合同合宿2日目の始まり


「…………」


「びっくりするような入り方やろ? ゼロ様も目の色を変えて驚いてたよ、あははっ」


呆然とする全員を前に桜は軽く笑い飛ばした。全く、その世界に飛び込んだのを後悔してないと言わんばかりだった。

天音はそんな桜に一声上げた。


「……桜はそれで良かったの? 下手したら死ぬんだよ?」


「まぁな、ちょっとは怖かった。けどな、そんな事言っててもしょうがないんや。母上との約束を守れる大きな機会を逃してのこのこ生きるなんて、そんなん母上に顔向けできんわ。……まぁ、人殺しになった今でも母上に顔を向けられるかと言われたら……難しいやろな。それでも、あたしはあたしで進む道を決めた。後悔はしとらんよ」


真っ直ぐ、自分を貫く桜の言葉に由莉たちはそれ以上は何も言いはしなかった。

自分たちは人殺しだ。人に自分の道をとやかく言えるほど、いいことをしてきた訳でもない。それでも、この道を信じて歩んできた、それに変わりはないから。


……と、桜はそこまで言い終わると、持ってきていたバックの中から饅頭や最中を4人に2つずつあげた。


「……んなら、あたしはそろそろ帰ろかな。ももちと音湖さん待ってると思うし、明日も早く起きるからな、おやすみ〜」


「おやすみー」

「「「おやすみなさいっ」」」


桜はそうして音湖の部屋へと戻って行った。


一方、ももはというと……


──────────────────


「……蜜檎さん……わたしって……なんなんでしょうか」


「急にどうしたの、もも?」


ベッドの端でももは蜜檎の足を枕に寝そべりながらそう呟いた。蜜檎もやさしく話を聞く。


「……みんなすごいです。桜ちゃんは知っていたけど、由莉ちゃんに天音ちゃん、天瑠ちゃんと璃音ちゃん。わたしよりずっと小さい子があんなにも……なのに、わたしは……」


ももは自分の情けなさに今にも泣きそうな顔で拳を握った。蜜檎はそこまで悩むももの頬にそっと手を置いた。


「もも、無理はしなくていいのよ? ももが嫌なら言ってくれればいいんだからね?」


「蜜檎さん……ありがとうございます。けど……わたしだけ……何にもしないのは嫌なんです……っ、助けられてばかりで……蜜檎さんにも返しきれない恩があるのに、それを無下になんて出来ません……」


ももがそう頑なに拒み首を振ると、蜜檎も「……そう」と言うだけでそれ以上は何も言わなかったし、言う必要もなかった。


蜜檎にとっても、ももはいうなれば……『娘』と言うべき存在なのだ。故に、ももには危険なことをさせたくはないのだ。


「何かあればいいなさい? 遠慮はいらないんだからね?」


「はい……。えっと、そろそろ音湖さんの所にいきますね。蜜檎さん、おやすみなさい」


「ええ、おやすみなさい」



ももも、桜が帰った3分ほど後に音湖の部屋へと帰っていった。

そうして、各々の合同合宿初日は終えていったのだった。


────────────────


───合同合宿2日目───


この日は、全員で基礎トレーニングを午前中はしていた。ももは1周目でダウンしたので音湖と別の柔軟トレーニングを先に始めていた。桜は体力にはかなり自信があり1周目もなんなくいけたが…………、


