ピクニック

紙の鷺の鳴き濡つ沼地の朝のことである

私たちの袂からピクニックが飛び去ったのは


奇矯な翼の震戦が赤気を帯びて畑を撓ませ

路傍に凝れる私生児は火宅の馬鈴薯に氷河を聴く


ピクニックの猛々しい腋窩は胡蝶が夢見るほどに淫らで

その軌跡は櫓に縺れて糸屑となって地上に注がれ


異国の敵機は剥がれた根雪と黒い冬瓜に日陰を翳して

指を汚して掘り起こした蛹を私たちは口に運ぶ


すると葡萄色に暮れなずむ風が綴られなかった出納帳を

繰るたび君臨する倦厭が家路を経ての沈黙の引き攣れを


引き連れて辿り着いた母屋の驟雨に艶めく三和土の青い

月に照らされて塩を撒かれて湖面に映える乙女座の白い


発疹の鳩尾と乳房の銅を掻き毟っては呻吟する母

床擦れの浸みた藁の寝床に横たわり汗ばんでいると


赫灼たる火熨斗の姦通に

鷺の紙絵は燃え上がり

同じ頃


異国の凍土に舞い降りたピクニックは河口の廃墟に

真夏の白夜と瀉血の銀と大腿骨の波打ち際に

万年筆の趾が踊る

踵を切り落とされにゆく

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