4人は死を感じました

「ゆりちゃんっ、早く早く〜!」


「ま、待ってよ〜!」


 帰ってきた由莉は満面の笑みのえりかに迎えられ、いつも通り急いで風呂に入るとダイニングへと向かった。待ってましたと言わんばかりにえりかに案内された向こう側には、既に大量のたこ焼きが食べられるのを心待ちしているかのように湯気と香りをテーブルの上から漂わせている。


「これは……たこ焼き?」


「うんっ。今日はわたしもつくったんだよっ」


 早く食べて欲しいとうずうずしているえりかを片目に由莉は椅子に座ると手を合わせて「いただきます!」と元気に口にすると、箸で大きなたこ焼きを1つ摘み口の中に放り込んだ。

 若干時間が経ったおかげで外の熱はいくか取れていたが、それが仇となり油断して外の皮を破ると未だアツアツの中身が由莉を襲い悶絶しかける。


「っ!?」


「ゆりちゃん大丈夫!?」


 急に苦しみ出した由莉にえりかは飛び上がり急いで駆けつけると由莉は熱さと戦いながらも、何とか飲み込むことが出来た。


「…………だ、大丈夫……熱くてびっくりしただけだよ。でも、すっごく美味しいよ!」


「よかったぁ……しんぱいしたよ〜」


 由莉が無事なことを知ったえりかはホッとした表情を浮かべると、自分も椅子に戻ってひたすらにたこ焼きを頬張る。同じように由莉も幸せそうに食べている様子はえりかにとっても嬉しいなんて言葉では言い表せない程だった。


 そうしている内に音湖も一足遅れてやってくると、3人でテーブルの上のたこ焼きを手当り次第に口にしていった。200~300は作ってあったはずなのにみるみるうちにその数を減らしていく。そのくらい夢中で食べていたのだ。

 すると、ようやく由莉がある事に気づき食べる手を止めた。


「あれ?阿久津さんはどうしたの?」


「いまもなにか作ってるみたいだよ〜。わたしもてつだいたかったけど、さきに食べてていいよって言ってたよ?」


 と、話していると阿久津がちょうどいいタイミングでもう1つ皿を持ってやって来た。見た限りはただのたこ焼きだったが、ソースが一切かかってない事からその違和感が滲み出ている。


「もぐもぐ…………あくつさん、それは……?」


「にゃ……っ。本気でやるのかにゃ……」


「……?音湖さん知ってるんですか?」


 異様な皿を気にしつつもたこ焼きに手を伸ばす由莉は音湖に聞いてみると、絶望しきったような顔でうなだれていた。


「……あれはロシアンたこ焼きにゃ。多分、40個あるけど、全部中身が違うのにゃ。39個は美味しいんだけど……1個だけとんでもないやつが混じってるにゃ。…………由莉ちゃんとえりかちゃんは多分それを食べたらショック死するにゃ」


「っ!!??」


「うそ…………」


 音湖をそう言わしめす存在が混じったたこ焼きに由莉とえりかは身震いを覚えた。だが、そんな事を無視するかのように阿久津は重ねた皿の中央にそれを置いた。


「さて、ゲームを始めましょう」


 ──────────────────


 ────これはただのゲームじゃない



 阿久津と音湖から漂うその気配に由莉もえりかも息を飲んだ。ショック死するというワードが大袈裟ではないようだったのだ。順番は最初の方がリスクは低いと言うことで由莉→えりか→阿久津→音湖の順番となった。


 まずは由莉、悩んでも外見は分からないと39/40を信じて1個摘むと震える手で思いきって口の中に放り込む。熱さを冷ますようにはふはふとしてから由莉はゆっくりと噛んで中身を外に放出し、味を確かめる。………すると、


「これは……チーズ?」


 中から出てきたのはとろーんとしたチーズだった。今までとは違う別の食感に由莉はびっくりしつつも緊張が解けてそれを堪能していた。


 それを見たえりかはそれに続く。分からないならと由莉が取ったものの隣にあったものを摘むとパクリと口に入れる。なにか美味しいものが来ると思っていた────その矢先!


