第63話 人族の限界

 さらにその後ろにはジルコ・ファンレイも居る。

 ジルコは旧王都に店を構える大店の息子で、エルバンテにある俺の店に修業に来ていて、今は父親の店に戻ったはずではなかったか?

「何故、ジルコがここに居る?」

「一つは物資の手配と輸送担当としての軍の応援です。もう一つは、このスノーノースにミュ・キバヤシ店をオープンさせる準備です」

「ここに、ミュ・キバヤシ店をか?いくら何でも、それは気が早いんじゃないか?」

「ある程度のリスク覚悟で先行投資をするのは、商売人の基本でございます。私は商売人として、ここの物件は有望であると確信しました」

 こいつは、まだ若いはずだが、しっかりとした目を持っているのかもしれない。

 俺は、この国の人たちが言う南の国、エルバンテ帝国の皇帝であるが、実はエルバンテ帝国最大の企業グループキバヤシコーポレーションの会長でもある。

 俺は二足の草鞋を履いている訳だ。


「でも、どうやって来た?船で来たのか?」

「エルバンテ王都からスノーノース行の飛行機があったから、それに乗ってきました」

 先ほど、空母ミズホに着陸した輸送機があったと思ったが、それで来たのか。

「良く軍の輸送機に乗れたな?」

「まあ、一応、シュバンカさんの一言で、軍のお偉い方々もちょっとね」

 どうせ、こいつら、シュバンカに泣きついたのだろう。

「ああ、分かった。ここは戦場だ。あまり勝手な事はするなよ」

 まったく、どいつもこいつも、大人しくしていないやつばかりだ。


「ね、ね、後からスノーノースの街に繰り出さない?」

 ルルミがジルコに話しかけている。

「おっ、いいですね。やはり店を出すとなると、立地条件とかありますから、視察は重要ですからね」

「ジルコってそっちが目的?他に興味はないの?」

「興味はありますよ。ルルミさんです」

「えっー、ほんとに?私、どうしよう」

「ええ、ルルミさんの倍速の魔法で逃げられたら、追いつけないですからね、そう言った泥棒にはどうやって対策すればいいかと、常に興味を持って見ています」

 ルルミが躓いた。

「ジルコ、あなたっていけずね」

「えっ?どうしてですか?」

 ジルコは何か問題があったのか、という顔をした。


「ね、ね、シンヤさま、ルルミはジルコにホの字みたいだけど、ジルコは今一ね。ここは神としてお手伝いしちゃおうかな」

 ジルコよりルルミの方が4,5歳年上のはずだ。ジルコから見ればルルミは良いお姉さんみたいなものだろう。

「エリス、そこは神の領域じゃないだろう。こういうのは大人しく、見守ってやるもんだ」

「そうです、エリスさま、あまり手を出すと固まるものも固まりません」

「さすがだな、ミュは良く分かっている」

「ですから、私が誘惑の魔法でさっさとくっつけてしまいます」

 ギャー、ミュよ、それは違うぞ。

 これって昔、同じような事があったような気がする。


 また、そこに入ってきた人がいる。

「あら、陛下~、ここでお食事?」

 ん?この悩ましい声は、たしか、シャルローゼ機関長。

「ああ、シャルローゼさん、今、お食事ですか?」

「そうなのよ、陛下にいつ、加速器重粒子砲を撃てと言われてもいいように、準備しないといけないじゃない。もう、頑張らないと」

「そう言えば、ご主人のシノンはご隠居さまと一緒ですが、会いましたか?」

「いーえ、子供が生まれてから、なんだか夜のお努めを避けるようになっちゃって。陛下からも一言、言って下さらない?」

 いやいや、それは夫婦の問題だから、俺が口出しすることじゃないだろう。

 そうは思うが、国民の要望を無碍に出来ない。

「あ、ああ、今度会った時に言っておこう」

「陛下、お願いしますね。そうじゃないと、この気持ちを加速器重粒子砲にぶつけるしかないわぁ」

 そう言ってシャルローゼはミュにも劣らないナイスボディをモンローウォークして、食事を取りに行った。

「シンヤさま、後でお話があります」

 エリスが言うが、その横では嫁たちがジト目で俺を睨んでいる。だが、俺はエリスに話はない。


 ミズホの食堂で、食事を済ませた俺たちは皇帝用の部屋に戻った。

「もう、シャルローゼったら、いつもシンヤさまを誘惑して、フン」

 エリスが言うが、あれはシャルローゼの性格だから。それで、騙されるのはシノンぐらいの者だ。

「そうです、既に6人も妻が居るのです。これ以上、増えるとご主人さまから貰える精が減ります」

 ミュはどちらかというと、そっちが嫌なのだろう。

「えっ、ミュそうなの?だったら私も反対だわ」

 今度はネルが反対してきた。

「そうです、兄さまから貰える精が減るのは私だって嫌です」

 マリンよ、やっぱり、お前は悪魔族だったのか。

 シャルローゼが原因で、俺は嫁たちから、求められた。

 なにせ、神が居るのだから、ダウンしても回復魔法で直ぐに回復させられる。

 俺は人族としての限界を知る事はできるのだろうか?


 翌朝、ヤマトのCICの隊員から盗聴の結果について聞いてみる。

 もちろん、ヤマトのCICとミズホの作戦会議室をTV電話で結んでの会議だ。

「ネルエランド大皇后の情報で得られたものはあったか?」

「大皇后がいろいろと部下に指示を出していますが、これと言った内容のものはありません。ただ、大皇后の名前が分かりました。名前は『メドゥーサ』です」

「何?もう一度言ってくれ。『メドゥーサ』と聞こえたが…」

「そうです、メドゥーサに間違いありません」

「メドゥーサ」、ギリシャ神話に出てくる見た人を石に変えると言う魔女だ。いや、魔女というより、怪物と言った方がいいかもしれない。

「『メドゥーサ』、あれがここに居たと言うの?」

 エリスがうわ言のように呟く。

「エリス、何か知っている事があるのか?」

「ええ、彼女は悪魔族ではないわ。どちらかと言えば魔物よ。既に人の範囲を超えている」

 エリスが動揺している。

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