永久に咲く花と紡がれる希望

〈ぐぅ……っ!〉


「うぅ……っ! ゆー、ちゃん……しっかり………」


 天音に切られた瞬間、見ていた由莉にも肩に激痛が走った。痛くて……泣いてしまいそうだが、ゆーちゃんが戦っているのに自分がそんな事思っちゃいけないと自分を奮い立たせる。


〈まいったなぁ……天音ちゃん相手に説得しながらは……私には難しかったかなぁ〉


「そんな事ないよ! ゆーちゃんは……頑張ってるよ……っ! なのに……私は…………」


 ……情けない。と言おうとした由莉をゆーちゃんは人差し指を由莉の唇にそっと置いた。


〈由莉ちゃん、そんな事思っちゃだめ。……私もだけど、ほんとに由莉ちゃんは自分を責めようとするよね〉


「っ、ごめん、なさい……私……また弱音を……」


 下を俯く由莉にゆーちゃんは首を振ると、由莉の肩をしっかりと持った。

 ……何か大切なことを伝えようとしてるのだと、由莉は顔を上げてゆーちゃんの顔を見つめた。


〈……正直に言うね。私には……天音ちゃんを止められそうにない〉


「っ、それじゃあ……もう私にも……ゆーちゃんにも……天音ちゃんを……もう………」


〈ううん……違うよ〉


「……えっ?」


 ゆーちゃんは優しい顔でまた首を横に振ると俯こうとした由莉の顔を両手で頬を包むようにして持ち上げた。


〈なんでかって言うとね……ちょっと悔しいけど、分かっちゃったんだ。天音ちゃんの心を変える事は……由莉ちゃん、あなたにしか出来ないんだって〉


「どういう……こと?」


〈簡単な話だよ。かつてのえりかちゃんと一緒に半年の間過ごしていたのは……由莉ちゃん、あなたであって……私じゃない。私はここでずっと由莉ちゃんの視界から色んなことを観てきて知ってるだけだから……〉


 それが表すこと……ゆーちゃんは…………ずっと1人だったのだ。…………ずーーーっと。


「そんな……寂しく……ないの? ……ううん、寂しくない訳がないよ。ゆーちゃんは私の中で生きてきたんだから……」


 由莉がゆーちゃんの頬を同じように優しく触れるとゆーちゃんの瞳がほんのりと潤んだ。見てきたとは言え……ずっと1人だったんだから。


 いや、ゆーちゃんは生まれてきた時からずっと1人で孤独な中で戦ってきたんだから。




 ────誰にも知られることなく、




 ────誰からも褒められない、




 ────誰にも分からない苦しみを……一身に背負って、




 たった……たった一つの約束を果たすために!!




 自我を持ったゆーちゃんはずっと……1人…………




〈……もうっ、弱音吐いちゃいそうになるよ……っ。……さて、由莉ちゃん。話を戻すけどあなたには今2つの選択肢があるよ〉


「……?」


〈1つ、私にこのまま任せること。……天音ちゃんを出来る限り説得するけど……私じゃ多分、届かない。どちらかが気絶するか、私が殺されるまで傷つけあうと思う。……両方ボロボロになると思っていいよ〉


 ゆーちゃんの言葉が……由莉には何故か選ぶなと言ってるようにも聞こえた。そして2つ目───


〈2つ、由莉ちゃんがここからは交代すること。……もう私は手助けが出来ないから……最悪死んじゃう。けど、天音ちゃんの心を助けるなら由莉ちゃんじゃないと出来ない〉


「…………」


〈どっちも……犠牲はでるよ。……犠牲のない答えなんてないんだよ、由莉ちゃん。……あなたはどっちを選ぶ?〉


 選べと言わんばかりのゆーちゃんの問いかけに由莉は1度目を閉じると───覚悟を決めて、ゆーちゃんの手をぎゅっと握った。


「私はどっちも選ばないよ、ゆーちゃん」


〈……へぇ、じゃあどうするか教えて?〉


 挑発的な口調の中にほんのりと嬉しそうな気持ちを織り交ぜたゆーちゃんに由莉は自分で出した答えを……思いっきりぶつけた。


「ゆーちゃん、私に協力して! 私は……見ての通り弱い。この手で掴もうとしたものも……掴み取れなかった」


〈…………〉


「でも! 私とゆーちゃん、2人でならきっと掴み取れる! もう……二度と大切なものを失いたくなんてない!!! お願い、ゆーちゃん……っ!」


 話しているうちに涙が溢れてきた由莉の心からの想いを伝えられたゆーちゃんは由莉をぎゅーーっと抱きしめてあげた。


〈本当に……由莉ちゃんは欲張りさんなんだから〉


「だって……負けるのは嫌でしょ? 天音ちゃんの心にも、体にも勝ちたい、違う?」


〈……くすっ、やっぱりあなたは本物の由莉ちゃんだよ! 信じて正解だった!〉


 ゆーちゃんが魅せる笑顔は───まるで永久に咲く満開の花のように暖かくて由莉でさえも魅入ってしまった。


〈いいよっ、私の力───由莉ちゃんに託すね。……と言っても、私はあなたの力の制限を外した状態で戦っていただけ、だけどね。えっと……そのままじっとしててね〉


「……? ゆーちゃん、何を……っ!?」


〈……ちゅっ〉


 突然顔を近づけてくるゆーちゃんに困惑していた由莉は突如としてゆーちゃんにキスをされて顔が真っ赤になった。自分で思うのもなんだが……可愛くて仕方がなかった。

 そして、その瞬間……由莉はある変化を感じていた。


「すごい……力が漲ってくる……」


 さっきまでとは嘘みたいに力が体を包み込んだ。大切なものを守るための……力を。

 不思議そうに、それでいてやる気に満ち溢れる由莉にゆーちゃんは少しだけ忠告をした。


〈ただし、体が少し壊れちゃうから……覚悟してね。筋肉痛で済めばいいけど、断裂する可能性もあるから、ね? さて、由莉ちゃん……天音ちゃんを助けよ? それに……天音ちゃんが心配してる子達も全員、まとめて助けちゃうよ!〉


「もちろんっ! じゃあ、やるよ!ゆーちゃん!」


 お互いの手を合わせ、由莉とゆーちゃんは再び天音との戦いに身を投じた。


 今度は1人じゃない、2人だ。負ける気なんてしない。


「ゆーちゃんとなら、」

〈由莉ちゃんとなら、〉





〈「絶対に助けられる!!!」〉

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