解放
「さて、ヴィンセントよ」
国王陛下の声が響く。
「お前は先ほど、その娘を連れ戻しに来たと言ったな。本当にそれだけなのか?」
どういう意味だろう。思わず花咲きさんを見上げる。
「我輩が王位継承権を主張しに参ったとでも思いましたか? まさか。そんな事はありえないと断言しましょう。我輩とこの娘に、今後一切の危害を加えないと約束してくださるのなら」
花咲きさんが私を引き寄せるので、思わずその身体にしがみつく。
「王位よりその娘を取るというのか」
「ええ。勿論。ジーンは両方を手に入れたがっていたようでしたが、我輩もこれだけは譲れません。それに、亜人である我輩には王位継承権など無いも同然。父上も判っていらっしゃるでしょう? 今すぐ我々を解放して頂けませんか?」
国王陛下は暫く何事か考えていたようだったが、やがて口を開く。
「わかった。お前たちの身の安全は保障しよう。誰か、馬車を用意しろ。この二人を居住区まで送るのだ」
「それはありがたい。聖印を晒したままで街を歩きたくはありませんから」
確かに、今の花咲きさんが人通りの多い場所を歩いたら、聖印の存在によって王子だとバレてしまう。だからこそ国王陛下はそのような提案をし、花咲きさんはその申し出を受けたのだろう。
「それではお達者で。父上」
「ヴィンセント。お前もな。もう逢う事もないだろうが」
「ええ。わかっております。私はこの国の一市民に過ぎませんからね」
どこか冷めたような親子の別れ。これも一つの家族の在り方なんだろうか。
私達は国王陛下や家臣たちの見守る中、馬車に乗る。
座席に座ると、すぐに馬車は動き出した。まるでこの場所から私達を追い出すかのように。
家に帰りついて扉を開けると、懐かしい香りがした。絵具や画材の匂い。またここに戻ってこられるとは思わなかった。わずかな間離れていただけだというのに、すでに懐かしい。
と、その時、腕を強く引かれる感触。
気づけば私は花咲きさんに抱きしめられていた。
「ユキ。無事でよかった」
「私もです。もう逢えないかと思っていました」
私も花咲きさんの背中に手を回す。温かい胸の感触。いつもの花咲きさんだ。
不意に、抱きしめられる力が強くなった。
「ユキ。昨日の答えを言っていなかったな。我輩もお前の事が好きだ。お前に告白されて、やっと自分の気持ちに気づいた。馬鹿みたいに鈍い男だったんだな。我輩は」
花咲きさんの囁きに、胸の鼓動が早くなる。
「ほ、本当に?」
「ああ、神に誓って本当だ。これからも一緒にいてくれるか? 我輩にはお前が必要なのだ」
その言葉に、胸が熱くなる。本当に好きな人からの愛の告白。これ以上幸せで素晴らしい事があるだろうか?
「勿論です。ずっとずっと一緒にいます」
私は胸に顔を埋めながら答えた。
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