第45話 統治
1週間ほどスノーノースの王都に居て、エミールの代官の仕事を見ていたが、さすがはエミールだ。そつなく仕事をこなして行く。
だが、このスノーノースには文字が無いし、言葉も俺たちの国と違う。
そのため、国民には夜間学校を作り、仕事が終わってから、毎日2時間ほどの教育を義務付けた。
しかし、単に義務付けただけでは、最初は学校に行くだろうが、そのうち足が遠ざかるのは目に見えている。
このため、学校に食事ができる場所を作った。
つまり、勉強すれば食事ができる。すると、飯が食いたいがために学校に来て、勉強する。
言葉についても、俺たちが半年で北の国の言葉を理解したのだから、ここの住民もそれぐらいでどうにかなるだろう。
この地の言葉はどうも元が同じらしく、北の国の言葉と言っても、俺たちの言葉とそう違わない。
それもそのはず、南の国を追われた鼠族、豚族、鼬族が北の国に逃げて来たのが、広まった言葉だった。
だが、その時に使われていた文字は、既に忘れさられている。
エミール代官が官僚に次々に指示を出し、昼間は会議に次ぐ会議だ。エミールには頭が下がる。
スノーノースの王都には名前が無かったので、俺が名前を付ける事になった。
「皇帝陛下、名前はいかが致しましょうか?」
「えー、『マチ』でいいんじゃないか?」
「真剣に考えて下さい」
「もうそのまま、スノーノースでいいじゃないか、国の名前はエルバンテ帝国、スノーノース州になるんだろう。だったら、スノーノース市でもいいと思う」
「では、スノーノース市と言うことで」
代官名で都市の名前が発表された。
スノーノース国はエルバンテ帝国領となり、スノーノース州を名乗ることになった。
そして、その州都はスノーノース市であることが、州の隅々まで伝えられる。
もちろん、州の主な街には出先機関も造る。
そして、周辺国にも同じ内容が伝わるだろう。だが、皇帝の名前だけは伏せられている。
ただし、代官の名前は「エミール・ガストロフ」だという事は伝えてあるので、そのうち、鼠族であるネルエランドにもスノーノースの事は伝わると思う、
「ネルの国のダリアンはどうする?」
ネルに聞いてみる。
「どうする?」とは、エルバンテ帝国になるかという事だ。
ネルにはエルバンテの国の自治方法を説明してあるので、ダリアンもそのうち同じようになるだろう。
ネルもエルバンテについては、だいぶ分かって来たので、スノーノースと同じようにしたいとの回答があった。
エルバンテから官僚を呼んで、ダリアンに行く事となった。
スノーノース市の南を流れる川を遡上して行けば、ダリアンに着く。
この川は、スノーノースとネルエランドとの国境にもなっている。
「この川の名前は何と言うんだ」
「いえ、名前はありません」
新しく仲間になった白熊人のケモリットが言う。
白熊人には、ポールの事は既に説明してあるが、子供を川に流したことのある白熊人は数十人居て、その人たちが自分の子ではないかと言ったが、エリスの鑑定で、あいにく血の繋がりのある人はいなかった。
だが、ポールは同じ白熊人なので、同じ白熊人からは息子のように可愛がられているし、ポールを育てた俺も尊敬される事になった。
「名前がないと不便だな。名前を付ける事にしよう。ネルエ川の支流なので『コネルエ川』ってどうだろう」
俺の命名で、スノーノース市の南を流れる大河は「コネルエ川」に決まった。
このコネルエ川の上流は、ダリアン国の北側を流れている事が、衛星写真で確認出来ている。
俺たちが、スノーノースに行くために渡河した大河は、ネルエ川の支流だったのだ。
そのコネルエ川をイージス戦艦「ヤマト」と空母「ミズホ」を加えた輸送船団が行く。
ネルエランドの住民もこの船団を見ているだろうが、どう思っているのだろう。
そして、我々はダリアン国の首都の北側に錨を降ろした。
そこからはキチン車を連ねて、ダリアンの首都に向かうが、ダリアンの首都の住民はこの車列を見て驚いている。
首都の塀に着き、開門を迫ると、中から宰相が出て来た。
「お前たちは何者だ。訳もなく、ここを通す事は出来ん」
宰相のワイシコフが叫ぶ。
「宰相、ここを通して下さい」
俺とネルが出て来て、宰相に言う。
「あっ、陛下と旦那さま」
「これは俺たちが持って来た物だ。中に入れてくれ」
「し、失礼しました」
宰相が指示すると、門が開いたので、キチン車を連ねて首都に入った。
首都の住民は、あまりの車列に驚いている。
俺たちは城の中の広間に入った。そして、スノーノースのこと、俺が南のエルバンテ帝国の皇帝であり、その船団を川に停泊させていることなどを説明する。
宰相以下、この広間に居る全員が口を開けて驚いている。
「それで、この先に鳥人の村があるんだが、そこにも話をつけてあるので、迎えに行きたい」
「皇帝陛下が態々行かなくとも、使者を送れば良いではありませんか?」
ワイシコフ宰相が言うが、ここで俺が行かないと、失礼にあたるので、行きたい旨を言う。
「皇帝陛下は律儀です」
ワイシコフ宰相は笑って言う。
俺たちは鳥人の近くまで、陸亀ホエールで行った。同じ鳥人のミストラルとウェンティも連れて来ている。
「ララバード殿、住民の方々の意見は纏まりましたか?」
俺の横にはミストラルとウェンティも来て、どのように生活しているかを説明すると、その場に集まった鳥人が目を丸くしていた。
「我々もお供します。そして、この地は引き払います」
鳥人が総出で、引っ越し作業をしているが、前からそんなに荷物がある訳ではない。
飼っていた馬については、4軸垂直離着陸機で、陸亀ホエールまで運んだ。
陸亀ホエールが動き出すと、鳥人が驚いている。
そして、陸亀ホエールには白い鳥人も乗っており、黒い鳥人はそれを見て、さらに驚いていた。
ダリアン王都に連れて来た全員と、これからのダリアン国ついて、話し合う。
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