天瑠と璃音

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 〜新年まで残り2時間となったある場所にて〜


「今日、あの夏祭りのあった所で色んなものが食べられるって聞いたからいこ?」


「璃音……そうだね。いこうかな」


 瑠璃と天瑠は……寒さに震えながら、ビニルシートとダンボールで作った空間の中でみをよせあっていた。かれこれ9ヶ月以上この生活をしている天瑠と璃音だったが……2人の少女を繋ぎとめていたのはたった一つ─────天音に会いたい、それだけだった。


「……お姉様……」


「いいなぁ……璃音は。天瑠も会ってみたかったよ。……それにしても本当にお姉さまだったの?」


 やっぱり腑に落ちない天瑠はそう聞くと、璃音はいきり立ったかのように声を強めた。


「絶対そうだよ!……あれはお姉様だった。けど……璃音のこと覚えていないみたいだった」


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 夏祭りがあった日、璃音は天瑠に何か買ってくるとだけ言って、そこに来ていた。お金の無駄遣いは出来ないと、なるべくコスパがいいものを買いたいと思いつつ怪しまれないように、なるべく子供っぽく動いていた。


(いいにおい……けど……うぅ)


 屋台から漂う匂いに負けそうになるも、天瑠がいない所でお金使って1人で食べてもだめだと割り切って歩いていた。すると…………、


(射的……これいいのかな……? あ…れ……? あの姿は…………っ!!!)


 射的の屋台を気になりながらもすり抜けようとして────水色の着物と桃色の着物を身につけた女の子2人とすれ違ったその時、胸の高鳴りが急に止まらなくなった。

 ぱっと振り返ると、自分より少しだけ高い女の子と、1等身くらいの差がある女の子が射的の出番を楽しそうに笑いながら待っていた。


 その姿を見た瞬間、璃音は絶対的な確信を持った。


(お姉様……お姉様だ!!! やっと……やっと会えた……っ! ……でも……なんだか変な感じ……)


 あの身長、明るい茶色の髪の毛、栗色の瞳、天音である事は間違いなかったのに……違和感が拭えなかった。


(璃音に……気づいてない……? それに……お姉様が髪を伸ばすなんて……でも、きれいだな〜)


 いつも、髪が邪魔になると天音はショートにしていた頃しか知らない璃音は驚きで目を見開いていた。髪を伸ばした天音も璃音には目新しくもそんな姿のお姉様もいい!と、思っていた。

 それに……天音が他の女の子とすごく仲良くしていて……心がチクッとした。


(お姉様……何があったのですか? ……それに、あんな笑顔……璃音も……見たことない……)


 璃音も天瑠も見たことがないであろう笑顔をただ1人に対して見せていることに……少しだけ悲しくなった。だが……その相手の顔を見た時……璃音は感じてしまった。


 とてつもなく愛くるしい子だって───。


 そんな子と天音が2人で自分達を置いていってしまったような気がして……悲しさと悔しさで泣き崩れそうになった。

 だが、こんな所で泣いててはだめだと、歯を食いしばって……それでも、少しでも天音のことを見ていたい璃音はその射的をする事に決めた。


 ……万が一にもないと思いつつ、もしかしたら本当に気づいていないのかもしれないという一抹の可能性を見出すかのように、璃音は出来るかぎりたくさんの子どもを巻き込んで2人に注目がいくように話題を持ちかけた。


「ねぇ、あのお姉ちゃん達どのくらい当てられると思う?」


「えー4発くらい?」


「でも、当たっても落ちないととだめだから2つくらいじゃない?」


(お姉様ならこんな事を言われたら逆にやる気になるはず……どう……だった?)


 少し心配になりながら璃音はチラッとその様子を見ていたが……案の定、天音もやる気に目を燃やし始め、璃音もそれを見て揺るがない確信を得た。

 やっぱり天音だと。けど……何かあったのは確かだと。


(お姉様……あれから……何があったのですか……? 璃音は……璃音は…………っ)


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 最後の1発を放ち、計19個ものお菓子を手に入れた2人は子供たちに拍手喝采を浴びてほんのりと顔を赤くしていた。璃音も素直にすごいと思わざるを得なかった。


