第79話 メタンハイドレード
「ご主人さま、前に献血してから、そろそろ6か月じゃないですか?」
ネルが言って来たが、確かに6か月ぐらい経つ。
「そうだな、そろそろ献血するか?」
「わーい、やったー」
ネルが小躍りする。
「クラウディア、それじゃ献血の準備をしてくれるか?」
「献血ですか?ここで献血をしても仕方ないと思いますが…」
「いや、一人喜ぶヤツがいるから、頼む」
「は、はあ?」
医師の資格があるクラウディアが俺の腕から血液を抜く。
抜いた血は一旦、バックに入れられるが、献血が終わるとそれをワイングラスに移した。
既にネルは涎を垂らさんばかりの顔をしている。
ワイングラスに血が注がれると、そのグラスを手に取って、目を輝かせて見ていたが、それをググッと飲み出した。
「あ、あっ、ネルさんが陛下の血を…」
クラウディアが絶句した。
「あー、うまい、もう一杯」
もう一杯ワイングラスに注がれた血を飲み干す。そうして、献血した血を全て飲み干した。
「あー、美味しかった。ご主人さま、また、半年後にお願いしますね」
「あ、あのう、ネルさんって……?」
「ああ、ネルはバンパイヤなんだ。なので俺の血を欲しがるんだ」
俺の説明にクラウディアが、一歩後ずさった。
「ほほほ、私が血を飲むのはご主人さまの血だけです。そこは心配しないで下さい。どうしてもと言うのであれば、クラウディアさんの血を飲むのも、やぶさかでないですけど…」
その言葉を聞いたクラウディアが、震え出した。
「ネル、必要以上にクラウディアを怖がらせるな。前に、俺以外の血を飲むのは不貞だと言っていたじゃないか」
「はい、すみません」
「と、いう訳で、ネルは俺の血しか飲まないから心配するな」
クラウディアに言い聞かせるが、実際に目の前で血を飲まれた事実を見せられた事をそう直ぐに拭い去る事はできない。
クラウディアが青い顔をして操縦席の方に行くが、右手と右足が一緒に出ているよ。
クラウディアの運転する極地探検車が再び動き出した。
所々、小さな川があるが、凍っているので簡単に渡る事が出来る。ここは、砂漠のはずだが、意外と水は多い。ただし、凍っているので、その水を取り出すのは大変であり、簡単に水を得る事はできないため、そういった意味では砂漠といってもいいだろう。
水のない所は砂を氷が覆っており、氷を溶かすと砂が出てくる。
砂の温度を測ると、マイナス20度くらいあった。永久凍土と言ってもいいだろう。
極地探検車に積んである分析装置を使って、砂の成分を測ってみるが、ただの砂だ。
溶けた水も純度が高い水だったが、それ以外のメリットはなく、どうやら資源にはなりそうにない。
「ただの砂だな。水の方は回収すれば、飲み水になるかもしれないが、湖から汲めばいい事だし、態々溶かして得るようなものでもないな」
俺の意見にクラウブィアも同意する。
「そうですね、態々、溶かしてまで得る必要はないですね」
その時、クラウディアが持っていた砂が、オイルランプの上に数粒落ちた。すると、砂が小さく燃え上がる。
「えっ、ちょっと待って下さい」
クラウディアが、砂を溶かしてもう一度分析作業を行う。
「陛下、この氷にはメタンガスが含まれています。この氷は燃える氷です」
なんと、燃える氷だと。
「メタンハイドレードだと言うのか?」
「メタンハイドレード?」
「そうだ、メタンガスが氷に閉じ込められたもので、火を点けると燃える。燃える氷だ」
クラウディアが砂の塊に火を点けると砂の塊が燃え出した。
「ほんとだ、砂が燃える」
「砂が燃えるのではなく、砂を覆っている氷が溶けて燃えるんだ」
「それも未来の知識ですか?」
「あ、ああ、そうだな」
俺の時代にはメタンハイドレードは海の底の更に地中500mぐらいのところで発見されている。
だが、この時代、メタンハイドレードは地上にあった。だが、これから気温が高くなるとこの氷が溶ける事によって、メタンガスが地上に溢れ、地球が温暖化になってしまう。
今のうちにこの砂をどうにかしないといけないが、ここにはポーラーパンサーやドラゴンが居るので、シードラに言って資源回収するのも大変だろう。
俺の懸念をここに居る全員に言うが、地球温暖化が理解できたのは、俺と一緒にこの世界に来たエリスだけだった。
だが、エリスも事態の深刻さは分かるが、その対応策は思いつかない。
この件については、懸案事項として、エルバンテに衛星通信でデータと状況を伝達した。
俺たちは極地探検車を、北東方向に向かわせるが、生き物は一切見ない。あるのは氷の砂漠だけだ。そんな景色が何日も続くと、さすがに嫌になってくる。
だが、違ってくる景色もあった。サン・シュミット山脈の高さが、だんだん低くなってきたのだ。
もしかしたら、サン・シュミット山脈が終わるのかもしれない。
「サン・シュミット山脈の標高が低くなって来ている。GPSと衛星画像で位置を確認してくれ」
俺の指示にクラウディアが測定を行う。
「この先、600kmで海になります。その手前、100kmぐらいからは緑の地帯があります」
「人が住んでいるかどうかは分かるか?」
「そこまでは分かりません」
「サン・シュミット山脈の南側に行けるか?」
「衛星画像とGPS測定から海直前の標高は1000mと推定されます」
「極地探検車で登れそうか?」
「そこまでは分かりません」
「行って見なければ不明と言う事か」
東側の海を目指して、俺たちは進む事にした。
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