璃音は役に立ちたいです! fin.
「なにやってるんですか!!」
お姉様だとしても言いたくなります。喧嘩ならまだしも……殺し合ったらだめですよ……。
「み、みんな……もしかして今の聞いてた…………?」
「天音ちゃん……怒るのは分かるけど、殺し合うのはやめて? 柔らかい素材でも、目に当たったら危ないから特殊なゴーグル嵌めてるのに……」
「だって……音湖さんが……音湖さんがっ!」
お姉様はあたふたしながらプンプンに怒る由莉ちゃんに必死に言い訳をしようとしています。……あんなお姉様、以前だと絶対に見られなかったので、なんだか嬉しくもあります。
一方……音湖さんは阿久津さんに脳天にげんこつをゴチンと落とされていました。
「あだぁ!? あっくん……今マジでやったかにゃ?」
「ほんとに……4日間も殺り合ってどうするんですか。馬鹿なのですか死にたいのですか」
「だ、だって……天音ちゃんが調子に乗って挑発されたのが頭にきて…………」
「子供じゃあるまいし……ねこと天音さんの間に何歳あるか分かるのですか」
「9だにゃ! 2桁じゃないから問題な────いだぅ!?」
…………またげんこつが降りかかりました。あんなの当たったら……璃音の頭が割れそうです…………。
「やっぱり、ねこは稀代のバカですね」
「うぅ……ひどくないかにゃ?」
「やめて欲しいなら戦闘中に啀み合うのやめてください。現場でやったら許しませんからね?」
阿久津さんの目は本気でした。……何となくその気持ちが璃音には分かります。油断していると……この世界だと人はすぐに死にます。……璃音も、子供だからと甘くみた大人を何十人もあの子で殺してきましたから……命の軽さは理解しているつもりです。どんなに強い人でも……死ぬ時は死にます。
……だから、阿久津さんは心配しているのです。その気持ちは音湖さんにも伝わっていたようですごくシュンとしながら頷いていました。
「ならばいいです。天音さんも絶対にやめてくださいね?」
「…………はぃ」
「キッチン入らせませんよ?」
「わかりました!!! 絶対にしません!!」
お姉様も阿久津さんに頭が上がらないようで背筋をピンッと張りつめながらそう宣言していました。本当ならいいのですが…………
あっ、忘れるところでした。今日のみんなの戦績を確認しないと…………。
「あのっ、みんなの今日の戦績を教えてください!」
「私は15戦7勝5負3引だよ」
「ボクも15戦7勝5負3引かな」
「天瑠は15戦3勝12負」
「私は15戦10勝5負ですね」
「うちは15戦全勝」
音湖さん……本当に強いです。あの髪が白い音湖さんは黒い音湖さんとは別人みたいな強さです。さて……帰ったら集計して……、
と、考えていると……真っ先に由莉ちゃんの顔が暗くなりました。……やっぱり気づいちゃいますよね。
「……璃音ちゃん…………」
全員3戦ずつしていますから勝数と負数は絶対に同じになります。璃音を除いた5人の勝数は42、負数は27。1日15戦ですから璃音の戦績は…………はい、
15戦0勝15負
これで120連敗です。……本当に、みんな強すぎますねっ。
「由莉ちゃん、璃音は大丈夫ですよ。璃音が1番弱い事くらい分かっています。けど、最初よりはみんなを苦戦させていますから、120回の黒星は無駄なんかじゃないです。最後には……白星がつきますから、見ていてください」
璃音の戦績は真っ黒です。白の欠片もありません。……けど、負けは負けでも勝ちへ繋がる負けなら、それは勝ちへの過程だと思っています。だから……璃音が諦めない限り、勝ちは絶対に手繰り寄せられると信じています。
璃音の精一杯の覚悟を由莉ちゃん達にぶつけました。
弱い璃音の……最弱としての覚悟、たった1つの白星のために無数の黒星を積み重ね続ける覚悟、…………そして、何より諦めない心を───。
すると、由莉ちゃんとお姉様が近寄ってきて璃音を両脇から優しく抱きしめてくれました。……本当に、ここのみんなは優しくて……大好きです。
「璃音ちゃん……絶対に出来るよ。諦めなかったら、私にも……天音ちゃんにも勝てる事だって出来るよ」
「璃音、知りたい事があったら何でも聞くんだよ?みんな、璃音の事、応援してるんだから」
「由莉ちゃん……お姉様…………っ」
優しい……本当に優しすぎますよ、みんな……っ。璃音の目に……何となくだけど熱いものを感じ、何とか堪えるように頭を振ると……璃音の前に複雑そうな表情の天瑠がいました。
「ぁ……天瑠にも同じこと言ってあげてください。……天瑠だって……その…………」
「璃音、変なこと言わないの。……確かに璃音との戦績を除いたら天瑠もこれで96連敗してる。けどね、天瑠は由莉ちゃんとお姉さまに1度惜しいところまで行ってる。だから、璃音は自分のことに集中すればいいよ? 何かあれば頼ってくれていいからね。……天瑠は璃音の姉なんだから」
天瑠はぷいっとそっぽをむきながら璃音を羨ましそうにチラ見していました。……天瑠は少し甘えられない性格みたいなのでそんな事出来ないと言わんばかりでしたが……それでも、璃音の事を一番に考えてくれている、璃音の一番の宝物で、誇りです!