「…………っ、」


 えりかが突然口に手を当てた。それを見た誰もがその『ハズレ』を引いてしまったんだと察知した。ショック死しかねないそれを─────


「……あまいです。……チョコレートかな?」


 たこ焼きのはずなのにすごく甘い、そんな不思議な感覚をえりかは味わっていた。とりあえずハズレはまだ残っていると緊張した面持ちで4人とも順に食べ進めていった。



 …………そして、ラスト4つ


「まだハズレが出てない……」


「うぅ、ちょっとこわいよ……」


「最初やった時はねこが1回で引き当てたのですが……ねこも運がいいですね」


「あんなのもう2度も味わいたくないにゃ」


 未だにハズレが出てないことに4人は焦りを隠せなかった。今までの36個は焼いたお肉や、トマト、マシュマロ、キムチなど、どれも美味しかったが……いよいよ、『死』が間近に迫っている事に音湖はだんだんと青ざめていった。流石にそんな表情の音湖を見ていて由莉も心配に思い、ある提案をした。


「……怖いですし、最後はみんなで食べませんか?」


 他の3人はすぐに頷くと、自分の手前にあったたこ焼きを摘んだ。4人の4つの箸全てが怖さで震えていた。特に音湖も然り、作った本人の阿久津まで震えているのだからそれにつられて震えが止まらなくなってしまったのだ。


「……では、皆さん行きますよ?」


 ……………………


「せーの」

「せーのっ」

「せーの!」

「せーのー!」


 パクッ!そんな音が聞こえてきそうなくらい息ぴったりに頬張った。


 まず叫んだのは…………


「んん〜!エビだ〜!」


 心の底からホッとしたように嬉しそうな表情を浮かべたのは…………由莉。


 次に叫んだのは………


「うずらの卵だよ〜! うぅ、ゆりちゃんこわかったよぉ……」


 旨い感触を感じ椅子にもたれたのはえりかだ。


「えりかちゃんもよかったね〜…………あっ、」


 由莉もえりかの無事を喜んでいたが……それはつまり、阿久津か音湖、どちらかがハズレを口にしていると言うことになるのだ。

 固唾を飲んで見守る中─────2人とも転げ回る事はなかった。


「これは……確かサーモンでしたかね」


「おっ、イチゴだにゃ〜」


「えっ?」


「にゃ?」


「……?」

「あれ……?」




 気まずい雰囲気が広がる───


「おかしいですね……絶対に反応するように中にはハバネロと唐辛子、青唐辛子、デスソース、わさびを入れたはずなんですけどね……。私でも食べたら暫く悶絶するはずでしたのに……」


 そんなものを作らないで!それが3人の総評であった。謎は残りつつも4人は残りのたこ焼きを平らげてしまうと、各部屋へと戻っていった。




 …………


「嫌な予感はしてたにゃ……1番最初に取ったやつがハズレだってにゃ…………」


 部屋に戻った音湖は咄嗟にポケットの中に忍ばせた『もう1つのたこ焼き』を手に取った。確信していたからこそ、音湖は手に取った時、偶然ソースが一切かかっていないたこ焼きを手の甲に忍ばせてそのたこ焼きを取った瞬間、手の甲で完全に死界となった部分にそのたこ焼きを隠し、普通のたこ焼きを食べていたのだ。


「……ずるい事をしちゃったかにゃ」


 難を逃れた事はホッとしていた音湖だったが、今も手の中にあるそれを見ていると、どうしようもない罪悪感が生まれた。被害を被りたくなくて、絶対自分に渡ると思ってした事だったが……腑に落ちない表情をしていた由莉やえりかを思い出して、とてもじゃないくらいにたまらない気持ちになった。


「…………あ〜〜〜もう!! 食べればいいんだにゃ!? このもやもやもきっと消えてくれるのかにゃ!? あむっ………………ごほっごほっ」


 遂に耐えかねた音湖は乱暴に口の中に放り込み外殻を歯でぶち抜くと中から辛味のC-4爆弾が炸裂する。痛くて脳が引き裂けそうで鼻も痛くて涙が止まらない、喉も痛い、息するのも辛い、だが、それを自分の罰だと音湖は甘んじて受け入れた。


(痛いにゃぁ…………水が欲しいけど……動けないにゃ…………っ)


 苦しんで倒れながらもがき苦しむ音湖は10分間、味覚が辛味でいかれるまで耐え続けたのであった。

 ようやく収まると音湖はふらふらになりながら浴びるように水を胃の中に押し込むと、そのまま気絶するように寝てしまった。


(……やっぱり、うちって汚い裏の人間にゃ)


 そんな事を思いながら─────

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