肌色の猫

肌ざわりばかり

ありふれる楽譜に

漕ぎ出された音符が

落日をつげるとき

おまえはおまえの夜啼きで眼を醒ます

体熱を隠す遠吠えに

軋む関節が会釈する

動ける獣は扇風機だけの

あてどなく崩れゆく台所

こぼれる蛇口のうつむく秘密を

手のひらでふさぐほどに

視界は日付のない

わたしの人面瘡でいっぱいになる

降りしきる臓腑のレイヤーで

引き裂かれる口封じの供儀

張力が抱きしめるすべての水は

傷痕になりそこねる日々として

肌の裏に爪痕が砂を噛む

暑気がみなぎる油彩の町も

氷嚢として斃れ込んだまま

黒々と晴れわたる空が

天蓋ではないとは知らなかった

白い指先が艶めいても

逃れゆく輝きは指輪ではない

光源が歯痛にばけるとき

めざめる閨では肌色の猫が

毛布の底に吊るされている

肌色の尾を闇にからませて

こすれゆく一足ごとに

硝石のにおいが隆起する

遠くの野焼きで外来種の血が

ロクタル管のしたたりを身ごもり

きつね雨の葬列が

束ねられた神経をほどくたび

眼をつむり

心臓をつむる

冷たい花火を吐く

鉄の月

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