第80話 遭遇

 極地探検車を進めて行くと、徐々に低い草木が見え出した。そのまま進むと、その低い木が今度は高くなっていき、そのうち5mほどの木になってきた。

 そうなると、極地探検車では、前に進めなくなってきたので、ウォターカッターで木を伐りつつ道を作って進む。

 森の木を伐りつつ進むので走行する速度が極端に落ちる。それに時々、魔物も出てくるので、その対処もしなければならない。

 魔物が居るということは、人間は住んでいないだろう。

 その森の木も徐々に少なくなって来て、そのうち草地になってきた。その草地を進んで行くと、放牧された動物が見えてきた。放牧された動物が居るという事は人が居るのだろう。

 放牧されている動物は山羊と羊だ。羊毛も扱っているのかもしれない。

 放牧されている山羊と羊を見ながら、草地を進む。GPSと衛星画像からここはどうやら大陸の東側という事が分かった。

 草地を進んでいたが、道に出た。その道は小さく、極地探検車が進む程広くはない。

「このまま、極地探検車で進むと、住民との間に何らかの問題が出て来そうだな」

 俺の意見に全員が頷く。

 全員で相談した結果、ここからは歩いて行く事にし、極地探検車は森の中に隠す事にした。

 留守番はクラウディアが行う。俺たちは1日1回、クラウディアに連絡し、クラウディアはエルバンテ本国に報告を行う事となった。

 俺と嫁たち6人、それとフェニを連れて道を歩き出す。

 クラウデイアは極地探検車をユーターンさせ、森の方へ向かった。

「こんな、草原の中を歩いていると、今のトウキョーが草原だった頃にフェンリルと戦った事を思い出したわ」

 エリスが言うと、ミュもそれに同意した。

「あの時もエリスさまに身体強化の魔法をかけて貰って、どうにか倒しました。あの時も空が青かったです」

「そうね、あの時もミュが倒れて、その時はシンヤさまが、人がいないからとその場で体力回復を図ったわね」

「えっ、体力回復ってもしかして??」

「そうよ、その場でミュを抱いたの、お日さまの下でよ、キャー」

「ええっー」

 ラピスとミエリーは、その話は知っているだろう。何を今さら。

「いいなあ、兄さま、私も水の中でお願いします」

 いやいや、人魚になったマリンと、どうやってすればいいか分からんぞ。


 道を歩いて行くと、農具を持った男性が居た。

 と、いっても言葉が通じないだろう。どうしたら良いだろうか?まずは笑顔だな。

「ハ、ハロー」

 出た言葉が、「ハロー」だった。

「●▲%#&◇■◎▽=~!〇△#□◆●%&◆▼%◇$#~<△◎?」

 まったく、何を言っているか理解できない。

「うーん、何を言っているか分からん」

「シンヤさま、まだ日本語を話せる?」

「そりゃ、日本人だからな」

 するとエリスがカイモノブクロの中を探っていたが、拡声器を取り出した。

「ジャンジャジャーン」

 それって、未来から来たネコ型ロボットがポケットから未来の道具を出す時の音楽じゃないだろうな。

「これを使ってみて」

 この拡声器には確か、翻訳の機能がついていたっけ。

 俺は拡声器に向かって、日本語で話かけてみた。

「我々は旅の者だ。遠くから来たので、ここがどういう所なのか分からない。ここは何と言う所なのか教えて欲しい」

 日本語で言うと、拡声器から出る言葉は俺の知らない言葉だ。

「&◇■◎▽=~!〇△#□◆●%&◆▼」

 相手が何か言って来るが、それはこちらも分からない。

 ジェスチャーで拡声器を口に当てて話すように説明すると、農夫は訝しげに思いつつも、指示するようにして話し始めた。

『ここは、エマンチック国のカッボという村だ。見慣れない姿だが、それがお前たちの姿なのか?』

 拡声器を受け取って、今度は俺が話す。

「そうだ、我々はここから遠い所から来た。この近くの村の長に滞在の許可を得たいが、どうすればいいだろうか?」

 再び、拡声器を農夫に渡す。

『ならば、俺が長に聞いてみよう。それでは、ついて来い』

 俺たちは、農夫について歩いて行く。

『そう言えば、名前を聞いていなかったな』

「俺は、シンヤ・キバヤシという。この6名は妻たちだ」

『妻が6人も居るのか。あんた、身体は大丈夫か?』

「まあ、どうにか」

 エリスの回復魔法のおかげだとは言えない俺は、嫁との事は胡麻化した。

『俺は、『テイ』という』

 男は「テイ」と名乗った。


 俺たちは、白い石の壁で作られた塀を潜った。そこには、やはり白い石で作られた家がある。

 この景色は現代のギリシャのような風景だ。だが、そこに住んでいる人も、白い服を着ており、こちらは昔のローマ人をイメージさせる。

 顔はどこか東洋人に近く、髪も黒い。エルバンテでは黒髪はほとんどいなかったが、こちらにはブロンドの髪の人はまったく見かけない。全員が黒髪だ。

 テイさんと一緒に歩いていると、歩いている人が道を開けて行く。見慣れない人が歩いているのだから、当然だろう。

 俺たちは、ある一軒の家の前まで来るとテイはその家に入って行くが、俺たちはそこで待たされることになった。

 俺たちが家の前で待っていると、俺達の周りに人だかりが出来た。しかし、その人たちは遠くから見ているだけだ。

 周りに集まった人たちはヒソヒソと話をしているが、その言葉は俺たちには理解できない。

 しばらく、そのまま待っていると、テイが家の中から出てきた。

 口に拡声器を当てて、話し出す。

『長がお会いになられるそうだ。中に入れ』

 俺たちは家の中に入った。

 中は白い石が、そのまま壁になっている。

 俺たちはテイに案内され、その家の応接室のような所に連れて行かれると、その先に青い髪の女性が座っていた。

 俺たちはその髪の色を見て驚いた。マリンと同じ髪の色だ。

 この女性だけがそうなのか、それともここの女性、全てがそうなのか。もしかしたら、マリンもここの出身なのか、色々な事が頭を過る。

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