 だが…………由莉の撃ってる時の姿を見て璃音は察してしまった。


 ─────あの子……お姉様と天瑠、それに璃音と同じ臭いがする。


 人を自分の意思で殺した事のある人間だと。そして…………間違いなく強い、そんなオーラが璃音には見て取れたのだった。


 次は自分の番だ……と、少し緊張していた璃音だったが、先にやっていた2人が手に入れたお菓子を皆んなに分け始めて璃音は思わず目を丸くした。

 そして……天音が真っ先にお菓子をあげたのが……偶然か必然か、璃音だったのだ。


 この機会を逃すわけにはいかない!と璃音は思い切って名前を聞いてみた。だが……返ってきたのは『えりか』と、聞きたかった名前とは別の名前を言われた。


(……お姉様……っ、もしかして……記憶を……)


 そんなショックもあったのだろうか、璃音は自分の名前を言おうとして……間違って『陸花』と偽名を言ってしまった。


 それから別れて、射的で9個のお菓子を奪い取った璃音は帰路につきながら天瑠がいるところに着くまで────歩きながらに涙を零した。


「なんでぇ……っ、璃音は……お姉様に嘘なんて……っ! うあぁああぁ……っ!璃音は……なんで……なんで『璃音』って言わなかったの……っ!」




 この日を……璃音はどれだけ後悔したか分からない。天瑠のいない所でしばらくの間、涙が止めどころを知らない勢いで璃音の頬を伝っていった。


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「なるほど……ね。璃音がいうなら間違いないと思うけど……明日くらいには……そろそろ他の場所に行った方がいいんじゃない? お姉さまも、天瑠たちは狙われるから出来るだけ離れたところにいけって言ってたし」


「…………お姉様が探しに来た時、ここにいればきっと迎えに来てくれる。璃音はそう信じてるからここから動かないよ。……それに、天瑠は……もう動くのも辛い……よね?」


「…………あーあ、ばれてたか……」


 いつまで続くか分からないこの生活で、2人は出来る限りお金を節約して過ごしてきた。食料だって、なるべく使わないように、天瑠は璃音に自分の分を半分近くあげていた。おかげで、璃音は痩せてはいるが小康状態なのだが……天瑠はすっかり痩せてしまって、衰弱が始まっていたのだ。


「天瑠……お願いだから食べてよ……っ、璃音は……天瑠が死んじゃったら……もう……」


「ほんと……璃音は心配性だよね。言われなくても、これからはしっかりと食べるよ。……璃音をこれ以上泣かせるのは姉としてよくないし……だから、めそめそ泣くのはやめて?」


「うん……うぅ、さむい……」


 天瑠と璃音はさらに体を寄せあい、マフラーを2人で共有し、出来るだけ熱を籠らせて体温低下を防いだ。


「お姉様を見つけるまでに死んだら泣いちゃうからね?」


「そういう璃音が先に死なないか天瑠は不安で夜も眠れないよ」


「むぅ…………。うぅ、お姉様……いつ会えるかな……最近少し体力を考えながら歩いて探してるけど見つからない……」


「広いからね。そんな闇雲に探しても見つかりっこないよ。……それで、もしお姉さまがもう一度見つかったら…………その時は、」


 天瑠の言葉に反応するように璃音は長い袋を自分のところに寄せると中に入っているものを取り出した。


「……今度会ったら……次はお姉様を取り返すよ。……これを使ってでも絶対……お姉様を……っ!」


 黒くて長い───自分のショットガンを抱きながら、天音の事を一心に想う璃音を天瑠は体操座りをしながらその長い黒髪を優しく撫でてあげた。


「璃音はお姉さまのこと本当に好きだね。よしっ、天瑠も頑張らなくちゃね」


「天瑠…………でも、身体……大丈夫?」


「妹に心配されるほど弱ってないってば。……それで、どうやってお姉さまを取り返す? ノープランで突っ込むのは危険だよ」


「……次にお姉様を見かけたら……こそこそしながら、誘い出して……それで捕まえられるかな……?」


 頭をかしげる璃音は、うーん……と首をかしげていたが、寒くて頭が働かないながらに天瑠はなんとか問題を指摘した。


「そのお姉さまの近くにいた子……由莉……だっけ? その子はどうするの? 多分、その調子だと由莉なら離れないんじゃないかな? それに……きっとその子強いんでしょ?」


「…………どうしよう……お姉様がすっごく気に入ってるみたいだし……脅すだけで済むなら……いいんだけど、……殺しちゃうかもしれない」


 既に覚悟は決めてると言わんばかりに強く想いを秘める璃音を見て天瑠も頷いた。


「なるほどね〜、天瑠はあんまりそういうの出来ないから、璃音の案に乗るよ。……それで、いつからだっけ? その食べ物が食べられるやつって」


「今日の夜中に……あの神社でやるらしいよ?」


「分かった。なら、もう少し暖かくなったらいこうね、璃音」


「うん。分かった、天瑠」

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