由莉は二つの出会いを経験しました
(つ、着いたよ〜……ここ……だよね。うんっ、間違いない)
目的地に付くとそこには住居がありその門の前に黒服の男の人がいた。由莉はそれを見ると少し行くのが怖くなったが、ここまで来て帰るのはいくら何でも野暮だと、色々諦めながらその人の元へ向かった。
────……怖い……すっごく怖い。凄い気配だし金髪にサングラスってヤ◯ザだよ……でも、ここまで来たからには行くしかないよね……
「あ、あの……すみません……」
「……っ!……お待ちしておりました。こちらへ」
「は、はい……」
────あ、あれ……? びっくりされた……? なんでだろ……だけど、すごく優しい声……雰囲気もなんだか優しくなったし……この人、悪い人じゃないのかも。
由莉は急に優しそうな雰囲気を宿した男に誘導されるままに、とてとてと少し不安げな足取りで進むと、扉の前に案内された。
「少し待っていてください」
「はい……」
その男にそう言われ由莉はその場で止まると、その男が素早い指のこなしでパネルの数字を十何桁と打ち込む。その様子を由莉は興味津々で見ていた。
────137949342940512367……ちょっと長いけど、これくらいなら……
長い数字の羅列をその男が打ち終えると重厚な金属の扉が音を立てて開かれる。中の冷たい空気が扉の前にいる由莉を包み込む。それはまるで…………黄泉の世界のように、真っ暗な冷気。入ったら最後、戻っては……来られない。
由莉は一度目を閉じてその前で深呼吸すると、躊躇いなく自分の足で扉の先を踏み抜いた。
────何があっても……進むって決めたから
堂々と通り過ぎる少女の姿にその男は何かが琴線に触れたように顔を少しだけ緩ませる。この子には……何かある、と。
中へ入り、鉄の階段を何段も降ったその先に由莉を待っていたのは……、
「うわぁあ……!」
(ここって……まさか射撃場!?しかもすごく広い……1km……いやもっとありそうだよ……?日本にこんな場所があるなんて聞いたこともないよ……!?)
そこに広がっていたのは周りを強化された鉄筋コンクリートで囲まれた射撃場だった。そして、その床には大小様々な銃が由莉が来るのを待っていたかのように並べられていた。拳銃やアサルトライフル、ショットガン、マシンガンにスナイパーライフル……etc。由莉には見た瞬間に分かった。
───これって……全部本物の銃だ……! モデルガンとかそういうものとは全然違うよ! すごい……っ! これ、ワルサーP38だ……っ! あっ……これはAK-47だ! 日本にこんな銃があるなんて……どういう……こ………と…………!?)
銃が大好きな由莉はそれらの銃を目をキラキラさせて見ていた。そして……数ある銃の中で一番端にある銃に目が移った瞬間、心臓がトクンと少し早くなったのがわかった。自分と同じくらい……いや、それ以上に大きくて黒く光っていて……特徴的なフォルムで……由莉が己の命と同等の存在だと唯一思わされた、『あの子』に……会えたのだ。
「……バレットM82A1だ……! 本物だ……私の……大好きな銃! 会えた……本当に会えちゃった! あははっ」
胸の高鳴りが止められなかった。ゲームで戦闘している間も、クソまずいご飯を食べている時も、痛みに狂わされそうな時も、どんな時だって考えていた。『この子』に実際に会えたらどれだけ嬉しいんだろうって。
由莉は……一目惚れをした。胸をときめかせて、おもちゃを貰った子供のようにぴょんぴょん飛び跳ねた。
─────あぁ……もう嬉しくてなんて言ったらいいのか分からないよ……っ!
触っていいかも分からなかったが、由莉は自分の愛銃を触らずには居られなくなってその側まで駆け寄った。実際に近くで見るとその黒光りする巨大な銃に圧倒されてしまう。同時に、ゲームの中でこの子をずっと使っていたんだと思うとすごくドキッとした。
由莉はバレットを立てようとして持ち上げようとしたが、その銃の重さに驚いた。それもそのはずだ。バレットM82A1の重さは約13kg。それは由莉も知っていたが普通の女子ならまず持たない重さであったからここまで重いとは思ってなかった。由莉は何とか持ち上げて銃を起こし、ネットで見た事のある伏射姿勢をとった。
(すごいよ……本物に出会えるなんて……夢じゃ……ないんだよね)
由莉は夢にまで出てきたこの銃に触れられてもう幸せでいっぱいだった。この冷たい感触すら愛らしく、銃底にぷにぷにのほっぺたをすりすりさせる。
────はわわぁぁ……私、この子と本当に一緒にいるんだ……すごい……撃ってみたいけど……流石にダメだよね……?
「気に入ってもらえたかな?」
「はいっ! …………? ひゃっ!?」
突然、後ろから声がかかり由莉はピクっと体が強ばった。恐る恐る後ろを振り返るとそこには黒髪にオールバックのかなり厳つい顔の男が立っていた。
この出会いが───全ての始まりだった。
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