「天瑠……うんっ。いつか、天瑠にも勝てるように頑張るからね! みんなにも!」
「簡単には勝たせないよ、天瑠。でも……ここまで来てくれるって信じてる。璃音は天瑠の妹だよ?弱いわけなんてないんだから」
「そうそうっ! 璃音ちゃんは弱くなんてない。いつか、自分でも自信を持ってそう言える日が来るから!」
「璃音、その意気だったら、みんなにも勝てるかもしれないね。……ボクは絶対とは言わない。世の中に絶対なんて……ない。……それでも、ボクは信じてるよ」
「ふふっ、なんだか初めの頃の由莉さんを思い出しますね。本当にされそうで怖いですが、応援してますよ?」
「さすがにゃ。きっと、天国にいる瑠璃ちゃんも璃音ちゃんと天瑠ちゃんの事を応援してるにゃ。もちろん、うちも同じにゃ」
みんな……みんなの言葉で璃音の背中を後ろ押ししてくれます。……瑠璃お姉様、璃音は幸せ者です。こんなにも……幸せで…………大好きな人たちと一緒にいることが出来て……胸がとっっても暖かいです。瑠璃お姉様も……きっと、見ていてくれていますよね……。
「みんな……ありがとうございますっ」
璃音は2人の腕の中から抜け出すと、5人が全員見える所にくると手を後ろに組んで全力の笑顔を見せて、お礼を言いました。
「璃音は……みんなの役に立ちたいです!」
それが璃音のやりたい事だから。みんなと同じくらい、役に立てるくらいに……なってみせます!
見ていてくださいね!!!!
【EX第1シリーズ】
璃音は……役に立ちたいです
〜かんけt──────────
みんなが璃音の側にいる。そう思うだけで勇気が溢れ出てきます!────由莉ちゃんにお姉様、天瑠、阿久津さん、音湖さん、それに……後ろにいる……女の子も……
……えっ? おんなの……こ?
(…………強くなったね、璃音)
「っ!!」
もしかして……瑠璃お姉様? 瑠璃お姉様なのですか!? 不意に璃音はみんなを置き去りにして走っていました。今……確かにいました……はっきり……みえました!!!後ろの壁に……黒い髪で……海のような青色の瞳の……女の子が!
みんなの制止も振り切って無我夢中で走って……こけそうになっても、お姉様の姿だけは……見失わないようにっ!
(瑠璃お姉様……!お姉様!!)
その近くまで来た時……気がつけばさっきの子は……消えていました。瞬きをした一瞬で……幽霊みたいに璃音の視界から……
(さっき、いたはずです……確かに……璃音は見ました!)
誰も信じてくれなくても……いました。いたのです……瑠璃お姉様が……っ。力なく……璃音は膝から崩れ落ちると壁に背中を向けて座り込みました。
(璃音は……話したいことがたくさんあります……っ! たくさん…………っ、だからっ!)
(瑠璃は……間違ってなかったよ)
「ぁ……」
背中越しに……感じるものがありました。……懐かしい……本当に懐かしい……確かに今、璃音の背中に……瑠璃お姉様がもたれかかっています。
(瑠璃……お姉様…………)
(天音に託して……正解だったね。みんな……元気そうでよかったよ…………)
間違いありません。瑠璃お姉様の声です……抱きしめたい……顔を見て話したい……けど、後ろを振り向いたら……お姉様が消えてしまいそうな気がして…………っ。
(瑠璃お姉様……っ、璃音は……)
(信じてるよ、璃音。天瑠にもそう伝えて? ……それじゃあ……璃音、元気でね───────)
「っ! お姉様、待って!!」
まだ、話してない……何も話してない……っ! 思わず振り返った後ろには……壁があるだけで、伸ばした手は……虚しく宙を切るだけでした。
「あ……あぁ…………」
(夢……それとも……幻…………? ううん、そんなわけ……ない)
「璃音ちゃん、どうしたの!?」
手を伸ばしたまま呆然とし尽くす璃音の手を由莉ちゃんは心配そうに握ってくれます。……もしかしたら璃音はおかしくなったのかもしれません。……瑠璃お姉様が……いるわけなんてないのに…………。
「今……いたんです。瑠璃お姉様が……」
「瑠璃……ちゃんが……?」
「おかしいですよね……だって……」
信じてくれるとは思いません。……瑠璃お姉様はもういないんです。会えないはずなのに……璃音は…………、
「ううん、璃音ちゃんがそう言うならきっとそうだよ」
「ぇ…………?」
信じて……くれるのですか? 璃音が言うのもなんですが、こんなこと…………。
「瑠璃ちゃんもきっと……違う、絶対に見てくれていたんだよ。だから、こうして会いに来てくれたんじゃないのかな。私は実際にはないけど……夢の中、自分の意識の中で何度も会ってる子がいるから……なんとなくだけど分かるよ」
「っ、由莉ちゃん……っ!」
「ほら、おいで?」
由莉ちゃんの促されるままに璃音は胸に飛び込みました。……本当に由莉ちゃんは瑠璃お姉様みたいです。暖かくて……側にいるだけで笑顔にさせてくれて……。
「由莉ちゃん……きもちいい……大好きです……」
「ふふっ、璃音ちゃんはかわいいなぁ〜、よしよし」
璃音はこんな由莉ちゃんの……相棒になれたんですね。由莉ちゃんの役に立てるように……もっともっと頑張ります!みんなと一緒に……強くなって、それで……いつか、瑠璃お姉様に会えた時、色んなお話が出来るように──────
第1シリーズ 璃音は……役に立ちたいです
~完~
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