べるからここでは泳がない方がいいわ」
カメラに向かってくるノコギリヤマメが居たので、拡大して見ると鋭い歯を持っている。
たしかに、ここで泳いだら、食い殺されそうだ。
「ノコギリヤマメって食べれるのか?」
「ヤマメとあるから食べれそうだけど、フグと同じ神経毒を持っているの。食べると、あの世行きね。だから、クロコダイルアーミーも食べないわ」
フグは毒があっても食べれば美味しいが、あのノコギリヤマメって食えないのなら、腹の足しにもならない。
「あのノミギリヤマメが居るおかげで、クロコダイルアーミーも上流の方には来ないわ。それに水に入らなければ問題ないわ」
それはメリットなのか、いずれにしても前門の虎後門の狼でしかない。
極地探検車を水から出して、再び水際の砂浜の上を行く。
森の中はいろいろな動物が観測され、ほんとに熱帯のジャングルのようだ。
中には、2mぐらいの動物も居た。
「エリス、あの大きな動物は熊だろうか?」
外部カメラに写し出された動物を見て、神の知識を持ったエリスに聞く。
「あれは、ナマケモノよ。この時代、あんな大きなナマケモノが居たの。私たちの時代に人間が狩っていなくなったけど」
生き物が絶滅するのは、自然よりも人間に原因がある場合の方が多いという事か。
極地探検車のモニターに表示されるものには、カラフルな鳥もいる。
オウムのようだが、大きさが大きい。それこそ、コンドルのようなオウムだ。
それを見た、フェニが車内で羽を羽ばたかせて、鳴いている。
同じ鳥なので、通じるものがあるのだろうか?
極地探検車は中洲の先端に来た。
「次の中洲に渡ろう。渡河に最適な個所を出してくれ」
クラウディアは衛星画像を元に、渡河場所の選定に入った。
「ここからだと、この小さな中洲に渡って、さらにその先のこの中洲に行くのが最適と出ました」
クラウディアが、衛星画像が写し出されたモニターを指差す。
「それでは、そのルートで進むか」
極地探検車が動き出す。再び、川の中に入ると、相変わらずノコギリヤマメがこちらに向かって来る。しかし、さすがに鉄製の車体には、その牙も役に立たない。
俺たちは、一旦小さな中洲を経由して、その先の中洲に出た。
ここの中洲は、木もあるが、草の方が多い。
「この中洲は木が少なく、草が多いから、水際を進むよりは草地を行った方が良さそうだな。このまま、直進してみるか?」
俺の意見に反対が出ないので、中洲の奥に向かう。草が高くて、進み辛いところもあるが、そこは、ウォーターカッターで草刈りをする要領で進んでいく。
しばらく行くと、広い草地に出た。だが、この草地、風の音しかしない。このような場所であれば、カエルなり居ると思うのだが、そんな鳴き声もない。
「やけに静かだな」
「そうね、何かあると思った方がいいかも」
エリスも同様に感じたようだ。強い魔物でも居るのだろうか。北の方では、ポーラーパンサーの縄張りなんてのもあったし…。
「シンヤさま、あれを見て」
エリスが指差す先には人の大きさぐらいの花があった。
「エリス、あれがどうした?」
「あれは、食虫植物のキラープラントよ。でも、虫を食べるだけじゃないわ。動物や魔物も食べる。当然、人間も食べるわ」
「だから、ここには動物がいないのか。ちょっと、見てみようか?」
「あれは、物凄く良い匂いを出して、捕食する生き物を呼び寄せるの。それは、幻覚魔法にかかったと思っても良いぐらいに。そして、気付かぬうちに捕食されてしまう。
あそこには近づかない方がいいわ。それと、外気は取り入れないようにして」
「……」
クラウディアからの返事がない。クラウディアは揺ら揺らと立ち上がると、扉を開けて車内から外にでようとする。
「エミリー、クラウディアを確保。マリン、外からの空気を遮断しろ」
エミリーがクラウディアを抱きかかえ、マリンが外部からの空気を遮断して、車内の空気を清浄する装置を起動した。
「みんな、大丈夫か?」
「換気口に近かったのがクラウディアだったから、彼女が一番最初に幻惑されたのね。ここでは、外気を取り入れない方がいいかもしれないわ」
エリスの言葉に全員が青くなった顔で頷く。
クラウディアはエリスが昏睡の魔法を掛けて、しばらく寝かせて置いたら、元に戻った。
「クラウディア、大丈夫か?」
「え、ええ、私はどうしていたんですか?」
クラウディアに起こった事を俺たちが話すと、クラウディア自身もびっくりしている。
この匂いに毒性はなく、幻覚を見せるだけだと言うので、そこのところは安心だ。
「よし、出発だ」
俺が発進の指示をするが、極地探検車は進まない。
「クラウディア、どうした?」
「車が動きません」
操作パネルを見ても、どれも正常だ。警報も出ていない。
「ドローンを出して、外部から見てみよう」
ドローンから送られて来た画像には、車輪に絡み突く蔦があった。
「あの蔦をどうにかしないと、ここからは出れないと言う事か」
「でも、どうする?蔦を排除するために外に出ると、あのキラープラントに幻覚を見せられて、おびき寄せられてしまうわ」
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