ショートショート

草野 優

ナオとハナ

「ごめん、私ナオと付き合うことになった・・・」


教室に入って席に付くと斜め前に座っているナオと目が合った。瞬間、反らそうとして手を軽くあげるとナオも手をあげかえした。昼休みが終わった5時限、私の目はうっすら赤みを残している。


「ナオのこと好きになっちゃったの」


授業は半分目をつむっていた。寝ていたわけじゃない。さっきあの子が言った言葉を何度も頭の中で繰り返していた。あの言葉を忘れないように、記憶に一言一句間違えずに焼き付けるために。


「ハナが好きだってわかってるけど私も好きになっちゃって・・・」



休み時間の教室、ざわめきに背をむけて窓から外を眺める。実際景色なんて眺めてはいない。さっきあの子が言った言葉を何度も何度も頭の中で繰り返して目はどこを見るでもなく泳いでいる。

-私、マゾっぽい

痛みを得た言葉を記憶に焼き付けようなんてバカなのか。


「どーした?」


その声が先か腕に腕が当たるのが先か、その方を向くとナオがぴったり並んでくっついている。考えなくてもその声が誰かなんてすぐわかるのに、声を掛けられて驚いたフリをして言った「なんでもない。」


「つーか、なんでくっつくのよ。バカなの?彼女が見たら悲しむじゃん。」そんな綺麗ごとを思いついたけど自分のバカさ加減とナオのバカさ加減が一緒でうれしくて言葉にしない。ナオと私がぴったりくっついて、それこそあと数センチでキスできる距離にいることをあの子が見てればいいのにと思った。

ナオが言わないなら私から聞かない。


私が女の子から女になった時だった。

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ショートショート 草野 優 @yukono

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