「あんたら……どんだけ頭おかしい体力してんの!?」


「1年くらい午前中はずっと走ってましたからっ」

「体力ないと始まらないから」

「由莉ちゃんとお姉さまがおかしいんだよ! 天瑠も追いつくのにちょっと時間かかった……」

「璃音も追いつけるようになったのは少し前なんですよ!」


現在10km後半、桜もちょっと息をするのが深くなる中、由莉たちは涼しい顔で入っていたのだ。なんなら、走りながらしりとりしている始末だ。


「次、由莉ちゃんだよ。『ぎ』」


「ギリースーツ! はい、天音ちゃん」


「ツバメの巣〜」


「お姉さま可愛い……いたっ!?」


天音が可愛い声で動物の名前が含まれたワードを出したことに天瑠はぼそっと呟くと鋭い手刀がおしりに直撃した。


「はいっ、そんなこと言ってないで次」


「うぅ……えっと、酢っ」


「あ〜天瑠ずる〜いっ」


「今日は制限ないもんね〜っ。はい、次は璃音だよ」


む〜っ、と璃音は不服そうにしていたが、既に璃音の中にはいくつものワードが浮かんでいた。その中で選んだのは────、


「スラムファイア!」


璃音が口にした言葉に由莉たちは「あー」と納得していたが、桜にはさっぱりだった。


「スラムファイア……?」


「ショットガンの暴発を利用して連射することですよっ。撃ってても本当に楽しいですっ」


「ほぉ……ってことは、璃音ちゃんの武器ってポンプアクション式のショットガンなんか?」


「はいっ。ウィンチェスターM1912って銃を使ってます」


そう璃音が話し終わると、桜は納得したように頷き、横を向くのをやめて前を向いて走り続けた。そこから2周目が終わるまで30分の間、由莉たちはランニングしりとりに熱中したのだった。

結果としては、歩く辞書レベルに知識を有する由莉と、料理・食べ物で攻め続けた天音に天瑠と璃音が屈服する形で終わるのだった。


──────────────


そして午後。いよいよ射撃と近接戦闘訓練だと由莉たちが意気込む中、天音はふと疑問が浮かび、桜の元へと駆けて行った。


「ん? どうしたん?」


「桜ってさ、使う武器って刀だけなの? 桜の剣技は本当にすごいよ。……けど、相手が銃だとそれだけじゃ対応しきれない時……あるんじゃないかなって」


天音自身は刀で銃弾をぶった斬った事もある。だけど、それは拳銃弾だけでライフル弾となれば話はガラリと変わってくるのだ。

それを心配して天音は聞いたが、桜はただにこりと笑うだけで、持ってきていた大きなバックに手を突っ込んだ。




「んな馬鹿な話あるかいなっ。あたしはちゃんと銃も使えるで?」


「っ!」


そう言って取り出した銃を見た時、天音は間違いなくアサルトライフルだと直感で分かった。由莉なら種類など1発で分かるだろうが、天音はそこまでは分からない。


(ゆりちゃん来ないかな……)


そんな思いが通じたのか、由莉が後ろから天音を呼ぶ声が響いてきた。最初は拳銃射撃からと決めていたのもあり、由莉は既に戦闘用の服を身に纏い、ホルスターやマガジンポーチを付けていた。


「天音ちゃ〜んっ、早く準び────っ!? 桜さん、それってM16系統の……カスタムされてあるやつじゃないですか?」


やってくるなり、由莉は桜が銃を持っていることに目を丸くしながらも、冷静にその銃をじっくりと観察した。


「持ってみるか?」


「はいっ。ありがとうございます! ええっと……カービンモデルじゃなくて、長いハンドガードでマズルフラッシュは最小限にしてあって、消音器はいつもつけているけど、いつもは取り外して別の場所に保管してある……かなり音を消すのに特化した型、そんな感じですね。レイルバンジーも付いてるおかげで持ちやすいし……スコープは……LUPOLD Mark 6 で、グリップは……ERGO Gripのやつかな……で、ストックは───」


と、無限にも思えるくらいに由莉の知識が吐き出され続けた。その場にいる全員がもはや呆気に取られた状態になること2分、満足そうに目を輝かせながら、由莉は桜に銃を返した。


「ありがとうございましたっ。桜さんの銃、すごくいい銃で見蕩れてしまいました……!」


「ええよええよっ。それにしても、由莉ちゃん……すっごいなぁ……本当に銃が好きなんやな」


「はいっ。桜さんも、天音ちゃんも早くやりに行きましょうっ! みんな待ってます!」


楽しそうに笑って話す由莉に2人の表情も緩んだ。2人も準備をさくっと済ませると、射撃場へと向かうのだった。

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